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ルグニカ到着


「ふんふんふーんふっふふっふーん」


 鼻歌を歌いながら上機嫌に寝転ぶクマの毛並みを整える黒髪の少女。身体のラインを浮き彫りにする黒のワンピースと花の形に結んだ黄色いリボンを頭の横に付けた少女、シスベル。


 大自然に囲まれたとある屋敷の庭でくつろいでいた。


「ここ二、いタ、カ」


 不気味なほどカタコトな声が彼女の機嫌を一瞬で冷ました。


「なに?」


 振り向いてそこにいたのはまるで浮遊する黒い物体だった。かろうじて人型だと認識できるが体全体がゆらゆらとゆれており今が真昼だからいいものの夜に見れば確実に幽霊と叫ばれる見た目をしている。


「少シ、頼みタ、いこト、がア、ル」


「嫌よ。まだ疲れてるもん。あとその喋り方恐いから治るまで話しかけないでって言わなかった?」


「むリ、ダ」


「なら一生話しかけてこないで」


 フンっと首を切り返し冷たく返す。黒い物体も動かず何も喋らなかった。考え込んでいたのかしばらくして、見えないが口を開けた。


「《魔てイ》、ノ、つかイ、テ」


「シンのこと!?」


 特定的な単語に目を輝かせて振り返る少女。それには耳を傾けるのかと無言の圧をするとシスベルは早く言えと言わんばかりに見つめてくる。


「ルグニ、カにイ、くらシ、イ」


「ルグニ……ルグニカ?え、シンがルグニカいるの?ん?行くらしい?」


 言葉の区切れが曖昧過ぎてすぐに伝わらなかった。


「そうイ、うみラ、見エ、タ」


「へぇそう。それはちょっと、いやかーなーり気になる。で?頼みたいことってなに?」


「アモ、スデウ、ス。起きル」


「……間違いない?」


「すぐ二、デ、は無イ」


 それだけ言うと黒い物体は霧のように消える。


「肝心な出現場所聞いてないんだけど。まどうせ振るい方からしてルグニカなんでしょうけど」


 呆れたように肩を下ろす。目を細めて腕を組んだ。


(でも変ね。ルグニカなら既に調べたけど何も見つけられなかった)


「何か鍵が必要だった?」


 そう呟いて真っ先に思い浮かんだのがシンの持っている魔剣だった。しかしすぐに首を振る。


(あれの存在に魔剣は関与は関係なかったはずだし)


「なるほどね。それも込みで調べてきて欲しいってこと。人使いが荒いですこと。せっかくの休日が最悪」


 愚痴を零しながらクマの頭を撫でる。


「良い子でお留守番しててね。少し出掛けてくるわ」


「あっれれ〜シスベルちゃん出っ掛けるの〜?ならそのペット借りてい〜?」


 陽気な声にさらにイライラが募る。桃色混じりの黒髪猫耳ヘヤのツインテールとツリ目で黄金の瞳の奥には猫のような縦に細い黒瞳。黒色ネイルを口元に出して鋭利の様な尖った歯でキシシと笑う。


