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《魔帝》VS《炎帝》


「行くぞぉ!」


 アレスは掛け声と共に魔剣を上段に構え突進する。シンは姿勢を低く駆ける。


 大剣の間合いに入り勢いよく振り下ろす、直前シンは加速と共に姿勢を高くし蹴り上げる。


「ッ!?」


 刹那の接近。先に振り切られんとする紫紺の刃をアレスは紙一重で大剣で防ぐ、が。満足する体勢で受けきれず押し切られるも後方に飛ぶことで難を逃れた。


(な、なんだ今の動き…!速い上になんて力だ)


 驚きつつも追撃に警戒して構えるアレス。本人が驚くのも無理はなく体格差、魔剣の重量の両方がアレスの方が圧倒的に重いにも関わらず受けた刃の重みは計り知れなかった。


“勝てそうか?”


 アモルスが問いかける。


「勝つに決まってんだろ!だが、油断なれねぇのは今のでよく分かった」


 再度突進するアレス。しかし今度は大振りする構えではなく正面に構えたまま突き進む。立ち竦むシンに胴体に向かって突くが上半身を揺らしかわすと反撃に刃を振りかざす。


 しかしアレスはそう来ることを読んで突きをうった後即座に腰と膝を下ろし右に旋回。反転してから大剣を振り上げるように足腰を上げる。シンの刃はすでにアレスに向けられていたが軌道をずらしそのまま受け止める。


「うらぁあ!!」


 遠心力と足腰の力、それと自身の力。その全てを叩き込んだ一撃。常人であれは防御不可能に等しい一撃をシンは片手に握る魔剣一本で受け止めた。


「なっ!?」


「おもっ」


 渾身の一撃を防がれ驚きを隠せないアレス。シンも予想外の威力に驚いているようではあったが薄い感情だけしか漏らさなかった。


“《魔帝》と言ったな貴様”


「ッ!!アレスの魔剣?」


 知らない声。しかしどこか覚えのある響から直ぐに魔剣の声だと認知するシン。


「何してるアモルス!戦闘中だぞ!」


 刃を押し切られんとふんばるアレスが声を荒らげる。


“俺に何かようか?”


「ちょっと《魔帝》まで」


 《魔帝》が《炎帝》の声に応じる。


“何者だ?ただの魔剣ではあるまい”


“さぁな。そんなこと勝負が終わってから幾らでも聞けるだろう”


 魔剣同士が会話を始めシンは剣を弾いて後退した。


「喋らると迷惑なんだけど。あとなんで他の魔剣の声聞こえるわけ?」


“あっちから喋り掛けてきたんだろうが。魔剣同士が触れていると触れている相手の魔剣の声も俺を通して聞こえるんだよ”


 えーと嫌な顔をするシン。しかしそれはアレスも同じらしく。


「おいアモルステメェなんのつもりだ!」


“すまない。少し気になってな”


「気になるって何がだよ」


“お前も、あの人間が只者じゃないと思ってる同様我もあの魔剣がただの魔剣じゃないと思っている”


「そりゃあいつの魔剣が《帝》の魔剣だからか?」


“あぁ。《魔帝》などという魔剣は聞いたことがない”


「《帝》の魔剣?」


 シンは首を傾げる。


“魔剣にはそれぞれ別称がある。ヴィネニクスが俺の名前なら《魔帝》が別称。ざっくりというがこれに《帝》の名がついていればそれは一種の最強を示す。奴の魔剣が《炎帝》なら炎属性最強の魔剣ということだ”


「でも《魔帝》にも《帝》ってついてるよ。もしかしてなにかすごい能力あったり?」


“あるが使いこなせていない時点で使うのは止めておけ。事前に教えたやり方だけだ”


「分かった。どうやらあっちも魔剣とのお喋り終わったみたいだね」


「悪かったなうちの魔剣がちょっかいかけちまって!」


「それじゃあ行くよ」


 互いに構えを取り駆け出す。


 千差万別の魔剣でも統一されて同じ能力がある。それは身体強化。魔剣と契約すると一日二日体が熱せられる様に熱くなることがある。その時魔剣から力が送られ契約者の肉体を強くしている。


 しかし強化限度は魔剣によりことなり《帝》の魔剣のであればより強い強化を受けられる。


“奴も我も同じ《帝》だが恐らく奴の方が強化限度が高い。力でなく技術で勝負しろ”


「分かってんだよそんなこと!」


 間合い五メートルでアレスは地面に向かって大剣を振り下ろす。吹き荒れす砂埃に周囲一帯の視界が悪くなる。


 アレスはここで足を止めたシンの背後をとるつもりだった。故に回り込んで容赦なく振りかざす。


「ッ!いない!何処に…!」


 一撃目を外せばアレスにもシンの居場所は分からない。しかしそれはシンも同じ筈だろうとしていると。


 カコン。


「そこか!」


 背後から音がして一閃を振り抜くが、それは空を切った。その風圧で砂埃が晴れ視界が見えるなっていく。


“後ろだ!”


