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その名は


「で……これはどういうことですか?」


 午前の授業が終わり、お昼食堂でテーブルを囲うように座る二組の主人と騎士、そして片方の隣に座る侍女。


 教室でアレスから決闘の申し出を受けた直後担任らしき教師が入ってきた為、その場を後にされそれからなんの接触もないまま食堂へ向えば互いの主人が一緒にいたため現在に至る。


 問いたのはフェリスだった。


 これ、と言うのはフェリスの横で半泣き状態のエンネアのことでる。


「うぅ…ぐすっ」


 シンには当然理解出来ない状況であるがユリスは気まづそうに頬をかく。


「聞いて頂戴フェリス!久々の再開だから少し小さい頃の思い出を話してるのにユリスったら半分以上忘れてるって言うのよ!」


 エンネアが泣きつくようにフェリスに訴えるとユリスの方を向くと苦笑される。どうやら本当らしくため息を吐きながら主人と向き合う。


「一応聞いておきますけどエンネア様が捏造した思い出ではないんですか?」


「違うから!どうしてフェリスまで疑うのよ!?」


 心外だと言わんばかりに反抗するエンネア。しかしフェリスからの厳しい視線は残り。


「確かひと月前も私がエンネア様の残しておいたデザートを食べたなんて仰っていましたが、あれもデザートなんてそもそもなかったらしいじゃないですか」


「うっ」


 痛いところをつかれたらしく言葉を詰まらせる。


「まぁまぁ。本当に私が忘れてるだけかもしれないし」


「そ、そうよ!私の顔も忘れてるぐらいなんだから!」


 流石に可哀想だと思っユリスがフォローを入れるとすぐに開き直るエンネア。フェリスがまたため息をはくとユリスの隣に座るシンと目があう。


「そういえばちゃんと紹介してなかったわね。この人が私のご主人様のエンネア様。よくありもしないことを言っちゃう癖があるけど気にしないで」


「一言多いわよ!?」


「分かった」


「あなたも分からないで!?」


「そうだユリス。彼女がフェリス。僕と同じクラスで今日一日騎士としてのあれこれを教えてくれたんだ」


「そう。ありがとう、騎士フェリス」


「同じ騎士として当然のことです」


 エンネアのことはすっかりスルーされる。謙遜するフェリスの振る舞いにシンはこういうのも必要なのかと静かに頷いていた。


「ところでユリス様、無礼を承知でお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」


「遠慮せずどうぞ」


 ユリスから許しをもらうとフェリスは先に頭を下げてから尋ねた。


「何故ご自分の騎士との距離感を対等にしているのでしょう?本来騎士は主人に仕える守護者でありご自身を象徴する面影。決して軽々しいご関係にある間柄ではないはずです」


 騎士と主人は言い換えれば主従関係。そして騎士の評価がそのまま主人の評価にもなってしまうからこそ従順な存在でなくてはならない。ユリスのそれは邪道であり他人から見れば不愉快とも取れる行いなのだ。


 フェリスの問に静かにしていたユフィーが何か言いたげになるもユリスの顔を見て沈黙を貫いた。


「納得する説明はたぶんしてあげられないよ」


「構いません。ユリス様の考えをお聞きしたいので」


「そうだね。それは…」


「おやおや、何やら楽しそうだね。我が騎士からの宣戦布告を受けておきながら余裕だね」


 ユリスの言葉を遮り現れたのは茶髪で長髪の男。その男の後ろに騎士アレスがいた。


「あなたは…アルベルトね」


 アルベルト。シンはその名に聞き覚えがある。朝方アレスが言っていた主人の名だ。本来なら状況だけでそれを理解出来たかもしれないがシンには一つ気がかりのことがあった。学院指定のローブをアルベルトは着ていないのだ。着ているのは赤のトレンチコートのようなもので、それで最初から彼がアレスの主人だと気づけなかった。


「如何にも。私がアルベルト・レオ・サルージャだ。さてここに来た用だがまさか分からないとは言わないだろうな」


「私の騎士、シンとの決闘のことでしょ」


 ユリスが椅子から立ち上がりアルベルトと向き合って言った。シンとユフィーもユリスの横に立つ。


「その通り。だが私も一方的に勝負を始めてしまうのは流石に心苦しいところだ。何せ君達には拒否が出来ないのだから」


 第一位は第二位の決闘の申し出を一日に一度は受けなければならない。アルベルトの言う通りユリスに拒否権は存在しない。


「そこで日時と場所はそちらが決めてもらって構わないよ」


「そう。とのことだけどシンはいつがいい?」


「僕はいつでもいいよ。でも出来れば広いところがいいな」


 シンの言葉を聞き入れるとユリスは少し考え込みアルベルトを見る。


「なら時間は今日の放課後。第二演習場で」


 納得してアルベルトは頷こうとするとユリスが指を一本立てる。


「追加でもう一つ。ギャラリーはなし。この場の人以外決闘の様子を見に来るのは禁止にしたいんだけど」


「いいだろう。理由が気になるが大人の対応としてよしておこう。見届け人の第三者はどうする?決闘の見届け人はなるべく両者と関係が薄いもの、もしくは学院側の教師にやってもらうのがセオリーだが」


