表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

騎士として 人として


「はっ。まさか俺に勝てるとでも?魔剣の力が使えなきゃ何も出来ないと同じだろ!!《空帝》!」


 振りかぶられた一閃からは圧縮された空気の刃が放たれる。


「くっ!」


「おらぁ!」


 余りの速さに反応が遅れ横に飛び込んで避けたつもりでも左の二の腕に掠り血が飛び散った。


 間髪入れずに刃が飛ばされる。魔剣で受ければ確実に押し負けることが分かっているからこそ避ける他ない。


 更に《斬軌》の魔力を残そうにも《空帝》の魔力に上書きされ消されてしまう。


 打つ手はもうない。


「とでも思っているならお前もさっきの奴と変わらないな」


 避け続けるユフィーだが先程から汗を少しをかいていなかった。空気の斬撃も初撃こそギリギリだったが何度も見れば体が慣れ余裕にかわして見せる。


 対して相手は幾度も魔剣の力を使い、加えて《斬軌》の魔力を無力化するのに執拗に魔力を消費して大剣を振りかぶるだけで汗が流れる。


「ハァ…ハァ、中々しぶといじゃねぇか」


「もう疲れたのか?魔剣の戦闘に慣れていないのか?」


「うるせぇ!」


 縦に振り上げられた斬撃が飛ぶがユフィーはそれを体を少し横に向けるだけで避けた。


「私の魔剣を封じたつもりだろうがお前は勘違いしている」


「動揺でも誘ってるのか?」


「まず私は魔剣を使うが、B級の魔剣は魔法使いでも使える。お前はずっと私が使っているのが魔剣の力だと思っているようだが、そこから間違ってる」


「考える必要がないからだ!《帝》の魔剣の前にお前らの魔法なんてお遊び同然だ!それにお前の魔剣の能力は相手を誘い出さない限り当たらない!何も警戒するものはない!」


 男は聞く耳を持たず大剣を振りぶった……かに見えたが空気の斬撃が出なかった。確かに振り切った。しかしよく見れば振られていたのは腕だけで魔剣を握っていた両手が手首から地面に落ちていた。


「ああああああああぁぁぁ!!!?俺の手がァァァァ!!??なんでッ!?俺はッ!確かに魔力を!!ぐぅぅ……」


 膝をつき痛そうに両腕を震わせる。大量の血が流れ出し息が荒くなっている。


「魔剣素人は知らないか。《魔界》。一つの魔技に瞬間的に限界まで魔力を載せる技術だ。お前が最後に油断したとき残しておいた《斬軌》の魔力に《魔界》をした。それだけだ」


「ざけんなっ!!お前の魔剣の力は残すだけで移動出来ないだろ!」


「分からない奴だな。動かしたに決まっている」


「……は?う、動かした?」


「言っただろう?。B級の魔剣使いは己の魔法がある。私の固有魔法は『糸』。魔力で生成した糸は魔力の衝撃ぐらいじゃ簡単にはちぎれない。だから糸で《斬軌》の魔力を手繰り寄せ油断した所を狙った。そのまま首を狙ってもよかったんだが、戦い慣れしてる奴は即死を狙われる攻撃には鼻が利くと言うからね。さてそれじゃそろそろ死んでもらおう」


「ひぃ!ま、待ってく──」


 ヴァルスを横に一筋に描き糸を生み出して空に残る魔力に結びつける。糸を操作して引っ張り魔力が男の首に触れた途端《斬軌》を発動すればスパッと首が飛んだ。


「ふぅ……。流石に消費した魔力が多すぎたな」


 平然を装っていたがついに集中が切れ体がふらついた。息を整えてから視線を移す。


 手練は今ので最後だっただろうがタイミング悪く更に黒マント達が集まってきた。


 ユフィーは疲労したであろうにも関わらず魔剣を握りしめて主の前に立つ。


「ユリス様、これ以上はもたないでしょう。隙を見てお逃げ下さい」


「そんなっ!」


 逃げたくなかった。ユリスがそう思っていてもどうにもならない状況を歯がゆく強く言えなかった。願いを込めて右手の中指にはめられた白い指輪を見つめ手を握りしめる。


(お願い………シン!)