「アトラ……。駄目に決まってるでしょ。ちょうど良かった今からルグニカ行くからアトラもきて」


「えー!ちょ待てし!クンマちゃんモフってねぇよ〜」


「いいからいいから。あまり暴れすぎると私に《使役》されるよー」


 襟を掴んでじたばたするアトラ。しかしその一言に大人しく引きずられていった。



 屋敷のとある一室が強く何度も叩かれる音が朝から響く。


「おいシン!いつまで寝てる!」


 返事がなく勝手に入るとシンの姿はなかった。中をよく見てみるが綺麗に整頓されている。


「何処にいったんだ全く」


「ユフィー」


 いつの間にか扉の前に主人であるユリスが灰色髪をゆらりと垂らして覗き込んでいた。手招きをすると窓の外から庭を眺める。


 そこには魔剣を抱える白髪の少年の姿があった。


「何をしているんですか?」


「魔剣と会話してるんだって。昨日の夜から」


「……今日からルグニカに向けて行くというのに風邪をひくつもりか。ユリス様は気づいていたんですか?」


「うん。《共鳴》でずっと伝わってきてた。すごい真剣そうだから水をさすのも気が引けちゃって」


 えへへと苦笑いするユリス。その横顔を見て溜まっていたシンへの不満の言葉が消え去った。


「朝食のご準備が出来てます。迎えの馬車もすでに来ていますのでシンを呼んで来ます。それと先程国王陛下よりお手紙が届いておりました」


 準備を済ませた後馬車を乗り継いでルグニカ魔導国サルベール行きの列車の前に各々集まった。


 皆それぞれ馬車出来ていたがエミルは平民な為そういうツテがなくユリス達の馬車で学院の寮まで迎えに行き共にきていた。


「おぉ〜、僕列車を生で見るの初めてだよ。結構大きいね」


「乗車以外で近寄らない。危ないでしょ。これはエドラスの技術で作られているのよ」


 停車してる列車の硬い外装を触りながらシンは感動していた。するとフェリスがローブのフードを引っ張って遠ざける。


「エドラス?」


「四カ国の内の一つ、モ・エドラス機構国。科学技術が最も発展してて戦争時代は乗車型の砲撃機を作ったなんて話もあるわ。そのせいか一番血の気が盛んな国なんて言われてる。もっとも今はこういう風に技術を各国に広める為に技術スタッフを派遣してるらしいわ」


「へぇ、でもそんな技術をもらって何かお返しとか求められないの?」


「レベスタが一番誇れるって言ったら衣食住でしょ?魔力糸で作った衣服の完成度に食文化、建築技術のどれをとってもうちが一番なんだから」


「何してるの二人ともぉ〜。もうすぐ発車するよぉ〜」


 のんびりする二人をユアンが呼びかける。列車は車両ごとに一般車両、貴族車両、王族車両に分けられており騎士は一般車両に乗せられる。


「一緒に乗れないなら騎士の意味がないじゃないか」


「拗ねないのぉ〜?それに私たちがあっち行っちゃったらエミルちゃん一人になっちゃうでしょ〜?」


「そっか。それは考えてなかった」


「あんたねぇ…」


 頬を膨らませて拗ねるシンだったがユアンに叱られ素直に反省した。エミルは「ごめんなさぁ〜い」と半泣きで会釈していた。


 シンの隣に座るフェリスが呆れ半ば頬付けをつく。


 一般車両は人も多く全員がまとまって乗ることが出来ずシン、ユアン、フェリス、エミルは一緒に同じ席にを取れたのだが、別車両にユフィーとアレスが乗ることになった。


「ルグニカに着いたら一級魔法士のルキさんが待ってるから失礼がないようにね、特にシン」


「………」


「シン?」


「ん?あっ僕?」


「あわわわわ、ルキ様に会えると思うと心臓がぁぁぁ」


 エミルが震えながら胸を抑える。


 ボーッとしていたのか反応が遅れるシンに眉をひそめると列車が発車しだした。


 列車がだいぶ早くなり町を出たところでシンは窓を開けて顔を出す。風が前髪をかきあげながらも興味を惹かれ「わぁ〜!」と感情が漏れ出る。


「ったく子供じゃないんだから」


「いやシン君十二だよぉ?」


「そうね……え、シンって私より二つも年下だったの?身長同じぐらいで男の子にしては背が小さいとは思ってたけど。そっか、私よりそんなに年下だったの」


「フェリちゃん?」


 つぶつぶと何かを呟き表情が曇りユアンが顔を覗かせる。背を向けて窓の外に身を乗り出すシンに口を尖らて指先で脇腹を刺した。


 シンは「お?」と漏らして顔を引っ込めてフェリスに何?と顔をする。


「ちょっとムカついたから」


「何でフェリスって僕が何もしてないのに怒るの?」


 列車は何度か途中の町駅で停車しレベスタとルグニカのほぼ中間に位置する町で少し長く停車することになった為シンとフェリスがお弁当を買いに駅を出歩いていた。


 魔剣は主が一緒にいるか、騎士団所属でなければ現地の支部の騎士に聞き取りされることも多い為車内に置いてきていた。騎士団に登録はしているが明確な所属ではない為登録証の確認はさせられる。


「ここまだレベスタの領地なのに活発だね。王都から離れるとそれだけ廃れるものかと思っていたけど」


「馬鹿じゃないの。それにここは確かにレベスタだけどルグニカと隣接してるだけあってルグニカの人もよくこの町にいるのよ」


「国ってそんなに簡単に跨げるの?」


「証明証があれば誰もね。あんたもユリス様からもらったでしょ」


 そう言われ朝ユフィーが用意してくれた荷物にそれらしきものがあったのを思い出して二度頷いた。


 シンが同車してる皆とフェリスがユリス達の弁当をそれぞれ買った。最初はシンがそっちを持っていくと言い出したが「あんたそのまま居座りそうだから駄目」と厳しいことを言われ断念した。


