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騎士アレスからの決闘


 事前に渡された書類にあったシンのクラス。騎士のクラスは一学年三クラス存在する。


 教室に入ってシンは足を止めた。


「何処座ればいいんだろ」


 曲線の長テーブルが三列階段状に並んでいた。そこで何人かが座っているがどういう順に座っているのか分からず迷っているとシンの背後に人が立つ気配がした。


「ちょっと、ここで立ち止まられると迷惑なんだけど」


「あ、ごめん」


 道を塞いでいたらしくそっと横に避けた。尖った口調で文句を言ってきたのはシンと同じ白いローブの女の子。金髪よりの白髪のツインテール。腰には魔剣らしきレイピア。


 シンの横を通り過ぎようとする瞬間エメラルドグリーンの双眸で睨みつけながらフンっと鼻を鳴らす。そんな彼女にシンは躊躇うことなく話しかけた。


「ねぇ、これって何処座ればいいの?」


 すると少女は立ち止まって気だるそうな顔で振り返った。


「……もしかして昨日来れてなかった騎士ってあなた?」


 無言で頷く。


「席なんて適当。好きなとこ座れば」


 それだけ言うと少女は三列目の廊下側の端っこに座る。シンはあとを追うようにその隣に座った。


「……なんで私の隣?」


「好きなとこって言ったから。あ、僕シン。よろしく」


 不機嫌な顔をされながらもシンは調子を変えることなく自己紹介した。


 そうすると少女は目を細めた。


「私の隣に座ったことはもういいわ。でも騎士としての自己紹介がなってないわね。本当に第一位の騎士?それ、見せかけだけじゃあないでしょうね」


 金色の勲章を指さしながら少女は言った。


「そんなんじゃああなたの主人がその程度なんだなって思われるわよ」


「ッ!」


 直後シンは少女の手を掴んだ。


「ちょ!何して…」


「お願いだ。その騎士としての自己紹介っていうの教えて欲しい!」


「え、いやだから、ちょっと!」


 少女は怖いと思った反面徐々に顔を近づかれて顔が真っ赤になってきていた。


「分かった!分かったから!教えるから手を離してそこに座る!」


「ありがとう!」


 お礼をいい座り直すシン。いきなり迫られて胸に手を置いて小さく呼吸する。


「ふぅ。それで自己紹介だけど私が見本を見せるからそれで覚えなさい」


 少女はシンと向かい合いコホンと咳払いする。


「私はエンネア・ヴァン・ミストラシア様の騎士、フェリス。まっ、こんな感じね」


「それが基本なのか。改めてありがとうフェリス!お陰でユリスに恥をかかせなくてすむよ」


「ッ?ねぇそれってユリス・ティーゼ・ララティス様のこと?」


「そうだよ?僕の主人はユリスだッ!?…」


 するとフェリスはとっさにシンの口を手で塞いだ。


「あんた馬鹿じゃないの!?」


 フェリスは顔を寄せて周囲に聞こえない声量で怒鳴りつける。目を見開くシンにフェリスは続けた。


「自分の主でしょなんでそんな気安い呼び方してんのよ!」


 フェリスは手を話すと手の指先を揃えて下に下ろし声は小さくと合図する。シンも頷く。


「ユリスにそう言われてるんだよ。様はつけずに、話し方も普通で良いって」


「だとしても時と場所ぐらい考えなさい。まぁ主にはそれだけ信頼されてるってことだから悪いこととは言わないわよ。でも他の人がいる前じゃ絶対やっちゃ駄目!ユリス様の品格を落としたくないなら尚更。そういうのはユリス様の前だけにしておくことよ」