「ッ!」


 シスベルが呼んだ魔物と魔教団が一斉に襲いかかり乱戦状態となっていた。シンとフェリスとユアンはなるべく距離が離れないようにと立ち回っていたが魔物の圧倒的数に苦戦を強いられていた。


 その乱戦に乗じてシンに奇襲を掛けてきたロトムと一騎打ちの形となっていた。その途中にシンは心の中に響く鼓動を感じた。


「今のは……」


「隙だらけだぞ!」


 ロトムの魔剣《疾駆》は素早さと魔力の流れを掻き乱す性質を持ちこれにより魔力感知をすり抜けての奇襲を得意とする。


 足を止めたシン。その隙を見逃さずロトムは畳かけようと魔剣を振り抜く直後──。


「ッ!!」


 ロトムですら反応出来ない速度で弾き返された。そして同時にシンの魔剣との魔力の流れが変わるのを感じた。


「チッ!《乱疾駆》!」


 A級魔剣の《開門》。一度の《開門》でその魔剣の能力は大幅に上昇する。ロトムが《開門》した途端風が彼を中心に吹き荒れ、静まるとロトムが消える。


「パワーだけじゃ、俺の速さには勝てない!」


 そこには残像だけが残り目では追えない速度で駆け巡る。


「《魔帝・悪眩ノ魔衣……」


「そんなものでッ!」


「……魔界》」


『ッ!?』


 刹那─その場で全員が感じた魔力の異変。しかしほとんどの者はそれを気にしている暇はなかった。それでもその異変を鮮明に感じ取れた人には分かる異様。


 空から眺めているだけのシスベルにですら背筋を凍らせるほどに。


 立ちすくすシン。そのすぐ横で血だらけとなったロトムが倒れ込んだ。


「……何をしたの、シン」


 理解が追いつかない領域……そう感じたシスベルだったがいつの間にかに笑みを作る。


「僕が唯一使える《悪眩ノ魔衣》は使用から魔力暴走するまでを残り時間としているわけですがその時間を短くする、つまり魔力を流す速度を早めるとより強力に短い時間使えることになります。ですから逆に、発動可能な時間を一秒未満にして限定させてもらっただけです」


「ふふっ。すっごい。《開門》してるA級魔剣を《開門》なしで勝っちゃうなんてやっぱりシンは凄いよ!」


「僕からも聞きたいことがあります。ここと同時に学院にも……ユリスのところにも襲撃を仕掛けているんですか?」


「そうだよー。あっ、それでいきなり本気になっちゃった?でも残念だねぇ騎士なのにご主人様のピンチに駆けつけられないなんて」


「そうさせる計画だったんですよね」


「あったりー!」


 上機嫌な顔を見せるシスベル。


「シンはとても理性があるっていうか……理知的?とにかくシンが冷静じゃ居られなくようにしないと絶対私に剣を向けたりしないでしょ?でもシンは騎士だからね。主人が死んで冷静でいられるわけないよね」


「狙いは僕ですか?」


「元々はシンの持ってる魔剣を狙ってたの。でもね、シンと触れて気が変わっちゃった。君が欲しくなった。出来れば魔法じゃなくて意思で来て欲しいけどそれは無理だからね。大事な人を殺して無理やり意識させてあげる」


それでシンの気をそらせるとでも思ったのか楽しそうに笑う。しかしシンの顔色一つ変えることはなかった。


 むしろ、おもむろに頬が笑っていた。


「そうですか。ですがシスベル様、一つ忘れないで下さい」


「なにかな?」


「僕がユリスの騎士である以前に、それは無理ですよ。だって僕は騎士としてではなくとも、一人の男としてユリスを好いているから」


 柔らかな笑みにシスベルは一瞬顔を歪ませた。


「シンこそ忘れてない?ここから学院までの移動手段の魔剣はこっち方で使えなくしてあるの。もう助けに戻れない」


「騎士を舐めないで下さい。行くよニクス」


“おい、まさか本気か?”


「本気だよ」


“一歩間違えば…”


「行けるよ。だって僕が決めることでしょ」


「何するつもり!幾らその魔剣でも転移の能力はない!諦めなさい!」


「騎士に諦めを請わないで下さいシスベル様。僕はあなたの言いなりにはなりませんし魔剣も譲りません。そしてユリスも。なので一番良い方法を思いつきました」


 シンに流れる魔力は先程の魔技で暴走寸前。故にもう制御は不可であった。しかしそれでも魔剣に魔力を集中させる。


「凄い…ッ!なんて魔力!」


「待ちなさいシン!その魔力どうするつもり!」


 魔物の群れを掻い潜ったフェリスがすぐ後ろにいた。


「ユリスを助ける。近くにエンネア様もいる」


「ッ……。シン、まさか……。いいえ、分かった。エンネア様をお願い」


「うん」


 集約される魔力は周囲にまで影響を与え魔物の動きが鈍くなる。


 シンは左手の人差し指にはめられた灰色の指輪を見つめる。この指輪は主人と騎士の生命を教えてくれる。見た目に変化はない。けれどシンにはそれ以上にユリスの感情が伝わったような気がした。


(ユリスが助けを求めてるんだ。それに応えないでユリスの騎士なんて名乗れない!)