「ッ!?」


 アモルスの声に即座に反応して背後を向くとシンが今にでも魔剣を振りかざす体勢に入っていた。


「こんっ……のぉ!!」


 気合いの掛け声出大剣を振りかざす瞬間にはシンの一撃を受けていた。


「ぐぅ!」


 直撃だった。しかしシンは手応えをあまり感じなかった。事実アレスも切られて数歩後退りながら切られた箇所に手を当てているだけで明らかにダメージは少ない。


 それもそのはずだった。そもそも切れていなかったのだ。シンも殺すつもりではなかったが致命傷を負わせるつもりではいた。


「もしかしてこのローブ?」


「なんだよシン。知らなかったのか?」


 シンが疑問を口にするとアレスが答える。


「学院で支給されるローブは特殊な魔力糸で作られていて今みたいな中途半端な一撃なら全然平気なんだよ」


 そう言いながら手を離せば確かにローブすら切れていなかった。


「それと今の一撃で分かったことがあるぞ」


 アレスは勝ち誇るかのような笑みを向ける。


「お前魔剣どころか、剣の扱いも知らねぇだろ」


「うん。そうだよ」


 シンはあっさり認めた。


「チッ。別に隠してたわけじゃねぇのか。」


 調子が狂って舌打ちする。アレスは後ろに飛びシンと距離を置いた。追撃を警戒したがシンは棒立ちしたままなにもして来なかった。余裕の態度に歯ぎしりをたてる。


「……なんで攻めねぇんだよ」


「別に。警戒してるだけだよ」


「警戒?まぁいい。もう容赦しねぇ。やるぞアモルス」


“ようやくか”


「あぁ。なぁシン、お前俺が魔剣の扱いを聞いた時嘘でも初めてだって知られねぇ方がいいぞ。自分から弱点晒してるようなもんだからな。《炎帝》」


 最初と同じように大剣を上段に構える。魔剣の名を告ると炎が吹き出した。


「魔剣の扱いが分かんなきゃこれは防げないだろ」


「使うみたいだね。『魔技』を」


 『魔技』。魔剣の能力を行使した技であり魔剣使いの本領。


「くらいやがれ!《炎帝・火山》!」


 炎を纏ったまま大剣を地面に向かって振り下ろす。轟音と共に叩きつけられると地面が赤く染まり炎が吹き荒れシンに向かって吹き迫る。


「行くよ」


“あぁ!”


 魔剣を空で離し逆手で握り紫紺の刃を地に刺す。


「《魔帝》」


 静かに魔剣の名を告る。 シンの回りに空気が集約し、刹那黒い衝撃波と共に地を割り周囲に暴風を巻き起こし《炎帝》の炎をかき消した。


「な、なんなんだよ……これ」


 自身の『魔技』があっさり打ち破られ絶句するアレス。


「まさかさっきのは嘘だったのか!?」


“待てアレス。今のは『魔技』じゃない。恐らく純粋な魔力の放出だ”


「だとしても威力がおかしいだろ…!」


 通常魔剣の魔力放出なら誰でも可能であるがその限度そのものは人それぞれであり人によっては一日で高出力の魔力を引き出す人も入れば全く使えない人もいる。


 アレスは最初から周りより魔剣の覚えが早かった方だ。そんなアレスでも満足に炎を放出させるのに一週間以上はかかっていた。それをシンは初めての魔力放出ですでにアレスの経験を超えていた。


「こんな……こんな馬鹿げた話がッ!?」


 怒りの感情を込み上げて我を忘れかけるが目の前でシンが剣を振り下ろしているのに気づきとっさに防ぐ。


「何者だよ……お前は!」


「……何が変なの?」


 刃が混じり合う中アレスは叫ぶ。何故この男がこんなにも苛立っているのかシンには理解出来なかった。だからこそ目を細めため息を吐いた。


「はぁ。つまり君は自分が正常でまともな人間だとでも思ってるわけか」


「どういうことだ!?」


「だってそうでしょ?自分を基準にして自分より上の人間なんかいなくて自分が一番だと思ってる。だから自分より上だと感じた相手が恐い。信じたくない、ありえないと否定する。気づいてないだろうから言ってあげるけど君は僕にずっと油断してたんだよ」


「うるせぇ!俺は第一位と戦うのに油断するわけねぇだろ!」


 剣を弾いて互いに一歩下がる。


「俺がいつ油断してたって言うんだよ!」


「油断してないってことは警戒してるってこと。逆に警戒出来てなかったらそれは油断してた事になる。思い出してみなよ。君は僕の攻撃に対してほとんど警戒出来てなかったじゃないか」


「ッ!そんなことねぇ!ちゃんと警戒してたさ!」


「力負けすることを警戒した?騙されて背後を取られるかもって警戒した?『魔技』が破られる警戒してた?」


「それは警戒じゃなくて想定だろ!」


「同じことだよ。どちらも次の手を講じる必要があるからね」


「ごちゃごちゃと!《炎帝・飛炎斬》!」


 炎を纏った刃を二度振るう。一撃目は横一文字に、二激目は縦に。


 シンは一蹴りで加速。正面に進み飛び上がり前宙でかわす。着地と同時にさらに加速、次は右か左に避けるかの二択。どっちに避けると思いながらアレスは大剣を振りかざす構えを取る。


