第12夜.華音の受難
「銘崎さん、俺、今日は一緒に帰れるよ。駅前においしいパスタのある店を紹介してもらったんだ。食べに行こう?」
就業時刻直後、帰ろうとしていた私にある一人の男性が話しかけてきた。
あ~~。
まただわ。
思わず顔がひきつる。
今日は朔夜さんと食事に行く日だから早く帰りたいんだけどな。
隣で聞いていた同期の光富 春花はまったくの他人事なので、知らん顔して笑っている。
「ごめんなさい。今日はすでに用事が入ってて・・・・・・。」
「そんなの、違う日でもいいだろ?断れよ。せっかく俺と帰れるっていうのに。」
どうしよう。
っていうか、断れって!
なんて自分勝手な人なの。
そんな彼の言葉に憤慨し、どうして断ろうかと考えあぐねていると、彼は続けて言う。
「それよりそこの店でさ・・・」
それより、ですって!
あなたにとって私の用事なんて「それより」で終わらせられるくらい軽い問題なんだわ!
そして、私が一緒に食事に行くことはすでに決定済みなのね。
あぁ、急いで次の断る理由を考えなくっちゃ。
「だめよ、田中くん。メイは私と出かける予定なの。あなたなんかとの食事とは比にならないくらい大事な用事よ!だから諦めてちょうだい。」
そこで、見かねた春花が助け舟を出してくれた。
持つべきものはやっぱり気の利く友人よね。
「光富さん・・・。いいだろう?今日くらい銘崎さんを譲ってくれても。また今度、俺の予定が詰まっていて彼女と一緒に過ごせない日にしてくれないか。」
「なんですってぇ!?どうして私があなたの予定に合わせてメイと過ごさなきゃいけないのよ!だいたいね、あなた、メイが断っている時点ですっぱりきっぱり諦めなさいよ!往生際が悪いわね!」
春花の次から次へと繰り出されるマシンガントークに彼もたじたじ。
そのまま春花に言いくるめられて、すごすごと退散していった。
彼も、悪い人じゃないんだけどね・・・・・・。
春花のパワーにやられてしまった彼に、少し同情した。