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千年に一度の魔剣

「それでどうしてシンはユリス様にもお姉さんのルキさんのこと言わなかったの?」


「僕も隠していたかったわけじゃ……」


 案内人であるルキのもと今日だけは用意それた客人用の屋敷に案内されシン達一同は買い物に出かけていた。ユリス達はルキに話があるとのことで屋敷にて待つこととなった。


 エミルもようやく正気を取り戻して、フェリスから痛い視線を向けられ今に到る。


「ルキ姉が貴族の養子に招かれたことは前から知ってたんだけど、その手紙にルキ姉は伯爵家の隠し子として育てられていたことにしたみたいなことが書いてあって。言ってもいいのか迷って…」


「そうだったんだぁ〜。でも姉が一級魔法士で弟はS級の魔剣使いってすごい姉弟だねぇ〜」


「まさかシン君があのルキ様の弟だったなんて……羨ましい」


「ちょったあんた達ねぇ…。まぁ事情は分かったわ。それより腑に落ちない点がもう一つあるの忘れてない?」


 肩を落とすが目を鋭くして指を立てる。


 三人がシンの方を向くが「もう何もないよ!」と首を振る。


「シンのことじゃない。こっちについたら出迎えがあるはずだったのにどうしてルキさんだけなのかって話」


「それはルキ姉も分からないって言ってたしね」


「ルグニカの連中は約束もまともに守れねぇのかよって言いてぇよ」


「そこまで言うつもりはないけどねぇ〜」


「あはは…」


 アレスがスンッを鼻を立てるように言う。苦笑するユアンとエミル。


「それは悪かったわね!」


 突如に耳に響く声と魔力の波動にシンは反射的に《魔帝》に手が伸びるがフェリスが咄嗟に抑え代わりにアレスが《炎帝》を引き抜く。


「《炎帝》!」


 上空に向かって炎の壁を作ると轟音と共に雷が落ちる。炎と雷の衝突。共に弾けるように打ち消し合いアレスは追撃を警戒し炎を纏わせる。


「それが《炎帝》ね。聞いてた通りの力ね。まっ、聞いていた程度の力しかないってことだけど」


 腰に手を当ててたちすくすく少女は尖った言い回しでこちらに近寄ってきた。


 金色のように輝く長髪に花を咲かせたカチューシャをつけ金剛色の双眸が細くこちらを覗き込む。全身紺を基調とした制服を纏い胸元に第一位の称号である金色の勲章。


「あなたがお出迎えの人?随分ヤンチャな騎士なのね。ご主人様の苦労が目に浮かびそうね」


 フェリスが皮肉を口にするも少女は笑う。


「ふはっ。魔剣の腕が鈍いと口だけ達者になるのね。そんな哀れな騎士を持って主はさぞ頭を抱えていることでしょうね」


「コイツ……っ!」


 歯を食いしばり拳を握る。するとシンが代わりに前に出る。


「ユリス・ティーゼ・ララティス様の騎士、シン。どんな出迎え方であれ場所は考えた方がいいよ」


 騎士の自己紹介をしてからフェリスと似た事を言う。少女はシンの胸元の勲章を見て鼻を鳴らす。他の騎士も同じように見ると手を下ろす。


「自国とはいえ流石やり過ぎたわね。私はアリス・ニア・セレドローナ様の騎士、シルファ。アリス様はあなた達と同じ屋敷にて待ってるわ」


「それより先にお迎えを遅れたことに対する謝罪とかないわけ?」


「なんでフェリスはさっきからそんな喧嘩腰なの?」


「そうだよぉフェリちゃん落ち着いて?」


「そんなこと後で説明するわよ。それより交流会の説明しなくちゃだから早く戻るわよ」


「何あの身勝手な奴!」


 シルファは素っ気なく手招きして歩く後ろ姿を威嚇するように睨みつけるフェリス。



「それでさっきからフェリス機嫌悪いんだ〜」


 屋敷に戻って自分の騎士の様子がおかしいことに気がついたエンネアは大まかな事情をユアンから聞いた。


