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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第二章 椿姫
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Level.17『月日は流れ季節は巡る』

はーい更新忘れて早くも毎日更新途絶えました笑




 白銀の荒野を彷徨う男は夢を見る。

 それは温かな夢だ。

 母親がいて。仲間がいて。そして親友がいる。

 帰るべき場所があり、帰らなければならない世界がある。

 それは記憶の残影にして過ぎ去りし過去の欠片。

 破片と破片とを紡ぎ合わせた理想の断片。


 夢から覚めた男は再度歩み出す。

 男は白銀の荒野を踏み締め、何処とも知らぬ道を逝く。

 嗚呼、果たして男の進む先に、男の目指すべき場所はあるのだろうか。

 果たして待ち受けるは希望か?

 それとも辿り着くいた先にあるのは絶望なのか?


 それでも男は、終わりなき荒野を彷徨い続ける。

 すべては全てを終わらす為に。

 破滅という名の冀望だけが、男の足を動かし続けていた。





 季節は巡り、時は過ぎていく。

 それは警察に追いかけられる下着ドロの如く、青春が過ぎ去るのはあっという間だと誰かが言っていた。たぶん隆之介さんのことだと思うけど。

 TPO的にこの例えはどうなのだろうと再検する余地が大いにあるが、ひとまず置いておいて。

 1ヶ月前、俺は春ヶ丘東桜高等学校を卒業した。

 

「あれからもう、2年か……」


 ウェイカーになると両親に話したあの日から。

 能力に覚醒したあの瞬間から。

 少しずつだが俺は前に向かって歩き始めた。

 青野先輩達より一足先にバスケ部を引退した俺は、高校に通いながらウェイカーの下積みを積んだ。と言っても本業は学生なので、アルバイト程度の感覚で、休日異界攻略(レイド)の時間が合えば参加するといった具合にだけれど。


 物事にはなんにでも順序というものがある。

 能力者になったからといって、早速異界の最前線で活躍できるかどうかと問われば、実際のところ無理な話だ。

 無理というか無茶というか無謀でしかない。

 考えてもみてほしい。ある日突然鉄砲を渡され、使い方や構え方もままならないまま敵地に攻め込むようなものだ。

 まだ能力者として覚醒したてのひよっこが、ろくに心象武装(オクトラム)の制御もできずに迷宮(メイズ)に行っても死ぬのは道理である。

 そんなことはひと握りの天才にしかできない。


 まずウェイカーは自らの心象武装(オクトラム)を理解し、己の能力を把握するところから始まる。自分の能力で何ができるのか。何ができないのかを知る必要がある。

 もちろん心象武装(オクトラム)の制御は一朝一夕で身につくほど簡単な代物ではないし、完全に支配し手足のように操るためにはそれなりの時間がかかる。

 大半のウェイカーはある程度心象武装(オクトラム)を操れるようになった時点で迷宮(メイズ)に潜り、モンスターと戦いながら実践の中で心象武装(オクトラム)を練磨する。

 レベルも上がるしその方がよっぽど効率的だ。

 しかしその基礎を適当に済ませた大半中の大半が、レベル3からレベル4の境でレベルが止まっているのもまた避けがたい事実である。

 

 俺はこの2年、自らの心象武装(オクトラム)を鍛えることに時間を費やした。

 幸い部活を辞めた俺には自由な時間がたっぷりあったし、身内に優秀な家庭教師(ウェイカー)もいる。

 毎日毎日毎日毎日同じことの繰り返し。

 部活と一緒だ。努力の反復と、練習の積み重ね。

 辛いだとか飽きただとかそんなことは思わない。

 心象武装(オクトラム)や能力の練習は面白いし、自分の成長を実感できる。何より俺自身がやりたくてやっていることに辛いも何もない。

 好きでやっているのだから。

 地道に丁寧に積み重ねていく。

 そうしてあっという間に2年の月日が経過した。


「ここからだ! ここが俺のスタートラインだ!」


 高校を卒業した俺は、晴れてウェイカーとしての道を歩き出した。




 



 ウェイカーギルド栃木春ヶ丘支部にて――。


「おう遥斗! おつかれ〜」


 後ろから声をかけられ、遥斗は振り向いた。

 声の主は全身鎧を装着した中年ウェイカー(あきら)さんだった。


「おつかれ様です、晶さん。見回り終わったんすか?」

「おうよ! 俺んとこの区画は本日も門の出現なしと。日頃の行いの成果だなぁこりゃあ! ガッハッハッハ!!」


 晶さんは屈託のない顔で豪快に笑う。

 今年で50歳になるらしいが、これでも栃木ギルドの親方みたいな人で、ウェイカーになったばかりの頃は遥斗も晶さんに随分お世話になったものだ。


 人柄が良く面倒みもいい。地域の評判も良く、子ども達からは親しみを込めて"カラフルおじさん"なんて呼ばれ方をされている。

 そのあだ名の由来は晶さんの装備にある。

 晶さんのつける装備はメーカーや色彩なんかは部位毎にバラバラで一貫性が欠片もない。そればかりか装備のほとんどが戦いで傷つき摩耗しきっている。


 以前、遥斗が『その鎧いい加減買い替えたらどうなんですか?』と指摘したところ、当の晶さんには『防具なんか買う金ありゃ美味い酒でも飲んだほうがいい』と笑い飛ばされたこともあったっけ。