 フェリスそう言って顔を遠ざける。


「世間知らずってレベルじゃないわよ」


「あはは、ごめんね。僕元々田舎に住んでて王都来たのつい最近なんだよね」


「………逆にどうしたらそれでユリス様を第一位にさせられたんだか。もしかしてめちゃくちゃ強いとか?」


「魔剣の実戦経験はないけど…」


 シンはS級魔剣の事を言うか迷った。しかしユリスからも固く禁じられているからやはり言うのは止した。


「ふーん、そっ。そんなんじゃすぐに決闘申し込まれて第二位に下げられるわよ」


「決闘?」


 ユフィーが言っていたのと同じ言葉を聞き復唱する。


「まさか決闘も知らないんじゃないでしょうね?」


 フェリスは呆れた様子で頬杖をつく。


「もしかしてあれ?元々第一位になるつもりないのになっちゃったの?まぁ第一位なんて国王様目指してる人ぐらいしか欲しがらないし……」


「するよ」


「はい?」


「……僕がユリスを国王にする」


 覚悟を顕にする純白の双眸。フェリスもそれが冗談だとは微塵も感じなかった。


「……いいわ。ならちゃんと覚えておきなさい」


 フェリスは態度を変えなかったがシンは真面目に耳を傾ける。


「王位継承権を持つ主に仕える騎士は同じ騎士に決闘の申請が行うことが出来るの。この時互いの同意と決闘を見守る第三者が必要になるの。そしてその勝敗で勝星と負星が渡される。ここをみて」


 フェリスは勲章を指さした。


「この勲章の中に勝者は小さな白星、敗者には同じく黒星が一つ渡される。白星を十個集めると昇格、黒星を十個集めると降格。すでに白星を一個持って負けた場合白星を一個剥奪されて黒星ならその逆って仕組みになってるの」


 そこでフェリスは一度口を止めじっと見つめてくる。


「大丈夫ちゃんと理解出来てる」


「そう。なら続けるけど今言ったのは同じ位、つまり第二位同士や第一位同士の場合。じゃあ第一位と第二位の場合だったら?これがあんたが気をつけなきゃいけないところね」


 シンはゴクリとつばを飲み込む。


「順位が違う場合もちろん勝敗数が違ってくるんだけど、もし第一位の騎士と第二位の騎士で第二位の騎士が負けた場合黒星一つ、だけど第一位の騎士が勝っても白星はゼロ個。そして第二位が勝ったら白星の数関係なく昇格、第一位の騎士が負けたら逆に即降格。分かった?」


 不敵な笑みを向けるフェリス。


「つまり決闘を申し込まれても安易に受けない方がいいってこと?」


「残念だけどそんな都合のいい逃げは無理よ?第一位が第二位の騎士に決闘を申し込まれた場合日に一回は必ず受けなくちゃならないの」


「ッ!?」


 『いつ第二位の騎士に決闘を申し込まれるか分からないんだから』


 ユフィーの言葉を思い出す。あれは遠回しに絶対油断するなと伝えなかったのだろう。


 シンは考える。国王は第一位の中から決められ、現段階今年の第一位の騎士は自分だけであるということは、全生徒からの狙いの的などではないかと。


「気づいた?この教室入ってから誰しもがあんたの事を観察してるのよ。倒せる相手かってね」


 クラス全員の視線を向けられているかのような恐怖を感じているに違いないとフェリスは思った。しかしそんなものは杞憂でしか思えないほどシンの表情は平常だった。


「つまり負けなきゃいいわけか」


 平然と言い退けるシンにフェリスは言葉を失っていた。緊張している様子もなく本気で言っているからこそ驚いている。


「随分強気なことを言うじゃねぇかよ」


 するとシンの前に体格の大きい男が現れた。くせっ毛が強い黒髪と赤くに染めあげた前髪を後ろにかきあげ少し長い後ろ髪を縛り、赤褐色の肌をしておりかなり強面な顔とも合わさって強烈な印象を受ける。


