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レベル0のイレギュラー  作者: 椋鳥 未憐
第四章 黒百合
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Level.137『関東大型クラン〝黒百合〟』




 多くの観光客とすれ違いながら俺は雑踏を行く。

 春ヶ丘市から新幹線と電車を乗り継ぎ3時間以上。

 現在地は神奈川県 横浜市 西区。


 片手にはスマホの地図を。そしてもう一方の手には中華饅頭を。

 先ほど買ったばかりの蒸し立てホカホカの中華饅にかぶりつくと、大量の肉汁が口内に溢れだす。


「あっつあっつ。やっぱ本場は違うよな。なんというか味が違うよな」


 とかなんとか言いつつも、俺の貧乏舌ではコンビニで売っている中華饅と味の差異はぶっちゃけわからない。でもこういうのはどこで食べたのか、誰と食べたのか、そして雰囲気が重要なのだ。ひとりだけど今。


 流石は神奈川だなとかなんとか現実逃避の独り言を呟きながら、地図の通りに市内を歩くこと20分。


 スマホの地図が目的地を告げる中、俺は顔を上げる。

 そこにはギルド協会東京本部に負けず劣らずの高層ビルがそびえ立っていた。


「えと、ここで……合ってるよな?」


 外壁が黒で統一された巨大なオフィスビル。

 ここが日本最強のウェイカー 十司 迅 が率いる大型クラン【黒百合(ランディーニ)】の拠点(ホーム)で合っている……はずだ。


 以前期待を裏切られた経験のある俺は、疑い深い視線で地図とビルとを交互に往復させる。

 どうやら本当にここで合っているみたいだ。何度も確認したから間違いない。


「……よし、行くか」


 緊張を孕んだ面持ちで俺はビルを見上げ、そして入り口の自動ドアからビルの中へと足を踏み入れた。


「ふおぉ……っ」


 入り口の自動ドアを潜った先にはエントランスルームが広がっていた。

 ビルの外観と同じく内装も統一感のある黒。

 天井も高く、まるで高級ホテルにでも入ったかのような印象を俺に与えた。

 

「こんにちは。ようこそクラン《黒百合(ランディーニ)》へ。ウェイカーの方とお見受けしますが、入団希望でしょうか?」


 きょろきょろと内装を見回す俺に気づいたフロント受付のお姉さんが声をかけてくれた。


「はい。一昨日連絡を入れた織﨑 萩です。黒百合に勧誘されて来たんですが」


 フロントへと進み、俺は迅さんから渡された名刺を受付のお姉さんに見せると、お姉さんは「拝見させて頂きます」と言って名刺を確認し――目を丸くした。


「この名刺は……まさか迅さん直々の勧誘!? すみません織﨑様、上の者に連絡致しますので少々お待ち下さい!」


 受付のお姉さんは一度頭を下げ、呆然とする俺を他所に大急ぎで傍らの社内用受話器を手に取り通話をかけ始めた。


「もしもし、フロントです。迅さんから勧誘を受けたというウェイカーの方が受付にいらっしゃっていまして……はい、確認しました。迅さんの名刺で間違いありません。……はい。お手数おかけしますが、よろしくお願い致します」


 会話の端々から緊迫感が感じられた。

 もしかして迅さんの名刺だと何か不都合なことでもあるのだろうか。

 はい、はい、と通話越しに頷く受付のお姉さんが通話を終えてこちらへ振り返る。


「織﨑様、お待たせ致しました。只今、クランマスターの迅さんは異界攻略(レイド)で出払っており、代わりにサブマスターの方がいらっしゃるそうなので、正面のソファーに掛けてもう少々お待ちください」


