誓い
「み、ミゼイリア様……これは一体…?」
「見ての通り隠し部屋よ。リアナ、さっきA級はこれで全部って言ってでしょう?そうよ。A級魔剣はこれで全て」
「それではその奥にあるものは!?」
これを荒らげるリアナ。
通常魔剣未契約者はうっすらと魔剣の中に住まう悪魔の声が聞こえるが、魔剣と契約すればその魔剣の悪魔と会話出来る変わりに他の魔剣の声はからっきし聞こえなくなってしまう。それでもリアナは空間が現れた途端震える程の恐怖に身を包まれ反射的に魔剣を、キマリスを引き抜いていた。
「この部屋は代々国王のみに知らされる場所でね、国王の魔力にのみ反応して開く仕組みになってるの。そしてこれは大陸に四本だけ存在し各国で均等に振り分けられた内の一本。通称S級魔剣と呼ばれているわ」
「S級魔剣……」
シンは呟きながら魔剣に近づく。
“ようやく来たか”
「ッ!?今の声…」
「魔剣の声が聞こえたかしら?それは今あなたにしか聞こえてないのよ」
「僕にだけ……聞こえる」
突き刺さる魔剣をじっと見つめる。
“昨日はよくも帰ってくれたな。焦らされているかと思ったぞ”
「だったらもっと主張して欲しいんだけど」
“仕方ないだろう。壁に結界のようなものが張り巡らされているせいでろくに届かなかったんだからな。それよりさっさと俺と契約しろ”
魔剣はシンに手を差し出すかのように命令してくる。シンはそれより近づくことをせず振り返る。
「もう契約出来るんですか?」
「可能よ。でも先に言っておくけど契約すればあなたは騎士になるしかなくなる。分かってる?」
「ユリス様の騎士なら勿論喜んで……」
「別にユリスに限らないわよ」
「え」
言葉を遮り断言する。驚くシンの顔にミゼイリアは笑う。
「確かにあなたをユリスの騎士にしてあげるとは言ったわ。でもそれはユリスがあなたを受け入れたらの話。もしあの子が国王になるのを本当に諦めていたら騎士なんていらないのよ」
「で、でも!」
「あの子がどうして国王になりたいか知らないでしょ?」
「………何故ですか?」
シンは素直に聞いた。ユリスの事を勝手に聞くのは気が引けたが聞き返すほかなかった。
ミゼイリアはニッコリと首を傾ける。
「しーらない」
「え?」
「理由なんて私も知らないわよ」
「じゃあ分からないじゃないですか!」
「そうかしらね?私がみた昨日のユリスの目にはもう火が消えていたようだったわよ。それでも行くならちゃんと覚悟しなさい?」
愉快に微笑むミゼイリア。その双眸を睨みつけるようにしてシンは魔剣に歩寄り手を伸ばし柄を掴んだ。
“覚悟は出来たようだな”
魔剣が問い掛ける。
「そのつもりだったからね」
“ならば俺を抜け!そして俺の力を余すことなく使うがいい!”
