第16夜.耳と尻尾の隠し方
目が覚めたら、いつもと天井が違った。
いや、こう言うと少し語弊があるな。
天井は間違いなく俺の部屋のだ。
ただ、なんかこう、雰囲気が違うというか、とりあえずいつもと違うっていう違和感を感じたんだ。
首は窮屈そうに竦められ(実際とても窮屈なのだが)、右足は床に投げ出されている。
おまけに背中はカチカチで、起き上がることを考えると憂鬱になる。
俺が今、こんなになっているのも昨日ソファーで寝たからだ。
正直、日本人にしては大きい俺にとってソファーなんてもので寝るということは拷問に近かった。
でも、今の気分は最高だ!
こんな窮屈なソファーで寝た後なのに、だ。
なぜかって?
・・・・・・知りたい?
教えてやんねーよ!
なーんて、いつもの俺じゃありえないくらいのハイテンションで起き上がる。
ソファーのスプリングが大げさに跳ねたって気にしない。
起き上がった勢いそのままでスキップしそうなのを抑えつつ、足音を忍ばせてそっと寝室を覗いた。
覗いた瞬間、思わず笑みがこぼれる。
俺の姫様はすっかり俺のベッドを気に入ったみたいで、ぐっすりと眠っていた。
忍び足で彼女の傍らまで寄り、その安らかな寝顔に思わずキスをしたくなった。
ダメだ、朔夜。
今ここでそんなことしちまったら、今まで築き上げてきた信頼が崩壊するぞ!
頭の片隅で俺が警笛をならす。
でも、でもだぞ。
こんなに無防備な顔して寝ているのに、狼が黙っていられるわけないじゃないか!
一瞬。
もんの一瞬だけ。
我慢が出来なくなって、ゆっくりと顔を近づける。
唇が触れたとたん、止め処ない至福が俺を襲った。
やわらけぇ・・・。
発情期の高校生みたいにキスひとつでいけ・・・・いや、なんでもねぇ。
とりあえず、すごく気持ちよかった。
しかし、それも束の間のこと。
「・・・んーぅ・・・。」
華音が覚醒し始めたのだ。
もそもそと布団の中で動き出す。
しょうがねぇ。
このまま起こしても狼の耳と尻尾を隠し切る自信がない。
いっそ、このまま寝起きの華音を襲っちまうか、とも思ったけれど、華音の前では今はまだ紳士な俺でいたい。
焦る必要はないんだ。
そう言い聞かせ、俺はむにゃむにゃと寝ぼけて可愛い華音を横目に、未練がましく思いながらバスルームに向かった。