「なぁんであたしまで。シスベルちゃん一人でやればいいじゃーん」


「ゲスターの話が本当なら人手は多いにこした事ないしどうせアトラ暇でしょ」


「暇じゃねーし!クンマとじゃれてねーし!」


「暇じゃん。それと変にあだ名っぽいのやめて」


 見知った声がシンの耳に入る。足を止めたシンに気がついたフェリスが怪訝な顔をするも持っていた弁当を彼女に預けた。


「これお願い」


「ちょっといきなり─」


 戸惑うフェリスを無視してシンは声がした方に走る。


「ルグニカにはずっとあたしが探りを入れて来たけど怪しいことてなかったんだぞ」


「私もそう思ったけど私たちが知らない何かがまだあるかも知れない。それにシンがルグニカに行くとなればS級魔剣同士何か反応が見られるかもしれないし」


「僕がどうかしましたか?」


「えぇ。だから……」


 背後の声に反応して後ろを振り向くとその少女の表情が固まった。


「何してるんですかシスベル様」


 レベスタを襲撃した主犯であり試験中正体を隠してシン達と共に行動していたシスベル・ルナ・クラリス。


 その隣の桃色混じりの黒髪ツインテールの少女も振り向く。こっちの少女はシンのことを知らないようだがシスベルの知り合いであることにはすぐに気がついた。


「おっ、お前まさか新しい《七魔対罪(アルカンシェル)》の一人か?あたしは対嫉妬のアトラだ。よろしくな」


 アトラがニッコリ笑って手を差し出す。するとギザギザ歯が顕となるとシンは気にせず手を出そうとするも、シスベルが割り込んだ。


「奇遇ねーシン。こんなところで会えるなんて運命かな?」


「僕達がルグニカに行くと情報でも入手しただけじゃないですか?それに」


 チラッとアトラに目を向ける。


「魔教団とは別の組織ですか」


「何も聞かなかったことにして欲しいな〜」


 見つめ合う二人の様子を見て置いてきぼりのアトラは手をポンとたたいた。


「あ〜!お前がシンか!シスベルから聞いてるよめっちゃ強いらしいじゃーん」


「アトラ?」


 アトラは笑顔でシンの正面に立って勝手に握手して上下に激しく揺さぶった。


「え、あぁ、うん」


「いや〜シスベルって結構あたしに無愛想でさぁ、でもシンって奴の話だけやたら楽しく話すもんだから一回会ってみたかったんだ〜」


「や、やめてよアトラ!」


 悪びれもなくシンに言うと顔を真っ赤にするシスベル。握った手を引っ張って耳元に近寄る。


「だから……ありがとな」


「シン!聞いてる!?」


「───え」


 いつの間にか目の前でフェリスが弁当の箱を渡そうとしてきていた。列車も既に発車していた。シンが弁当を受け取ると不服そうに口を歪ませる。


「人に弁当押し付けておいて何してんのよ」


「あ……ごめん」


「ふぅん」


 何処か上の空のシンの言葉に鼻を鳴らしてそっぽをむく。


”何かあったのか?“


「うん……どうだろ。なんか変な感じ。誰かに会いに行っていた…ような?」


 シンは小声で《魔帝》と会話する。


”何か魔法を受けたんじゃないか?魔力の干渉を受けた痕跡がある“


「攻撃された感じはないと思う。……催眠とか?」


”いやそれは無いな。催眠魔法ならもっと魔力の残滓が残る。俺を連れて行けばよかったものを“


「気をつけるよ」


 シン達が乗った列車の後で次の列車が発車する。


「いや〜危なかったなシスベルちゃん?」


「別にお礼なんて言わないよ。そもそもシンが乗る列車の時間調べといてって言ったのに鉢合わせたのはアトラの責任だから」


「まっさかあそこで会うとはな!にしてもいつまで不機嫌でいんだよー。もしかして嫉妬してる?」


「やかましいっての。とにかく次からは気をつけてね」


「へーい」


 適当に返事をしながら買ってきた弁当を頬張った。



「そういえばルグニカに着いたらあちらの学院の生徒も迎えに来る予定なんですよね?」


「そうだよぉ。私達と同じで今期生で超新星の凄腕の騎士とその主様が迎えにきてくれるんだよぉ」


 エミルがそわそわしながら聞くとユアンが答える。フェリスもいつの間にか機嫌が元に戻っているが、先程からシンの方を見つめている。