シンは剣を抜きその刀身が顕となる。紫紺色の長剣。悍ましい見た目こそあれど悪魔が宿る剣となれば当然だ。自身と一体になるかのように全身に熱が駆け巡る。
そして黒い瘴気が溢れ集約し鞘の形を形成した。鞘を掴み魔剣を納める。
「どうやら無事に終わった見たいね。どう魔剣を手にした感想は?」
「………まだよく分かりません。少し体が熱いですし」
「結構よ。なら……行くわよ」
「……はい!」
ミゼイリアが場所を言わずとも意味は理解した。シンは魔剣を片手に返事をする。
ララティス家の屋敷
「ユリス様、これからどうされるおつもりですか」
「どう……ねぇ」
ソファに座りどうにもならないように天井を見上げている。
「な〜に黄昏いるのかしら?」
「ッ!?」
不意に声をかけられ立ち上がると部屋の扉の前にミゼイリアが立っていた。ユフィーも今気づいらしくユリスの前に立つ。
「別に何もしないわよ。私はただお客さんを連れてきただけだから。それじゃあもう私は帰らせてもらうわ。後はお2人でごゆっくり〜」
「ユリス様!」
『シン!?』
入れ違いで入ってきた少年にユリスはユフィーは声を揃えて驚いた。息を切らしているシンの左手には見知らぬ剣が、しかし見覚えのある雰囲気。
「まさか…魔剣?」
「はい。色々あって契約出来ました。でも今はそんなことはいいんです!」
「いやそう簡単に置いとけることじゃないけど……」
「ユリス様!僕にもう一度チャンスを下さい!」
「ッ!……でも」
ユリスは顔を俯かせる。ミゼイリアがもう国王になるつもりはもうなくなっていると言っていたがシンは一歩ユリスに近寄ろうと足を出す。
「ユリス様!」
するとユフィーが間に入った。
「ユフィー?」
「ユリス様。私はユリス様がご決断なされたことでしたらいくらでもついて参ります。今回のことも同じです。ですが彼は、一度ユリス様が選んびそれに応えようとしてくれました。道がなくなったと諦めていた彼がまたユリス様の元に来てくれたんです、それなのにユリスが諦めっぱなしでいるだなんていけません!」
必死に訴えるユフィーの目元にはうっすら涙が溢れようとしていと。
主人が諦めたから1度は納得しつつもユフィーも心の奥底では諦めて欲しくなかったのだろう。それでも侍女に過ぎない自分にはそれを説得することなど到底不可能だった。だがしかし魔剣を持って現れたシンの姿を見てまだ道はあると確信した。
ユリスにとって侍女であるユフィーがこれ程強烈に意見をした事があっただろうか。ユフィーはいつだってユリスの為に忠実に働いてくれた。そんな彼女がこんなことを言ってきてくれたのは間違いなくシンだ。シンとの出会いがきっとユフィーを変えてくれた。
(きっと……それは私も同じなんだよね)
ユリスは胸の内で笑う。
「ありがとう、ユフィー」
「ユリス様?」
ユフィーの横を通り過ぎシンと向かい合う。
「魔剣を持って私の前に来たってことはそういうことと捉えていいの?」
シンは膝をついて魔剣を置く。
「はい。もう一度ユリス様の騎士となること、ここに誓わせてもらえませんでしょうか」
「ダメ」
『………………………………………………え?』
全く違う返答にユフィーとシンは目を丸くした。するとユリスは屈んでシンと視線の高さを合わせる。人差し指を口元に置いて上げると頬を赤く染めた。
「どうして敬語なのかな?」
「え、いや、だって、昨日は魔剣がないから」
「別に私騎士でいるからタメ口って言ったんじゃないでしょ?やり直し」
いたずらっぽい笑みをするとシンと一緒に立ち上がる。
「ユリス」
「なに?」
「僕をキミの騎士にして欲しい」
「もちろん、お願いするよ」
主人と騎士。しかし対等の意味を込めて互いに手を差し出す。
その手がしっかり握られるとユリスはシンに抱きつく形で接触する。
「なあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
後ろでユフィーが絶叫している中ユリスはシンの耳元で囁いた。
「私も改めて約束する。シンの願いを叶えるってね」
シンの耳が真っ赤に染まる。しかも、耳元から離れる瞬間チュっと音がしたように聞こえた。残念ながらユフィーがずっと叫んでいたため確かではないがそう思うだけで顔まで真っ赤になっていた。
「もう止めろおぉぉぉぉぉ!」
「ぐはっ!」
我慢の限界が来たかとうとうユフィーがシンに拳を振り下ろした。そしてすぐにユリスの両肩を掴む。
「今のは流石に駄目です!」
「あ、うん、ごめん」
戸惑いながら侍女に謝る主人。そして床に寝転ぶ騎士。本来では起こりえない絵面が起きていた。
