第17夜.勝ちたい賭け
これは賭けだ。
俺自身の欲望との賭け。
俺がバスルームを出るまでに華音が家を出なかったら、俺の勝ち。
潔く華音に気持ちを伝えよう。
そして、そのまま華音と甘いひと時を過ごす。
そして、俺がバスルームを出る前に華音が家を出たら、俺の負け。
諦めるつもりは毛頭ないけれど、もうしばらくは逃がしといてあげよう。
これは相当自制心を働かせなければならなくなるだろう。
さて、どうなるかな。
と考えながら、俺は超特急でシャワーを浴びる。
自分で勝手に賭けといてなんだが、やっぱりやるならば勝ちたい。
勢いよく出てくるお湯でスピーディーに、尚且つ火照った熱を冷ましていく。
「・・・ふぅっ。」
正味5分とかからなかったのではないだろうか。
いや、それは言いすぎか。
それでも10分弱で風呂をあがる。
華音はまだベッドの中なのだろうか。
人が家の中を動いている気配はしていない。
・・・もしかして、すでに帰っているとか。
そんな風に、悪い状況を予想しているときだった。
不意にカタンという音が聞こえてくる。
今の音はきっと寝室からだろう。
華音が起きたんだ!
そろそろと猫が忍び足で歩いているような気配が部屋からしてくる。
カタタンと時折華音がたてる物音は、そのたびに俺の心臓を跳ね上がらせる。
待ってくれよ、華音。
まだ湿り気のある体のまま下着を穿き、パンツを身に着ける。
こうしている間にもだんだんと足音がこっちに近づいてくる。
やばい!
風呂場の先はすぐ玄関だ!
無我夢中でシャツをはおり、ボタンもそこそこにそこを飛び出した。
髪から水が滴っていてシャツの襟元を冷たい水滴が湿らせているが、そんなことには構っていられない。
そして、華音が玄関のドアノブに手をかけた瞬間。
思わず手を伸ばし、その小さな身体を胸の中に閉じ込めた。
「もう帰っちまうのか?だが、タイムオーバーだ。」
そんな殊勝な言葉を吐きつつ、間一髪で間に合ったことに安堵している自分に気がついて、思わず心の中で苦笑いをしてしまった。
やっと華音視点の話まで追いつきました。
引っ張っちゃってごめんなさい;