「全力で行くよ……ニクス」


“全てはお前が決めることだからな。俺はそれに従うだけだ”


 魔剣を逆手で持ち空に向かって切っ先を差す。深く息を整えて体を力強く前に押し出すように遥か空に向かって魔剣を投げつけた。


「行け…《魔帝》ッ!!」


 残り全ての魔力を纏い《魔帝》は黒い放物線を描き高く高く放たれる。天まで昇るような黒い流星が彼方まで飛んでゆく。


 その先が目指す先は当然主の元。



「ユリス様、なにか来ます!」


 大勢の敵が押し寄せる中ユフィーは接近する濃い魔力に反応する。それがなんなのか分からずユリスの前に立つがそれを振り払い手を差し出す。


「ありがとう……シン」


 壁を突き抜け地面に突き刺さる。黒く紫紺の刃からは魔力が垂れ流し、ヴィネニクスはそれを一気に解き放つ。すると魔教団が手にしていた魔剣が次々と破壊されて行く。


「ははっ……忠義では負けていないと思っていたが、悔しいな」


「だって私の騎士だからね」



「自分を犠牲にするなんてとっても騎士らしいわね」


「別にそんなつもりありませんよ。そうだ。シスベル様はもう一つ忘れていることがあるので教えてあげます。ここにいる騎士は僕だけじゃないんですよ」


 すると炎が渦を巻いて立ち上った。


「なに!?誰の魔力!?」


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!大体のことはアモルスから聞いたぞシン!こんな時にアルベルト様のお傍にいられないなんて不甲斐ねぇがお前の分まで俺がぶっ飛ばすぞぉぉぉぉ!!」


 眠っていた獅子が目覚める。


「アレス君ふっかぁ〜つ」


「起きるの遅いのよ単細胞!」


「待たせたな!《極炎帝・緋緋炎熱火山》!」


 荒れ狂う灼熱がまとめて敵を消し炭にしていく。


「待て馬鹿、それは違うだろ」


 続けて炸裂が起きる。


「ここいるのは騎士だけか?」


 煙草の煙をフゥ〜と吐き誰もが知ってる女性が爆煙の中から現れた。


「魔法士もいること忘れるな」


 指をパチンと鳴らすと無数の炸裂が起き魔物を次々と飲み込んでいく。


『スミス先生!?』


「全く馬鹿野郎共。あたしがうたた寝してる間に何やってんだ」


「スミス先生こそ何で生きてるんですか!?爆発で死んだんじゃ!?」


「勝手に殺すなタコ!そこに転がってる奴が怪しかったからな。油断を誘おうと思ったらうっかり睡眠薬飲んじまって。起きたらテントが吹き飛んでたからビックリした。まぁ魔法士はそういう耐性高いからな」


「やっぱり直撃してるじゃない!」


「グダグダいってんじゃねーよ」


「あなたもよ教諭。元二級魔法士だか知らないけど魔剣使い以外用ないから。呼びたくないけどもう手駒なしいこの子で終わらせてあげる」


 スミスに対して全く笑みを見せようとしないシスベル。そんな彼女が蔑むような顔をするとその上空に巨大ななにかが現れる。


「嘘でしょ……『上龍種(タイラントドラゴン)』!?」


 B級のドラゴンや地龍よりも遥かに上回る巨体な龍。紛れもなくA級の魔物。


「凄いでしょ!黒騎士が来た時の為にA級を何体か手懐けてるの。その内の一体。《開門》してる《炎帝》が居るのは予想外だけどそれ込で今の戦力じゃあ到底太刀打ち出来ないでしょ!シンの魔剣ならもしかしたらどうにかなったかもね!」


「ごちゃごちゃうるせーアバズレだな」


「……なんですって?」


 初めてシスベルが険悪な表情をした。


「自分の生徒がそれなりに成果を出しているんだからあたしも何もしないわけにいかないなぁ。てわけで」


 スミスが両手を広げる。


「《灼熱地獄》」


 右手に赤い炎が生まれる。


「《極寒地獄》」


 左手に青い炎が生まれる。


「集束」


 両手を合わせるようにして赤い炎と青い炎が混ざり合う。熱波と冷気が交互に広がる。二つの炎が小さくなると手が合わさる。


「何をしてるの?。やりなさい!」


 シスベルが命令すると巨大な龍は隕石が落ちるのような勢いで垂直落下する。


「わざわざ近寄ってくれて手間が省けた」


 手を離すと小さな黒い玉が生まれ指先に乗る。それを上に掲げ龍に向け黒い玉を指で弾く。


「《死シテ濡レル火ノ屍・亜空地獄》」


 龍が大口を開けスミスを飲み込もうとするよりも先に黒い玉が触れる。


 すると黒い玉は突如龍を飲み込む程に巨大化して一瞬で消滅すると龍は無気力に地面に落下した。


「元二級魔法士?。あたしは元一級魔法士だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