 シンが見上げて目線を合わせる。


「もしかして盗み聞き?趣味悪いね」


「はっ、そりゃ悪かったな。お前に用があって近寄ったら聞こえちまってな」


「そっか。勘違いしてごめん。僕に用って?」


「俺はアルベルト・レオ・サルージャ様の騎士、アレスだ」


「ユリス・ティーゼ・ララティス様の騎士、シン」


 アレスに続けてシンも名乗るとちゃんと言えたとフェリスに親指を当てる。フェリスは色々台無しだと思いながらため息を吐く。


「それでなんの用よアレス。昨日散々うるさくしておりてまたちょっかいかけにきた?」


「うるせぇな。上に這い上がろうとしない腰抜けに用はねぇ。用があるのはこの第一位の騎士様にだ」


 明らかに険悪な雰囲気の二人。昨日何があったのかシンは知らないが親切に色々教えてくれたフェリスのことを悪く言われるのは癪に障る為立ち上がってアレスと対峙する。アレスの方が身長が高いために少し見下されているようだった。


「今フェリスと話してるんだ。用があるなら早めに言ってもらえるかな」


「あぁそうだな。つってももう分かってんだろ?」


「初対面の相手の考えてることなんて知るわけないね」


 シンは煽るようにシラを切った。


「……んじゃちゃんと言ってやるぜ」


 眉間に皺を寄せ赤紅色の双眸で見下しながら指をシンに差し向ける。


「俺と決闘しろ」



「ユリス様大丈夫ですか?」


 東校舎、ユリス達がいる王族、貴族層の教室。先程からチラチラと見られているのが気になりユリスは落ち着けなかった。それを察したユフィーがすかさず主を心配する。


「うん。大丈夫、かな。こういうのって悪目立ちって言うよね」


「そうですね。ユリス様が第一位がご自分しかいらっしゃらないことを知らなかった時は流石の私も驚きを隠せませんでした」


 ユリスが教室に入った時一斉に視線を浴びてユフィーにどういうことか尋ね初めて知ったらしい。


「だって()()ミゼイリア様が私をあっさり第一位にさせるからてっきり今年は何人も第一位がいると思っちゃって」


 恥ずかしがるように身を縮めるユリス。


「よくお考えくださいユリス様。()()ミゼイリア様ですよ?」


「そうね。()()性悪様だもんね」


 いつの間にか低い評価をされている国王だったがきっと今頃どこかでくしゃみでもしていることだろう。


「随分暗い顔してるじゃないユリス」


 不意に声を掛けられ振り向く。ユリスと同じローブを着ており、真っ白い肌に桜色の髪を左右で三つ編みしたのを頭の横で輪っかにした髪型で空色の双眸の少女が、柔らかな笑みを向けていた。


「……どちら様?」


「ッ!?」


「ユリス様!?」


 ユリスが首を傾げると少女は驚きのあまり硬直状態といった様子でユフィーもまた驚き声を上げる。


「大丈夫ですかユリス様!?どこかで頭でもぶつけてらしたのでは!」


「ユフィー知ってる?誰?」


「知ってるも何もよくご覧になって下さい!」


 言われてじーっと少女を見つめる。少女も自分を指さして「私!私だよ!」と送る。


 「あっ」とユリスが口にすると少女がやっと思い出してもらえたとパァと顔を明るくする。


「去年話しかけてきた知らない人」


 自信満々にそう言うと少女は遂に青ざめた顔で涙を流す。


「ぐすん」


「ユリス様!エンネア様です!エンネア・ヴァン・ミストラシア様!去年も別れ際同じように言っていたような気もしますけどあの時もエンネア様だと言ったはずではありませんか!」


「エンネア!?()()エンネア!?小さい頃からよく泣きよく怪我しよく食べるエンネアなの!?」


「そう言っているではありませんか。何故か水溜まりに溺れそうになったり屋敷の屋根の上に登って落ちたり驚かせた拍子に虫を食べてしまったことがある()()エンネア様です」


「止めて黒歴史掘り返さないで!」


 今度は違った意味の涙を流して訴えるエンネア。


「昔の面影なくて気づかなかったよ。久しぶりエンネア」


「今の流れでよく気安く挨拶出来たわねユリス」


「元気そうで何より」


「今まさに誰かさんのせいで心に重症負ったけどね!」

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