「でしたらわたくし共が引き受けてよろしくって?」


 計ったように横から入り込んだ二人の女。しかも驚くことにその二人は顔の容姿が瓜二つだった。同じローズピンクの髪にミディアム程の長さで毛先が丸められていて、同じ薔薇色の双眸。


 しかし胸の大きさだけは違って王族の生徒の証である赤のローブを着ているほうは残念な程まな板なのに対し、騎士である白いローブの方は着ているものでは決して収まりがきかない程に大きく、ある意味では違いが分かりやすい二人だった。


「あなたは……確かロリアンヌ家の」


 エンネアが知っている様に口を開いた。続いてフェリスとアレスが見開いた。


「お前、確か同じクラスにいた」


「騎士ユアン」


 名を呼ばれ胸の大きい女が丁寧に一礼して見せる。


「ユミル・セラ・ロリアンヌ様の騎士、ユアンです。以後お見知りおきを」


「騎士?どう見ても双子にしか」


「あぁそうか。思い出したよ!」


 アルベルトがユミルを見て両手を広げた。


「そうか君達だったか。王族に生まれながら騎士になる道を選び他ならぬ姉に忠誠を誓った変わり者の妹。君達がその姉妹だな」


 愉快に語るアルベルトにユミルはフッと笑みを零す。


「まあまあ。わたくし達のことなどいいでしょう?それより先程のお話の続きですけれど、わたくし、ユミル・セラ・ロリアンヌが見届け人になってもよろしいでしょうか?」


 再度同じことを口にユミル。アルベルトは構わないのかユリスに視線を送る。ユリスの本意としてはそれはあまり好ましいことでは無いがここで断っては明らかに不自然。


「分かった。それでいい」



「ねぇユリス、あの条件はなんの意味があるの?」


 放課後に第二演習場に行く前にシンとユリスとユフィーが集まっていた。


 アレスが教室で決闘を申し込んで来た為その様子が気になる他の騎士から事情を聞かれたのだが、見届け人の責任者として騎士ユアンが観戦拒否を促してくれたお陰で大した騒ぎにならなかった。


 ユリスが出した条件『ギャラリーなし』。


「そんなもの決まっているだろう」


 口を開いたのはユフィー。


「シンのS級魔剣はまだ誰にも口外されてない。更にS級がどれほど強力なのかも我々は分からない。もし魔剣の力を少し使っただけでA級とは比べ物ない力が発揮された時疑う人が出てくるだろう」


「S級だってバレるのを避ける為っていうのは分かったけどそもそも何でバレちゃ駄目なの?」


「そ、それはー……」


「それは他国の流出を避ける為だよ」


 口をもごつかせるユフィー。シンの問いにユリスが答える。


「千年前、隣国で使われたS級魔剣の力で各国の拮抗状態を打ち砕いて領土を三割も拡大させた話があるの。もしまたS級魔剣の使い手が現れればその力を奪おうとする動きがあるかもしれないらしいんだって、ミゼイリア様からそう聞いてたからあまり多くの目につかせるのはなるべく避けたかったんだ」


「そうだったんだ」


 納得するシン。


 遅れない内に決闘場所に移動する。王立学院は全部で五つの演習場が設けられているがその全てが学院の敷地内にあるわけではなく、第一演習場以外は王都の郊外に建てられているらしい。


 学院内の祭壇のような場所にやってきた。石版に謎の文字が円のように書き記してある真ん中に魔剣が刺さっている。


「これは?」


「転移装置。乗れば分かるよ」


 疑問に思いつつも言われるがままに石版の上に立つ。すると魔剣を中心に光ると一瞬にして景色が変わった。


「やぁ、ようやく来たようだね」


 アルベルトだけでなくエンネアとユミル達もすでに来ていたようだ。


 王立学院所有第二演習場。そこは転移の祭壇以外なにもなく岩山をそのまま平らにしたかのように何もない場所だった。フェリスから事前にどんな場所かは聞いていたがここはよく実技の授業によく使われている場所らしい。


「それでは決闘者が揃いましたので両者前に」


 ユミルが審判を務めるように呼び掛ける。シンとアレスがユミルの前で向かい合う。


 ユリス達は外野へと移動する。こうなっては誰であろうと中断することは不可能となる。


「いいのかいユリス、騎士の士気を上げるのも主人の役目だろう?」


「それなら大丈夫よ。シンは、私が見てるってだけでやる気百二十パーセントでるから」


「ほう」


 バチバチとする二人の主。そしてとうとう試合が始まろうとしていた。


「それでは両者、魔剣抜剣」


 アレスは背中に掛けた大剣を引き抜く。赤く燃えるような剣身。シンも腰の魔剣を鞘より引き抜く。二度目の抜剣。一度目は初めて魔剣を握る時に。そして今二度目を向え初めて人に紫紺の剣身を向けた。


「契約せし悪魔の名をここに示しなさい」


「《炎帝・アモルス》」


 アレスが大剣の魔剣の名を口にすると呼び掛けに呼応するように炎が吹く。


 魔剣と契約するとその名が無意識に魂に刻まれるように名を知ることとなる。


 シンはその魔剣の名を初めて口にする。


 その魔剣の名はー。


「《魔帝・ヴィネニクス》」


 同じく呼応して覇気を放つ魔帝。


 両者が魔剣を構え準備が整っている。それを確認したユミルは両者に向けて手を広げ一声と共に交差する。


「始めッ!」

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