 わかりました、と頷き俺はソファーへ向かう。

 なるほど、迅さんは異界攻略(レイド)中なのか。

 レベル9の迅さんが前線に出るってことは、恐らくかなり高レベルの門だったのだろう。


 そんな迅さんの代わりに来るという《黒百合(ランディーニ)》のサブマスター、いったいどんな人なのだろうか。

 一応面接の準備はしてきたけどちょっと緊張する。

 優しい人だといいなぁ、なんてことを思いつつ、ソファーに腰を下ろそうとした、そのときだった。



「あーーーーーっ!!」



 突如エントランスに響く女性の大きな驚き声に、びくり、と俺は肩を震わせた。

 反射的に声の方を振り返る。俺を含めたエントランスにいる全員の視線が集まる先には、たった今エレベーターから降りてきた少女の姿があった。


 金髪にツインテール。

 少女の前に〝美〟がつくほど整った顔立ち。

 身長は少し低めで、適度に筋肉のついた細身の身体。多分ウェイカーだ。()れば理解(わか)る。

 服装は短パンにへそ出しのTシャツと露出が多い。その上から黒百合のエンブレムが入ったジャケットを1枚羽織っている。


 年の瀬が俺と変わらない少女は、まるで幽霊でも見つけたみたいな顔で甘緑色(エメラルド)の瞳を大きく見開きながら、俺に向かって人差し指を向けていた。


「萩! あんた、織﨑 萩!?」


 なんだか見覚えがある顔のような気がしないでもない……。

 記憶を遡るまでもなく、案外すぐに少女の名前を思い出した。

 あれは確かそう、俺が心象武装(オクトラム)に目覚めた3年前、ギルド講習会を一緒に受講した――。


「莉緒!!」


 彼女の名前は天海(あまみ) 莉緒。

 講習会で知り合った、勝ち気な少女。


『未練なんて邪魔なだけよ。後悔なんか時間の無駄。時間は巻き戻らないし、ましてや止まってなんかくれやしない。あたし達は前に進むしかないの』


 あの日彼女が口にした言葉を俺は覚えている。


『あったりまえでしょ。あたしは天海 莉緒よ。1度や2度の挫折や絶望で立ち止まっていられるほど、ヒマな人間じゃないわ!』


 彼女の自信に満ちた不敵な笑みを俺は覚えている。


『あたし達は先に行ってる。だからあんたも早く追いかけて来なさい、萩』


 挫折と後悔に苛まれていたあのときの俺に、莉緒が言葉をくれた。道を示してくれた。

 彼女の言葉がなければ、もしかしたら俺はウェイカーをやっていなかったかもしれない。


 そんな莉緒との再開は素直に喜ばしいことだった。

 ウェイカーをやっていればいつか再開できると思っていたが、まさか本当に会えるとは。でも疑問がひとつ。


「久しぶりだな、でも莉緒がなんで黒百合(ここ)に?」


「それはこっちの台詞よ! なんであんたがここにいるのよ!? ってか生きてたなら連絡返しなさいよこのバカっ!!」


「あー……異界攻略(レイド)中にスマホを失くしちゃってさ」


「スマホを無くしたぁ?」


「返信できなくて悪いと思ったんだけど、連絡手段がなくてさ、ごめん!」


 ほら、俺達メールアプリしか知らなかっただろ、と気まずい顔で俺が言い訳を重ねると、


「はぁ、何やってんのよあんた……」


 莉緒は呆れ顔で嘆息した。


「最後に連絡を取り合ったのが異界攻略(レイド)前だったから、死んだんじゃないかって心配してたのよ。まぁそんなことだろうとは思ってたけど」


「そう言えばそうだったな、心配かけてごめん」


 謝罪を口にしつつ、俺の視線は莉緒の薄っすら縦線の入った美しい腹筋――ではなく、ジャケットの黒百合の徽章に吸い寄せられていた。


「ところで、莉緒って……黒百合のメンバーなのか?」


「そうよ。去年から黒百合に所属してるわ。まさかあんたも黒百合に入るつもりなの?」


「ああ、そのつもりで今日来たんだけど……迅さんが異界攻略(レイド)中らしくてさ、代わりにサブマスターの人? がもうすぐ来るって」


 へぇ、と莉緒は何か思うように眉を潜めた。


「言っとくけど黒百合の入団試験は厳しいわよ? あんたレベルは?」


「『0』だけど」


「ああ、そうだったわね。忘れてたわ。ていうかあんたなんか開き治ってない?」


「まぁ俺、4年もレベル0なわけだし。いい加減0にも慣れたって言うか」


 自信満々に答えると、なにそれ、と莉緒は笑った。


「でも、面接官が律さんとなると正直マズイわね」


「マズイって何が?」


「ほら、うちって曲がりなりにもクララン1位の大型クランでしょ?」


 曲がりなりにもというか《黒百合(ランディーニ)》はクララン不動のトップ。

 迅さんが台頭してからここ数年は、連続でトップを維持し続けているからこそ日本最強のクランと言われているわけで。


「毎月数十人の入団希望者が試験を受けるんだけど、合格できるのは最低でもレベル4以上のウェイカーの中から2、3人ってとこかしら」


「最低でもレベル4、か」


 大阪《椿姫》の求人は最低レベル3のウェイカーから募集をかけていると以前、楓に教えてもらった覚えがある。

 同じ大型クランでもやはり黒百合は敷居が高い。

 倍率にするとどれくらいになるのだろう。


「中でも律さん――サブマスターは量より質を重視する『超実力主義』。律さんが担当する試験を合格できるウェイカーは1%以下って聞くわ」


「1%……っ!?」


 1%ということは単純に100人に1人の割合。以下ということは実際もっと低いのだろう。


 迅さんに直接勧誘されたとは言え、簡単な面接や試験があるんだろうなぁ、とは覚悟していたつもりではあるが、これは本腰を入れて望まなければ入団試験に落とされる可能性が浮上してきた。


 そもそもレベル0の俺は試験を受けさせてもらえるかどうか怪しいところでもある。


 そんな俺の不安を察してか、莉緒は開き直るように端整な顔に笑みを纏い直した。


「まぁ、大丈夫よ。あの人はルールに厳しいけど、少なくともレベルだけ見て試験を受けさせないなんて真似はしないから安心なさい」


 基本メンバーには優しいのよあの人。まぁ頭は硬いけどね、と莉緒はそう付け加えた。


 ルールに厳しくて、メンバーには優しい。

 それだけ聞くと《Grow》の頭脳ことチコ先輩の人物像が思い起こされる。

 あの人も口調がツンデレなだけで仲間思いだし。


「──誰の頭が硬いんですか?」


 ふと、落ち着いた男性の声が会話に割って入る。


「誰ってり――」と、名前を言いかけた莉緒の表情が凍った。

 


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