 テーブルを囲うように座る主達の後ろに立つ騎士達。シルファの前に座るゴシックドレスに身を包んだ十歳未満の見た目の銀髪の少女こそアリス・ニア・セレドローナ。


 国によって異なるかルグニカでは騎士を持った王族は年齢問わず王位継承権を得られるそうだ。


「本日はここにお泊まりしてもらいますが明日より皆様には我が校の交流生として二週間こちらの学院に通っていただきます」


 おっとりした声に耳を奪われそうになる。そんな魅力を感じまじまじと皆がアリスを見ると恥かしいのか頬を赤らめて身を縮ませる。


「アリス様ったら。ここからはアリス・ニア・セレドローナ様の騎士、シルファがご説明させて頂きます」


 主人の可愛らしさにほっこりした顔をするが上品なお辞儀を見せるシルファ。


「当学院では騎士や魔法士見習いの育成は勿論、魔道具や魔法研究等に力を入れております良くも悪くも成果のみを評価しており、新たな魔法の発明や魔剣の有用性を示す論文なども白星の対象になっています」


 丁寧に説明しているとシンが手をあげてそれを指した。


「白星って僕達にも有効なの?」


「えぇ。他国とはいえ交流期間中はルグニカの生徒として扱われるからその間の功績は当然与えられるわ。とは言っても期間が短いから機会は少ないわね。説明に戻りますが、先程お伝えした通り交流期間中は我が校の生徒として扱われます。なので当然ルールもこちら側にしたがってもらうことになります。問題ございませんね?」


 話が終わるとアリスがスタスタと走って行った。シルファは最初と同じようにお辞儀をすると追いかけていった。


「あれがS級魔剣の使い手、ね」


 フェリスは腕組みして片目を瞑って口を尖らせた。


「でも俺が受けた一撃は中々強烈だったぜ」


「A級としてならね。同じシンの魔剣と比べたら見劣りする威力だったわ」


「いや、受けた身だから分かる。あれは確実に手加減されてた。シンはどう思う?」


「どうもこうもその話をルキ姉の前でしていいのかなって思ってる」


『あっ』


 フェリスとアレスが口を揃えた。


 ルキは苦笑いして手を振る。


「大丈夫だよ。もうユリス様からある程度事情は聞いてる。シンがS級の魔剣を手にしたこともその他諸々のこともね」


「そうなんだ。因みにルキ姉ってあのシルファって騎士のこと知ってるの?」


「知ってるも何もルグニカで知らない人はいないぐらい有名な騎士だよ。この間の襲撃事件なんか単独でドラゴンを五体倒してる上、すでに『開門』だって習得してるって話。以前私とも戦ったことあるけど腕は確かね」


「え!ルキ姉戦ったの!?」


「うん。でも流石に負けないよ。魔法士だからって一級の名は伊達じゃないからね」



「アリス様、アメストリア陛下から心象を良くするよう仰せつかっていたはずです。それなのに朝は駄々をこねて部屋から出てこなくて結局お迎えに間に合わず先程も目が合うだけで黙りされてはレベスタの方々に甘く見られてしまいますよ」


「……恥ずかしいんだもん」


 テディベアを抱えてベッドに蹲るアリスに向かってシルファは声に圧を込める。


もぞもぞをした声も彼女の耳にはハッキリと聞こえておりため息を零す。


「はぁ。だもんじゃありません。明日はレベスタの王族一行の学院の案内があるんですよ。私は騎士と魔法士見習いの方々を。アリス様だってやれば出来るということを周囲を知らしめるチャンスですよ!」


「別に知らしめなくていいもん」


「アリス様ったら〜……」


 両脇に手を置き肩を落とす。が、ひくひくと口角の震えが隠せていなかった。


(あぁ〜もうなんてかわいいのアリス様!アリス様アリス様アリス様!もうずっとこうして眺めていたい!あわよくば永遠に…)


”シルファ?その気持ち悪い声も私には全て聞こえているのだから止めて欲しいとあれ程いったでしょう“


 腰に掛ける細剣より声が響く。


(うるさいフュール)