「それってつまり陛下……ミゼイリア様が主犯ってことだよね」
その後落ち着きソファに座ってシンのここまでの経緯をユリスに話した。
「別に主犯ではないと思うけど…」
「だって私とユフィーの話聞いて勝手に抜け駆けしようとしたり魔剣のことも秘密にしていたんでしょ?最初から説明されてたらこんな遠回りしないで済んだのにぃ」
手に顎を乗せてボヤくユリスを可愛いと思いながらシンが紡ぐ。
「主犯って言うなら僕からしたらこれだよ」
そう言って壁に立て掛けた魔剣に視線を送る。
「S級魔剣……ね。まさか自分と契約させる為に他の魔剣を威圧して黙らせてたなんてね」
ユフィーの魔剣ヴァルスが宝物庫で反応がないと言っていたのはまさにこのせいである。
「こいつがもっと他の方法を取ってくれれば良かったんだよ」
「ユリス様、おもちしました」
ユフィーは持ってくるものがあるからと先程から部屋を退室していた。そして今、謎の高級感のある箱を持って戻ってきた。
「これは?」
慎重にテーブルに奥と中を開けて中から綺麗な宝石が現れた。
「騎士と言ってもそれを示すものがないと正式にシンが私の騎士になったことにはされなくてね。よくある定例儀式みたいなものだよ」
ユリスが説明してくれている間にユフィーは手袋をはめて宝石みたいなものを手に取るとそれをグラスの中に入れユリスに渡した。
「これは魔石と言って魔力が込められた特殊な石。魔石の中でも結構特殊で……」
小型ナイフで指の先を切って魔石に血を垂らした。
「あっ」
すると魔石に血が馴染むと同時に氷が溶けるのと同じように液体になった。思わず声がでたシン。
「はいじゃあ飲んで………って簡単には飲めな…」
「ごくっ」
液体になったそれはドロッとしていて誰が見ても気味が悪いそれをシンは迷うことなく飲んだ。
「あー……大丈夫?」
飲み干したシンに問い掛ける。ユリスが聞いた話ではこれはとても簡単に飲めたものではなく非常に不味いらしい。まず見た目が酷い。一滴しか垂らしていないのにドロドロとしており、飲んだ人の話では舌触りも悪く舌に絡まるようで飲んだ後も口の中に残る感じが気持ち悪く吐き戻す人も少なくないと言う。
だというのにシンは表情一つ変えずに飲んでしまった。
「大丈夫だよ。それで何でこれ飲まないといけなかったの?」
ケロッと質問してくるシン。
それを知らずに飲んだのかよとユリスは首を竦んだ。
「えーあーうん。分かったよし分かった」
ユリスは無理矢理納得した。
「じゃあ次に手を出して」
シンに手のひらを出してもらいユリスの手をその手に被せる。そしてユリスから魔力を流す。
「シン、何かアクセサリーを想像して」
「アクセサリー…」
すると手の中が光り出す。手を開くと指輪が二つ出来ていた。白と灰色の宝石が片方ずつついている。
それを見たユリスは頬を赤くした。
「……気が早すぎじゃないかな」
視線をそらして恥ずかしそうに呟く。
「アクセサリーをこれ以外知らなくて」
「………もう。これが互いに契約した証。万が一勧誘されてもこれを見せれば問題ないよ。ちなみに主側は幾つもこれをつけられるけど騎士は一つまでしかつけられないから」
「へぇ。僕が白い方でいいの?」
「逆ね。これは互いの生命状況を示していて状況によって変色するの。どちらかが死ぬと壊れちゃうけど」
「死ぬことは想定したくないけど……つまりは命の繋がりを感じられるってわけか」
いつものようにおかしな想像するシンだが苦笑いするユリス。
「ねぇ、どこの指につけて欲しい?」
すると両手の指をシンに向ける。問われたシンはすぐに白の指輪を手に取って選んだ指に嵌めた。
「え?」
ユリスは素直に驚いた。選ばれた指は右手の中指。
次にシンが手を出てきた。
「僕の指もユリスが選んでよ」
問われたユリス。自分につけられた指輪を眺めてから思いつきシンの左手を手に取る。
「はいどうぞ」
人差し指に指輪をはめてあげると互いに見つめ合いながら微笑んだ。
それを済で見ていたユフィーは仕方ないとばかりにため息を吐いた。
その日の夜、シンはユリスの屋敷に泊まる、などと言ったもののユフィーが無理矢理摘み出して帰らせた。
辺りが静まり返り月の光だけで照らされた庭にユリスは羽織物を一枚羽織って出歩いていた。
満月を見上げ右手を空に伸ばすと月の光が反射して白い宝石が輝く。
「見てますかお父様。私はようやく一歩進めた気がします」
伸ばした手を引っ込めて撫でるように人差し指にはめられた指輪を指でなぞる。そして宝石にそっと唇を触れた。
次回より新章開幕
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