「何気にシンが無防備なところって初めて見るわね」


「確かにぃ〜」


 寝不足なだけありシンは弁当を食べ終えすぐに眠ってしまっていた。魔剣を抱えているが静かな寝息をたてて無防備な状態でいる。


「色々と驚かされるけど、所詮私達と同じ、魔剣を使えるだけのただの人間なのよね」


「うんうん。変に便利な知識持ってたりぃ〜、知らないことばかりの非常識でぇ〜、よくフェリちゃんを怒らせたりねぇ〜?」


「最後は余計よ」


「シン君って面白いんですね」


 エミルがそういうとフェリスはふっと微笑みながら目を瞑った。


「そうね。悪びれもせず変なこと言うわ、常識が無茶苦茶で主のことしか考えてない馬鹿だけど、本当は凄い頼りになるのよね」


「おぉ〜!フェリちゃんもしかしてシン君のこと」


「それはないわ。それと今私が言ったことシンには言わないでよ?」


「もっちろぉ〜ん」


 面白そうに笑うユアンに不安を覚えつつシンの方をチラッと見ると目があった。


「………あんたいつから起きてた?」


「僕が無防備ってとこから」


 表情一つ変えずにこたえる。沈黙が続くとフェリスの顔が徐々に赤くなる。


 ユアンはシンが起きていたことに気がついていたらしくものすごく楽しそうにふふふと笑う。


 それから数時間程してロ・ルグニカ魔導国の都の到着する。


「やっとユリスの同じ空気が吸える」


「到着早々変なこと言わない」


 シンが背伸びをしながら飛んでもないことを口にするとフェリスが後ろから魔剣の柄で頭を叩いた。


 別車両に乗っていたユフィーとアレスも来たのだがアレスの様子が妙な程におかしかった。まるで今まで悪夢を見ていたかのようにやつれていた。


「おいシン、あのメイドどうなってるんだ?」


 ゾンビのような歩き方でシンのところまで寄る。その気味の悪さにフェリスはうわっと口に出して離れた。


「何が?」


「それが…」


「どうした騎士アレス?乗り物で酔ったのか」


「ひぃ!何でもありませんっ!」


 ユフィーが一声かけるだけでアレスは体を震わせてシンの背中に隠れた。


「本当に何があった?」とシンとフェリスは互いに顔を見合わせたが深くは聞かない方がいいと思いユリス達と合流した。


「そう言えば案内人が来てるって聞いてたけど誰もいないわね」


 エンネアが口にするとどこからか「おーい!」と叫び声がする。


 しかし周囲にこちらを呼んでいる様子の人は見当たらない。するとエミルが斜め上、空を指さして「あっ!」と叫ぶ。


 その先には空中を猛スピードで飛んでくる何か。それが近寄って何か分かると今度はシンが「あっ」と呟く。


 飛んできた人は猛スピードでありながらも土埃も立てず、ユリス達の目の前で綺麗に着地する。


 フードを被った黒いマントの人はすかさずフードを脱ぐ。ヴァーミリオンの長髪と極彩混じりの赤い双眸。強烈なインパクトがありながら胸は少し控えめだがしなやかな指先とルックスのいいスタイルがレベルの高さを表しフェリスはついつい見とれてしまっていた。


 そしてもう一人が別の意味で興奮していた。


「る、るるるルキ様ぁ!?はわわぁ〜」


 エミルが興奮して叫び声ながら魂が抜けたように倒れるのをユアンが受け止める。


 ルキは全員を見るとシンの元に歩み出る。


「やっほーシン。元気してた?」


「やっぱりルキってルキ姉のことだったんだ。僕は元気だよ」


「だと思った。ミゼイリア様から聞いたよ活躍してる見たいだね」


「僕はまだまだだよ」


「ちょっと待ってシン!?」


 シンとルキが平然と会話しているとユリスが慌てた様子で間に割り込む。


「ど、どうしてシンがこの人と知り合いなの?それに今……ルキ…姉?」


 混乱状態のことに気がついたシンは全員と向き合うようにルキの隣に立つ。


「僕の実の姉、ルキです」


「ルキです!弟がお世話になってます」


『えええぇぇぇぇぇ!!?』



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