第6夜.驚愕のご褒美
午後7時。
会社の定時はとうに過ぎている。
来週クライアントと打ち合わせをする際に持っていかなければならないデザインがまだ仕上がっていなかったから、残業をするハメになってしまった。
今日は金曜日。
デザインも仕上げたし、ちょっと飲んで帰ろうと思っていつものバーにふらりと立ち寄る。
会社からほどよく離れた場所にある隠れ家のような店。
初めて知ったときは、こんなところにバーがあったなんて、と驚いたものだ。
ちょっと行けば駅もあるし、かと言ってゴチャゴチャとしていて騒がしいわけでもなく。
むしろ薄暗い明かりの灯された店内は上品で落ち着いている。
私が訪れる時にやっているのを見たことはないが、きっと演奏家をよんで弾かせるのであろう真っ白なピアノがダーク系で纏められた店内からそこだけ浮き上がっていて、どこか神聖な雰囲気を感じさせる。
私は店内に足を踏み入れて、迷わずカウンターの右から三番目の席に座った。
「こんばんは、銘崎様。今日はお仕事のお帰りですか?」
定位置に座っているとマスターが話しかけてくる。
すっかり常連なので、マスターも手馴れたものだ。
いつも私が一番最初に飲むカクテルを静かに目の前に置いてくる。
「はい。今まで取り組んでいた企画のデザインがやっと完成したんです。だから、ちょっと自分へのご褒美に。」
来ちゃいました、と話す私に「それはよかったですね。お疲れ様でした。」と返事をしている間にもマスターは次々と客の注文を捌いている。
う~ん。いつ見てもマスターの手捌きは職人技だわ。
流れるような作業から次々と綺麗なカクテルが出来上がるのを見ているのはおもしろい。
そんなカクテルができる過程をぼんやりと見ながらちびちびと自分のお酒を飲む、それがいつものここに来たときの習慣になっていた。
こうしてぼんやりと時を過ごしていると、あの日の夜のことが頭に浮かぶ。
目を閉じると、まぶたの裏に詩藤さんの姿が見える。
あれからいつもあの日の詩藤さんを思い出す。
彼のことを思うたびに胸の奥がきゅっと苦しくなる。
時間が空くとひたすら彼のことを考えてしまう。
だからだろうか。
不意に見知った声が聞こえてきたときは飲んでいたものを噴出しそうになった。
「おやおや、これは珍しいお客様ですね。2ヶ月、いや、3ヶ月ぶりじゃないですか、詩藤様?」
詩藤って、まさか―――――――――!?
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