 炎の刃をシンは右に避けるように体を逸らされる。アレスはもう一撃撃とうとするもシンはその体勢から魔剣を一直線に投げつけた。


「なっ!」


 高速で飛んでくる魔剣を振りかざそうとした体勢からでは避けられないと判断し仕方なく大剣で防ぐ。


「ほら油断した」


「ッ!」


 耳に届いたその一言にアレスは敗北感を実感した。弾かれは剣は空を舞、シンが掴みその勢いのままアレスに向かって叩きつける。


「ぐぅう!」


 歯を食いしばり全身全霊の力で振りかざされる紫紺の刃を受け止める。


「《炎帝》!!」


 炎が吹き出し退くシン。


「……なんで今魔剣の力を使わなかった?舐めてんのか!?」


「舐めてないよ。単にあの体勢からじゃ僕まで吹っ飛びそうだったし」


「あぁそうかよ。んじゃこれで終いにしてやるよ」


 またも上段に構え炎が吹き出す、が。先程とは火力が桁違いだった。


“不味いぞシン。恐らくこの威力は防げない”


「防げないか。なら、切れる?」


“それを決めるのは俺じゃないな”


「そうだね」


 片手に持ったまま剣を空に突きつける。


「《炎帝・業火烈塵火山(ごうかれつじんかざん)》!!」


 正真正銘アレスの最強の一撃。振り下ろされた燃える刃が地面を溶かすように吹き荒れシンに迫る。


 シンもまたこの一撃に渾身の力を込めて放つ。


「《魔帝》!」


 刹那、世界が割れた。


 振り下ろされた黒い斬撃は炎だけでなく空を切り裂き地を割った。


 一瞬切り分けられた世界でアレスはひとえに感じていた。自分では届きえない領域の座を。地に膝をつき震える双眸にはまるで本物の悪魔が映っていたようだった。


「勝負あり!勝者、騎士シン!」


 ユミルのコールで決着がつきシンはユリスのもとに歩み寄る。


「勝ったよ」


「うん。実に見事だった」


 微笑み合う二人の横でエンネアは膝から崩れ落ち魂が抜けたように口を大きく空いて固まっている。


「あんたの魔剣が凄すぎてうちのご主人様が腰抜かしたのよ」


 横に立つフェリスが腕を組んでため息混じりに言った。


「とにかく勝ててよかったわね」


「うん。ありがとう」


 勝利に浸る空気の中アルベルトは膝をついたアレスの前に立つ。


「どうしたアレス?」


「……申し訳ありませんアルベルト様」


「なぜ謝る?」


「アルベルト様のお顔に泥を塗ってしまったことです」


「そうか。まずは立ち上がって顔を上げろ」


「…はい」


 主の命のまま立ち上がる。


「私の顔に泥を塗ってしまったか。それで?」


「俺は負けてしまったんです!アルベルト様の騎士でありながら黒星など」


 悔しがりながら拳を握り締めるアレスをアルベルトは静かに見つめる。


「何か勘違いしているようだが、私はお前を騎士として迎え入れた時から負けることなど想定済みだぞ」


「え」


「馬鹿なのかお前は?騎士として高みを目指すのは誰もが同じこと。それをアレスだけは無敗?無敗の騎士だから偉いのか?私はそんなつまらん騎士などはなからいらんさ」


「そ、それは一体どういう」


「アレス、お前は何故負けた?」


「ッ!じ、自分が未熟だったせいです!」


「何が未熟だった!」


 アレスは言葉に詰まった。負けた理由、それはただ未熟だったからではないから。


「……俺は自分のことを驕っていました。《帝》の魔剣に選ばれて、アルベルト様の騎士に選ばれて。自分こそが選ばれた強者なのだと。ですが、あのあの男に惨敗して分かりました。俺は全てが未熟でした。そして力だけではどうにもならない事を知りました!」


「そうだ!」


アルベルトはアレスの肩をガっと掴む。


「お前はまだまだ弱い!弱いからこそ成長する!何故私がお前を騎士として選んだか分かるか?アレスこそ私をより美の高みへと導く騎士となれると感じたからだ!」


 肩を離し前髪をかきあげる。


「私の顔に泥を塗った?そんなもの幾らでも塗るがいい!それが私をより輝かせる!黒星など幾ら有ろうと構わない、最後に私が頂点に君臨してさえいればそれでいいのだから!」


 両手を天に掲げるその姿にアレスは胸を打たれる。


「お前に覚悟はあるか我が騎士アレス。この私を至高の高みへ導く様をこの目で見る覚悟が!」


 アレスは片膝をつき魔剣を正面に掲げる。


「主の喜びが我が喜び。主の進む道こそ我が正道。この命ある限り騎士アレス、アルベルト様に全てを捧げる覚悟です!」


「ならば立ち上がれ騎士アレス!」


「はい!」


 覇気が高まるアルベルトとアレス。二人はユリスとシンのもとに立ち対峙する。


「覚悟しておきたまえよユリス」


「こちらのセリフだよアルベルト」


 互いの双眸を見合って予期せぬ未来の宣言をする。


『王になるのは━━━━━私だ!』

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