 ルグニカは魔導国というだけあり魔道具は街のあちこちに設置されており学院においても例外ではなかった。


 校門前に来るとシン達は圧巻していた。


「る、ルキ姉?これ本当に学院?」


 驚きのあまりルキに確認を取る。


「うん。凄いでしょこの学院」


「すごいって言うか……」


 シン達の視線は目の前ではなく見上げる形で向けられていた。


 空中に浮かぶ要塞。何故か校門だけはあるにも関わらず肝心の学院が宙に浮いているのだ。


「魔力で浮かせているんだよ。大きいけど少ない魔力で浮かせられるよう魔力の巡りをよくしている上供給が止まっても丸一日は浮いてられるんだよすごいでしょ!」


 ルキが自慢げに語りだすが全員驚きのあまり聞く耳をたてていなかった。


「魔法ってやっぱり便利だね。こんなことも出来るなんて」


「文化の違いよ。ウチは研究そっちのけでいる人が多いから。ルキさんもその一人なんだからね?あなた達が来るってなってここにいるけど普段ルキさんは研究室に入り浸って一月は出てこないことだって珍しくないぐらいだし」


 シルファが言っていることは本当らしくルキは苦笑する。


「けどこれどう上がるの?もしかして飛ぶの?」


「いいえ。仕掛けがあるんです」


 門より先は何もなくユリスが問うとシルファは門の前に設置された水晶に手を置くと学院まで登る階段が現れた。


「セキュリティがしっかりしているんです。この階段以外の方法で学院に侵入すれば学院中に警報が鳴り響く仕組みになっています。水晶は登録された人にのみ起動しますのでユリス様方も後ほどご登録させて頂きます」


 登った先、校舎の作りはレベスタと大差なく比べられる点でいえば魔道具ぐらいだ。


「それでは騎士・魔道士は私に。ユリス様、エンネア様、ユミル様、アルベルト様はアリス様がご案内されます。いいですねアリス様?」


「……………ん」


 シルファが丁寧な仕草で聞く中アリスは目を合わせず返事する。それに対して何か言おうとするもアリスはユリス達をチラッとみて歩き出した。


「んもうアリス様ったら。あなた達はこっちよ着いてきなさい」


 ここで別々となることにシンは名残惜しさを感じながらシルファについて行く。が、すぐに立ち止まる。


「あれ、ルキ姉はどこまで着いてくるの?」


「私?今日一日」


「ルキさん。その騎士は弟さんらしいですけど、だからって買ってすぎる行動は困ります。一級魔法士がそう何日も暇も持て余しても?」


「うぅ、は〜い」


 叱られたルキは素直に謝り半泣きになって帰って行った。エミルだけは名残惜しそうな目で見ていた。


「才能と実力はたしかに凄いけど性格が自由すぎるのよね。あなた本当にルキさんの弟?にしては結構しっかりしてそうね」


「そんなことないよ。騎士としてまだ不甲斐ないところばかりだし。それにそれで言うならシルファもしっかり者って感じしたよ。慣れてるのこういうの?」


「騎士としてお仕えしてる時期が長いだけよ。幼い頃は侍女としてアリス様の身の回りのお世話してたから。魔剣と契約してから騎士になったの」


「へぇ、羨ましいなぁ」


「ちょっとシン今変なこと考えたでしょ」


 幼い頃からということに反応したシンを肘打ちしてシンの横腹をつくフェリス。それを変な目で見るシルファをアレスが食らいつこうと前に出た。


「案内される前に聞きいたいことがあるが、お前が噂のS級魔剣の使い手なんだよな?」


「ちょっとアレス!」


 フェリスがアレスの肩を掴もうとするとシンに手を捕まれる。シルファは目を細くして見つめる。


「えぇ、そうよ」


 細剣を抜きアレスに突きつけると雷が弾ける。


「私こそが千年に一度の逸材と言われるS級魔剣《雷帝・フュールフーレ》の使い手、シルファよ」


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