第9夜.子猫のワルツ
今回の話ではいろいろと音楽的知識が盛り込まれていますが、私自身は幼いころにピアノをかじったくらいですので、ご容赦くださいませ。
また、間違い等ございましたらぜひともご指摘願います。
ピアノの椅子に腰掛け、なめらかに指を滑らせる。
ワルツ 第4番ヘ長調op.34-3 「子猫のワルツ」。
一般的には子犬のワルツの方がメジャーで、その影に隠れているような曲。
犬好きの人が『ワルツ 第6番変ニ長調op.64-1』を聞いて、子犬がじゃれて遊んでいるようだ、とその曲を「子犬のワルツ」と呼ぶようにしたことに対抗して、『ワルツ 第4番ヘ長調op.34-3』を猫好きな人が「子猫のワルツ」と呼び始めたのだとも言われている。
所詮子犬のワルツの影に隠れている曲。
知っている人は、あまり興味がない人にはまったくいないんじゃないか?
だけど、俺は子犬のワルツよりこっちのほうが好きなんだ。
初めてこの曲を弾いたとき、四分の三拍子の曲なのに右手だけ弾いていると四拍子にしか聞こえなくて、三拍子と四拍子が混ざった変な曲、そう師匠に話したら何故か怒られた記憶がある。
『三拍子だ!』ってな。
だけどさ。
少しだけ幼き俺を弁護させてくれ。
タラララ、タラララなんてリズム、どう聞いたって四拍子だろ?
まぁ、三拍子か四拍子か、うんぬん、なんてことは置いといて。
とりあえず、『子猫のワルツ』って言うだけあって、ホントに子猫が鍵盤の上を転げまわってるみたいな曲なんだ。
結構な速さで弾いてるのに、音が飛ぶ、跳ねる!
くるくると鍵盤の上を音が動き回るんだ。
まるで華音の瞳みたいに。
外面はかわいくって愛らしくって、無条件に甘えさせてやりたくなるんだ。
だけど、そのまんまるな瞳は常にきょろきょろと忙しなく動いていて、なんにでも好奇心旺盛。
いたずら好きで、それはいつもキラキラと輝いている。
かのん。
いつからか、目が離せなくなっていた。
カノン。
キミとのやりとりが、楽しくって仕方がなかった。
華音。
いつの間にか、こんなに好きになっていたんだ。
共有した時間はこんなにも少ないのに。
キミはあっさりと俺の心を奪ったみたいだ。
いたずら好きの仔猫ちゃん。
どうか、その気まぐれな瞳を俺だけに向けて?
そして、俺は最後の一音を弾きあげた。
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