第14話.狼気分で持ち帰り
「ありがとうございました。」
送ってくれたタクシーのおっちゃんに挨拶をして、車から降りる。
いつしかぐっすりと眠ってしまった華音を横抱きにして、マンションのオートロックを開ける。
眠っている人間を抱えたまま鍵を開けるのはなかなか難儀なことで、数分ほどごそごそとエントランス前で手間取ってしまった。
エレベータで自分の部屋のある階まで直行して、やっとのことで部屋に到着した。
さて。
どうしようかな、このお姫さまを。
起こさないようにそっと華音を自分のベッドに横たえながら思案する。
華音とは毎週金曜の夜に会うことにしているので大抵スーツ姿で約束の場所に現れる。
今日もまさに会社帰りだという風な格好で、細身のパンツのカジュアルスーツだった。
このまま寝かせたら、服は皺になるよな。
さすがにスーツは皺になったらまずいだろうし。
上着だけでも脱がせとくか。
化粧は・・・。
そこまでしなくていいか。
俺、化粧落としとか持ってねぇし。
てか、そこまで男にされたらいくらなんでも嫌だろう。
そう考えがまとまった俺は、いそいそと行動にとりかかった。
気分はなんだか、無防備な子羊を前に舌なめずりする狼だ。
ぐっすりと眠っている華音の上着のボタンを外していると、襲ってしまいたいという支配欲となんともいえない罪悪感に苛まれる。
ただ、スーツが皺になるのはよくないと思って脱がせてやるだけだ。
決してやましい考えなど・・・・・・、あるけど。
そんな風に頭の中で変な言い訳を繰り返しながら、ゆっくりと上着を脱がせた。
それだけでも、華音が起きるんじゃないかと緊張して息を潜ませながらの作業だった。
他意もなく、華音の首元を緩めてやろうとシャツのボタンを二つはずす。
すると真っ白な鎖骨が露わになり、ガラもなく狼狽してしまった。
今日、華音がパンツスーツでよかった。
これがスカートにストッキングだったりしたら・・・。
「くそ・・・っ。」
しかし一度見てしまったものは鮮明に脳裏に焼きついてしまい、火照った頭を冷やすために俺は悪態をつきながら風呂へ向かったのだった。