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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第二章 椿姫
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Level.52『俺と遊んでよ、君が壊れるまで』




 萩と獏、そして葵の3人が我沙羅との抗争を繰り広げている最中――。


「……はぁ、はぁ、っ、早く」


 板谷 楓は暗い迷宮の通路を一心に駆けていた。


 戦場からひとり、尻尾を巻いて逃げているわけではもちろんない。

 戦場から逃された楓の役割は、いち早く椿姫のメンバーに救援を求めることにある。

 なぜなら楓が人質から解放された今、我沙羅が最初に提示した条件はすでに意味を成さなくなったからだ。

 【狂犬】野良井 獏の予期せぬ裏切りという形で、我沙羅が企てた梁取 葵を殺すための計画が頓挫した瞬間から状況は一変している。


 好機なのだ、これは。

 大阪で悪事の数々を働いてきた犯罪集団《我沙羅》を一網打尽に検挙する千載一遇の機会が今、この瞬間だ。

 この機を逃せば我沙羅は再び闇に潜むだろう。

 そんなことはさせない。

 これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。


 椿姫の精鋭ウェイカーが一同にこの場に駆け付ければ、理不尽な数の不利はなくなる、どころかレベル6【赤鬼(ブラッド・デビル)】赤松 秀彦やレベル7の【白鬼(スモーキー・デビル)】樛 誠人。或いはクラン椿姫のマスターにして、国内でも40人程度しか存在しない不敵のレベル8【櫛刺し姫】簪刺 茜が抗争に参加しさえすれば形勢は逆転、一気にカタがつく。


 しかし現状、萩や葵が圧倒的に不利なことに変わりはない。

 椿姫の救援が到着する前に葵や萩たちが殺されていまう可能性の方がずっと高いのは事実である。

 全ては楓にかかっていると言っても過言ではない。


「急げ、早く椿姫のみんなに知らせるんだ……!!」


 救援を呼ぶという重要な役目を担う楓は更に足を逸らせる。だがその一方で、楓の本心は底知れぬ罪悪感に囚われていた。


 ――全部、ぼくのせいだ……っ。


 初めから楓が人質に取られてさえいなければ、葵も萩もこんなにも危険な目に合うことはなかった。

 全ては楓に力がなかったことが悪い。

 無力は罪だ。楓に力があれば、自らこの状況を打開することだってできたはずなのに。

 萩たちの力になれず、足を引っ張ってしまった不甲斐なさを楓は歯痒く思う。

 だが、それでも――。


「待ってて萩くん、葵さん……!!」


 後悔するのはすべてが終わった後でいい。

 今はただ、走れ。走るんだ。

 託された希望を前へ紡ぐために。

 迷宮(メイズ)の出口。異界門(アビス)が見える。

 楓は一目散に門へと向かって走った。

 迷宮の外に出られれば、携帯の電波が届く。

 そうすれば、助けを呼べる。

 出口はすぐそこだ。

 あと少し、もう少しで――。

 楓の緊張が緩んだ、まさにそのときを狙ったかのように。


「え?」


 ――ドッ、と。

 勢い良く左肩を押されるような、鈍い衝撃。

 体幹が崩れる。

 門の出口が大きく迫ってくる。

 半ば転がるように、楓は門の外に身体を投げ出した。


「やっ……ぅっ……ッ」


 360°、急に風景が変わる。

 門の外に出られたのだ。

 しかし暗い。迷宮内とは打って変わって、門の外は色濃い暗闇に包まれていた。

 それもそうだろう、時刻は22時を超えている。

 明けていた視界が外の宵闇に対応できず、瞳孔が暗転する中で、辛うじて地面が視えた。

 左に傾き、バランスの崩壊した身体。

 このままでは数瞬後、地面に衝突する。

 なんとか受け身をとろうと、楓は咄嗟に前に出ていた左腕を地面に伸ばした――刹那。


「ぁ、――ッぅっ!?」


 左肩から背中にかけて、鋭い痛みが走る。

 楓は反射的に左腕を引っ込めた、が。この状態から態勢を立て直すことは難しく、左側に傾いていた楓の身体は慣性に従い否応なく左肩から地面に着地した。


「ぐ……ッ、ぅぅぅっ!!」


 硬く冷たい地面の感触を諸に受け、再び左肩を激しい痛みが貫く。

 受け身は失敗し、楓は無様に地面を転がった。


「っ……、なにが――……」


 ドクドクと脈動する左肩に恐る恐る視線を下げていく。

 宵闇の中、まるで己の存在を主張するかのように光る銀色の煌めき。

 ナイフだ。

 楓の左肩にはナイフが突き刺さっていた。

 肩を焼く灼熱の痛みに犯されながら「なぜ?」と、疑問を抱く楓の鼓膜を、


「だめじゃないか、逃げようとしちゃ」


 蜂蜜のように甘い男の声音が揺らす。

 弾かれるように楓は顔を上げた。

 声の聞こえた方、即ち門の出入り口。そこからひとりの男が姿を現す。

 チロチロと舌を出し、背筋の凍るような薄い笑みを口元に浮かべて伏見 啓助は舐めるような視線を楓に向けている。


「逃さないよ。俺と遊んでよ、君が壊れるまで」

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