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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第一章 翡翠の目覚め
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Level.15『また、会おう』




 心象武装(オクトラム)の登録は紡木の進行の元、スピーディーに完了した。約一名を除き。

 イレギュラーさえなければもっと早く終わっていたのだという。そう、イレギュラーさえなければ。

 何事もなくといっていいかどうかはさておき、能力の手続きは全ての工程を無事終了したのだった。

 後は家に帰るだけ。帰るまでが遠足だ。いや遠足じゃないけど。

 

「俺、これからウェイカー登録しに行くんだけどさ、お前らも一緒にくる?」


 去り際。ウェイカー協会ギルド本部のロビーにて、佑樹は俺と莉緒に問いかける。

 能力者になった者の凡そ半数はウェイカーになる道に進む。

 ウェイカーは国家資格であると共に、異界(アビス)から出現する怪物(モンスター)を狩る戦士のことを指す。


 "国家資格"と聞けば何百時間も勉強し、難関な試験や課題をクリアしなければならないという堅いイメージを持つ者が多いだろう。

 実際国家資格とはそういうものである。

 しかしウェイカーという資格は違う。

 前にも言ったが、国はウェイカーを求めている。

 怪物(モンスター)に対抗するために、より多くのウェイカーを欲している。

 国が設けた戦力増強のための救済措置。

 それがウェイカーという国家資格なのだ。

 それゆえウェイカーになるための登録は非常に簡単で、何枚かの書類にサインをし身的障害などを確認するだけといったもの。学歴や職歴などは一切問われず、能力者なら15歳以上から誰でもなることが可能だ。

 だから講習会が終わったついでにウェイカー登録をする能力者はかなり多い。


 こんなふざけた国家資格があってたまるか!?

 議員の誰かが国民の声を代表して声を上げた。

 その罵声に対し、違う議員が言う。

 なら、あなたはモンスターと戦えますか?

 自衛隊の銃や戦車でさえ殺せないモンスターを、ウェイカー以外のだれが殺せますか?

 そう、それが答えだ。

 モンスターは覚醒者(ウェイカー)にしか殺せない。

 ウェイカー登録は何枚かの書類にサインをするだけと言った。その書類の1枚にはこう記されている。


 モンスターとの戦いで死亡した場合の責任はすべて自己責任とし、国は一切の責任を負わない、と。


 ウェイカーは能力者の誰もがなれる国家資格であるとともに、死亡というハイリスクを伴う危険な職業なのだ。

 それでもウェイカーになる者は後を絶たない。


「ついでだし、あたしも行くわ」


 佑樹と莉緒も、そのうちのふたりだ。

 ふたりはすでに、ウェイカーになる覚悟を決めていたらしい。

 莉緒の返答を聞いた佑樹が、今度は俺に視線を向ける。


「萩は?」

「俺は……」

 と、俺は一度開きかけた口を閉じた。


「今日は……いいかな。疲れたし、帰るよ」


 そう言って、曖昧に笑う。

 すると佑樹は残念がるそぶりも見せず、ニカっと表情を緩めた。


「そっか。わかった! んじゃまたな、萩」

「ああ、また」


 そう言葉を交わすと、佑樹は俺に背を向け歩き始める。

 それだけだった。

 佑樹は振り返らない。

 あと引かぬ、スッキリとした綺麗な別れ。

 佑樹は俺に何も聞かなかった。

 一緒にウェイカーになろうぜ、とか。

 なんでウェイカーにならないんだよ、とか。

 その優しさが嬉しい反面、今の俺には少し痛かった。


「萩」

「……」

 俺の名前を呼んだのは莉緒だ。

 莉緒の甘緑色の瞳が、真っ直ぐ俺に向けられる。

 その美しいエメラルドの瞳は、まるで俺の心を見透かすように言う。


「未練なんて邪魔なだけよ。後悔なんか時間の無駄。時間は巻き戻らないし、ましてや止まってなんかくれやしない。あたし達は前に進むしかないの」

「莉緒は……強いな」


 俺がそう溢すと、莉緒は不敵な笑みで応える。


「あったりまえでしょ。あたしは天海 莉緒よ。1度や2度の挫折や絶望で立ち止まっていられるほど、ヒマな人間じゃないわ」


 そして莉緒も俺に背を向けた。


「あたし達は先に行ってる。だからあんたも早く追いかけて来なさい、萩」


 そして莉緒は歩きだす。

 いや、進みだす。

 前へ。

 未来へと。

 新たな道を歩みだす。

 未練や後悔といった過去へ背を向けて。


 ロビーに残されたのは……残ったのは俺ひとりだった。

 佑樹と莉緒の背中が見えなくなった頃、ぎこちない愛想笑いが剥がれ落ちた。

 ひとり、俺は呟く。


「またな、か……」


 佑樹の口にしたその"またな"は友達としてまた会おうぜの"またな"なのか。

 それとも――。


「早く追いかけて来い、か」


 わたし達は先に行くけど、あんたはいつまでそこにいるの?

 莉緒の挑発じみた笑みが思い起こされる。


「ふぅ……」

 俺は一度、大きく息を吐いた。

 気づけば、やたらと苦しかった胸がいつの間にか軽くなっていた。


「ありがとな。佑樹、莉緒」


 未練はある。

 後悔も消えない。

 けれど、迷いはもうなかった。


「また、会おう」

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