「なんだなんだぁ遥斗! 最近なんかいいことでもあったかぁ?」

「え、なんでですか?」


 急に晶さんが遥斗の顔を見てニヤッと笑う。


「なんかいい顔してるなぁと思ってよ!」

「いい顔、ですか……」


 ペタペタと自分の顔を触って確かめてみるも、いい顔かどうかなんて遥斗にはわかりっこない。

 いつも通りな気がするし、どちらかと言えば寝不足で目元のあたりが浮腫んでいる気もするが……。

 

「いやなに、この前見たときにゃ死にそうな面してたからよ」


 晶さんは顎髭を手で擦りながらそう言った。

 ああ、そのことかと。

 遥斗自身、心当たりがないわけではなかった。

 死にそうな面か、と遥斗は苦笑した。


「まぁ、色々吹っ切れたってのはありますかね」


 ここにはいない生意気な後輩を思い出し、遥斗は頬を緩めた。


「諦めたふりして何もしないなんて、俺らしくもねぇ」


 それを受け晶さんはニカっと笑う。


「いい顔になったじゃねぇか。よし。んじゃ今日はマッサージでも行くか! 景気づけに!」

「いいっすね。俺も最近肩こりひどくて」

「40過ぎると背中に来るぞ。ウェイカーなんてやるもんじゃねぇな、まったくよぉ!」


 それから晶さんは思い出したように話題を変える。


「そういや、萩のやつは就職決まったのか?」


 ウェイカーという職業は国家資格だ。

 しかしひとえにウェイカーと言っても、協会が経営するギルドに所属するウェイカーと、個人が設立したクランに所属する2通りのウェイカーがいる。

 その多くは前者である。


 社会には個人が経営する大小様々な企業が存在するが、それはウェイカー界隈に置いても例外ではない。

 総勢100人以上のウェイカーが在籍する大型クランから、数人規模から成る小型クランまで。クランとはある意味会社と同義と考えていい。

 有能な者はより大きなクランに所属することができるが、実力の劣る者は雇ってすらもらえない。

 そんな者達の救済措置こそがギルドである。


 都道府県全国47ヶ所に設置してあるギルドとは、クランで雇ってもらえない、もしくはクランに入らないウェイカー達に仕事を与える場所。言ってみればウェイカー達のハローワークなのである。

 

「あー、えと……関西行くらしいっすよあいつ」

「ほぉ、県外でたのか萩のやつ。寂しくなるなぁ」

「そうっすねぇ」

「でもまぁこんなとこで一生パートやるよかいい。遥斗もそろそろクランに入ったらどうなんだ? レベル3なら雇ってくれるとこ多いぞ今」


 パートウェイカーとは、クランと違って誰でも入れるギルドに所属するウェイカーの蔑称だ。

 異界(アビス)に潜りモンスターを殺す、同じウェイカーであることに変わりはないのに、差別や偏見はどこの世界に行っても変わらない。


「適当に小型クラン入るくらいならギルドでパートやってた方がまだマシっすよ。それより、最近新たな野望ができたんす、俺」

「あー、日本一のクランのマスターになるとかなんとか言ってたやつか」

「辞めました、それ」

「辞めたのか」

「はい。俺、気づいたんすよ。日本一のクランなんて世界から見たらちっぽけだってことに」

「ほぉ。それで?」

「俺、世界一のクランを作ります!」

「ほぉ、次は世界一か!」

「まぁ、見ててくださいよ。そのうち俺の名前が世界中に響き渡る予定なんで!」

「そりゃ楽しみだ。俺の寿命が尽きるほうが早そうだがな! ガッハッハッハ!」

「そう言う晶さんはどうなんすか?」

「何いってんだ俺ぁもう50だぞ? 同年代のウェイカーなんかはだいたい引退してるっての」


 晶さんはまたガッハッハッハと笑って、それから話を戻した。


「そんで、萩の入ったクラン名はなんてんだ?」


 その質問を受け、遥斗の心臓が大きくはねる。

 遥斗は恐る恐る口を開いた。


「大阪の……椿姫(ツバキ)ってとこです」

「ツバキって……まさかあの〝椿姫〟か!?」


 途端、晶さんは目を丸くした。


「すっげぇな! 大型クラン……しかもクラランベスト5だろ!? ウェイカー歴2年の新米、言っちゃ悪いがレベル0のあいつがよく採用されたよなぁ」

「ハハハ……」


 興奮気味に饒舌になる晶さんに対し、しかし遥斗は目を伏せ気味に半笑いを浮かべている。

 それを察してか、晶さんの笑みが固まった。


「なぁ遥斗。まさか……まさかとは思うがよ」

「……」

「派遣じゃ、ねぇだろうな……?」

「……」


 遥斗は答えない。それが答えだ。


「マジかよ、おい……」


 晶さんは深刻そうな顔で自らの額に手を当てた。


「俺はちゃんと止めたんすよ? 派遣だけは辞めとけって! でもあいつ一度決めたら聞かなくて……」

「ああ……そういうとこあるよなあいつ」

「どっちかって言うととりあえずやってから考えるタイプの人間ですからね、あいつ」

「それをお前が言うか」

「え?」

「「……」」


 ちょっとした沈黙がふたりの間に降りる。

 ふたりはどちらからともなく息をついた。


「まぁ、行ってみりゃわかんだろ。何事も経験だ」

「そうっすよね……、1ヶ月保てばいいっすけど」

「さて、どうだろうな」


 ここにはいない、自ら地獄へと足を踏み入れた後輩を思って、ふたりはもう一度重たい息をついた。

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