第21夜.俺サマな香り
「じゃね、メイ。あんた、その弛んだ顔元に戻してから詩藤さんに会わないと幻滅されるわよ。」
昨日の今日で、再び詩藤さんとデートする約束があったから、いつもはエントランスまで一緒に出る春花とは更衣室で別れた。
去り際に春花が言った言葉も最もで、今日一日気を抜けば自然に頬が緩んでいて何度も呆れた目で見られるということの繰り返し。
尊敬している上司にも「銘崎~、彼氏でも出来たか?」なんて笑われてしまって、すごく恥ずかしい思いをした。
「よし…っと。」
念入りにリップを塗りなおして、完全装備で意気揚々と更衣室を出る。
今日は、詩藤さんも仕事でこの近くに来るらしいから、会社から徒歩5分のカフェで待ち合わせ。
ゆっくり行っても時間には十分間に合うのに、早く彼に会いたくて、心なしかだんだん早足になっていく。
「銘崎さんっ!」
飛び出すようにエントランスを抜けたとき、不意に誰からか呼ばれる声を聞いた。
「田中さん・・・。」
私を呼びかけた人物が彼だと気がついた瞬間、思わず眉間に皺を寄せてしまった。
それに気づいているのか、気づいていないのか、田中さんは構わず近づいてくる。
「今から帰宅?偶然だね、僕もこれからなんだ。あ、そうだ。よかったらこれから食事でもどう?ほら、この前は光富さんに邪魔されちゃったけどさ。今度こそ二人で・・・」
「あ・・・あの、田中さん?残念だけど、私、この後予定があるの。だから―――――――」
「予定って。僕との食事を断らなくちゃならないくらい大事な用なのかい?だって、久しぶりだろ?二人の時間が合うこと。」
どうしてかしら。
今日に限って田中さんと鉢合わせてしまうなんて、すごく運が悪いわ。
それに、私には田中さんに付き合う義理がない、というかそんな関係すらない。
以前に一度だけ田中さんが落とした書類を拾ってあげただけ。
その時礼を言ってきた田中さんに少しだけ微笑んだのがいけなかったみたい。
なんだか、その後から私が恋人になったかのように振舞われていて。
・・・いつもなら春花がうまく対応してくれるんだけど、私はどうしてもこういうのは苦手。
何か言っても、打てば響く、という感じでどんどん返ってきて、どうにもこうにもできなくなってしまうから。
でも、今日だけは自分でなんとかしなきゃ。
詩藤・・・・いや、朔夜さんとの待ち合わせにももう時間がない!
「た、田中さん?だから、私この後用事が入っているから・・・」
意を決して口を開いた私に、田中さんはさらにいろいろ言ってくる。
「そんなの他の日にすれば良いだろう?用事ってなんなんだ?まさか、他の男と約束しているのか?許さないぞ!君って人は、僕というものがありながら・・・――――――――――」
「僕というものがありながら・・・、なんなんだ?華音、お前は俺の女だろう。」
矢継ぎ早に質問を繰り出す田中君に狼狽していると、不意に嗅ぎ慣れた香りと温もり、そして、こんな俺サマな言葉が降ってきた。