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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第二章 椿姫
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Level.37『我沙羅』




 初めから、嫌な予感はしていた。

 空が曇り、雨が降ってきたときから――。





 異界閉門(アビス・クローズ)の影響で迷宮(メイズ)が震え、天井に連なる鍾乳石が崩れて地面に落ちた。

 

「うっ、ごほごほ……ッぅ」

「楓……っ! 大丈夫か!?」


 赤くなった喉を抑え、楓が何度も咳き込む。

 それ以外に目立った外傷はなさそうだと安堵する一方、楓をこんな目に合わせたあのふたり組に対する怒りが萩の中で沸々と煮え滾る。

 大きく深呼吸を繰り返し、ようやく呼吸の落ち着きを取り戻した楓が態勢を起こす。


「……うん、一応。大丈夫。でも、ごめん。一般人を守るのがぼくの役割りだったのに」

「何言ってんだ、楓は悪くないだろ!?」


 萩は拳を握りしめた。

 例のふたり組を睨みつけながら、


「祥平さん。あいつらのこと、知ってるんですか?」

「ならず者の集まり。〝我沙羅(ガシャラ)〟の連中だ」

「ならず者の集まり……」


 すると、それを聞いた巨漢の男――漆木が可笑しそうに「くっくっく」と喉を鳴らした。


「おいおい、そんな物騒な言い方してんじゃねぇよ。仮にもテメェの古巣だろうがよォ」

「―――」


 依然、祥平はふたり組を見据えたまま動じない。

 漆木が言った。


「こっちに戻ってくる気はねぇか?」

「申し訳ないっすけど、さらさらねぇ」

「そうか。残念だ。まぁ、そう言うと思ってたがな」


 祥平の返事に「くっくっく」と再び喉を鳴らし、漆木はゴキゴキと手の骨を鳴らす。

 どうやら、和解の選択はないらしい。


「萩。まだやれるか?」

「俺は大丈夫ですけど。でも祥平さん、あいつ……」

「ああ、わかってる。漆木の兄貴は俺がやる」

「ひとりで、大丈夫ですか……?」

「心配すんな。俺を誰だと思ってんだ、萩? お前こそ、気をつけろよ。獏は強ぇぞ」


 心配そうに頬を硬くする萩に、祥平は頬を緩めて余裕を見せる。

 そのとき、うずくまっていた楓が顔を上げた。


「ぼくも、まだ戦えます……っ」

「楓……」

「ぼくだって、椿姫の一員です。みんなが戦ってるのに、ただ見てるだけなんてできない」

「……わかった。なら、萩と楓は獏を頼む」


 祥平達の会話を黙って聞いていた漆木が「ようやくか」と首の骨を鳴らした。


「だ、そうだ。獏、テメェはあっちの元気そうなガキ共と遊んでろ」

「殺したほうがいいっすか?」

「どうでもいい。好きにしやがれ」

「うぃっす。……祥平の兄貴は」

「うちを抜けた連中は誰だろうがぶち殺す。それが我沙羅のルールだ」

「……うぃっす」


 両チーム順次話し合いが終わり、戦いが始まろうとしていた。

 祥平が眉間にシワを寄せる。


「悪ぃな、今まで黙ってて。この戦いが終わったら、全部話すからよ。だから今は……」

「――祥平さん」


 祥平の言葉を遮るように、萩が言った。


「俺達はパーティーですよ。祥平さんが昔どんだけ悪いことやってても、俺や楓は軽蔑なんてしたりしない」

「うん、祥平さんは祥平さんです。無駄な心配なんかしなくて大丈夫ですよ。ぼく達の知ってる祥平さんは、強くて優しくて、面白い。仲間のために命を張れる、そんなカッコイイ祥平さんですから」


 そう、萩と楓は断言する。


「それで、みんなで焼肉行きましょう!」

「もちろん、祥平さんの奢りですけどね!」


 何があっても祥平は祥平だと。

 過去に何があろうと、祥平へ対する評価が変わることは決してないのだと。

 俺達は、祥平さんの味方(パーティー)だと、そう言いきって。

 

「……ああったく、立つ瀬がねぇよ。ほんとに」


 祥平は、肩の力を抜いた。

 本当にいい後輩を持ったものだと、心からそう思った。

 それから、祥平は再度グングニルを持つ手に力を込めて、


「きっと葵さんが駆けつけてくれる。それまで耐え凌ぐぞ萩、楓! 全員、生きて帰って焼肉だ!」

「「はい!!」」


 そうして、最後の戦いが始まった。







「ずいぶん信頼してるんだな。その葵ってやつを」


 向かい合う漆木に、祥平はへへっと鼻を鳴らした。


「あの人は、強いっすよ。葵さんに斬れねぇもんはないっすから」

「へぇ、そりゃ楽しみだ。テメェをぶっ殺した後にでも葵って野郎と遊んでみるか」


 そう言い、漆木は獏と戦うふたりの男に視線を向けた。


「あっちのガキはテメェの子分か? 蜥蜴種(リザードマン)との戦闘を見た限り、多少はデキる用だが、獏はレベル5だぜ」

「へへっ、そりゃどうっすかね。レベルなんつーのは所詮身体能力の数字だし。んなこと言ったら萩はレベル0っすしね」

「なんだそりゃ。まぁなんでもいいか。さて、そろそろこっちも始めるか」


 漆木の腕が黒く変色していく。

 それを見て、祥平は小さく息を呑んだ。

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