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悪眩ノ魔衣


「はぁ…はぁ…」


 アレスは力を使い果たしその場に倒れそうになるが大剣を突き立て何とか立っている。しかし一歩踏み出すことすら出来ないほど既に限界がきていた。


 燃えていた森も《炎帝》の魔力が尽きたせいか鎮火されていた。地龍も見る影もないほど消し炭となっていたため一先ずは安堵した。


「アレス君!」


 自分の名を叫ぶ方を向けばグループの仲間達が追いかけてきていた。


 心配していたがその必要がなくなったことに安心したのか力尽きるようにその場に倒れる。


“よくやった。アレス”



 一方その頃シンは《魔帝》の魔力感知を頼りに他のグループを探しているが気配が中々見つからなかった。


「ニクス、ここまで見つからないものなの?」


“恐らく先程の風だ。どういう能力かは定かではないがあの風が吹いてから魔力感知の範囲と精度が極端に落ちている”


「それじゃあまだ肉眼で探した方がいいね」


「大丈夫シン?重かったら自分で走るよ?」


「大丈夫です。それよりあの人の正体について何か心当たりありますか?」


「うーん、詳しくは分からないけどもしかしたら魔教団かも」


「魔教団?」


「悪魔を信仰してて人間は悪魔を崇めるべきだって人達の集まりらしいの」


「何でその魔教団とあいつが繋がるの?別に悪魔を信仰してたってこの国じゃそんなに珍しくなさそうだけど」


 国旗にも悪魔を描かれている程ならおかしくない存在だ。しかしそれは違うとシスティーは首を振る。


「あくまでレベスタは悪魔と人間が共存したことを表していて、魔教団は悪魔が人間を統べるべきだって思っているの。更に言えば魔法使いの迫害を掲げてるって噂もあるって」


「何でそんな集団がここを……ッ!!」


 走る足を止めてシスティーを下ろす。


「まさかだけど最近起きてる郊外の騒動も」


「え、ええ。魔教団なんじゃないかって話があるけど」


 戸惑いながら応えるとシスティーはシンの顔色を伺うように顔を寄せる。


 シンはそれを聞いて何かを考え込みその事に気づかなかった。


「悪魔を信仰……郊外事件……魔物の使役……ここを襲撃した訳。とすると…ッ!」


 近くの茂みから音がした。システィーは飛び跳ねるようにシンの後ろに隠れる。


 警戒するが《魔帝》が静かであるからして抜かずに柄だけ握って近づくと大きい体をしたクマが現れた。


「あれ、この魔物」


 システィーが口ずさむ。


 シンにも見覚えがある。


「もしかして昨日の?」


「そうだと思う」


 しかし何故かクマは襲って来ずじっとこちらを見ている。


“魔力の流れからしてだいぶ穏やかだ。襲ってこないから安心しろ”


「うん。だけどなんかシスティー様のことをみてる気が…」


 言いかけてクマはのそのそを近づく。流石に抜かずとも身構える。しかしシスティーが肩に手を置き前に出る。


「大丈夫ですか?」


「うん。多分だけど昨日見逃してくれたお礼をしに来たんじゃないかな」


「分かるんですか」


「私は魔法でね。動物やある程度の魔物なら感情が分かるの」


 大人しいクマに近づきその体を撫でるように触れると地面に寝かせた。


「懐きすぎてません?システィー様凄いですね」


「あはは、そんなことないよ。……ねぇシン」


 愛想笑いをするとスっと真剣な表情をする。


「私なら大丈夫だよ」


「…僕は騎士です。今はシスティー様のお側を離れるわけには」


「違うでしょ?」


「え?」


「あなたの本当の主人の為に。シンがするべきなのは私を守ることじゃないはずよ。騎士としてなら、行って」


「システィー様…」


 続く言葉を止めクマに寄り添い、頭に手を置く。


「システィー様を頼んだよ」


 無言のままだったがシンは手を離し地を駆ける。


「頑張ってね、シン」



“戻った所でお前に何が出来る?今の身体能力だけでどうこう出来る相手じゃないぞ”


「出来ないからやらないなんて知らない」


“出来ると思えばやれると?生憎魔力なしで俺の刃があれに通らないことは分かっている。それをお前はどうすると?”


「僕がニクスの制御が出来ていない。つまり魔力の放出限度が調整出来ていないってだけで、別に常に全力になってるわけじゃないんでしょ」


 魔力感知でフェリスとユアンの魔剣の魔力を探りつつ森を駆ける。


“確かにそうだな。しかし一定以上の威力、しかもその最低でも加減が出来ていないようなものだ”


「そう、なら一つ試せる」


 迷いのない純白の双眸。《魔帝》ですら心の奥底で感じている。本当の意味でこの男に不可能なことはないのだと。



「こっちよドラゴン!」


 フェリスは空に飛んだドラゴンを挑発すると真っ先に降下する。そこに隠れていたユアンが翼に向かって鞭を打ち込む。


「この毒ならぁ!」


「ユアン後ろ!」


 そこにもう一体のドラゴンがユアンを叩き飛ばす。


“フェリス!”


 オズが叫ぶと降下してきたドラゴンがそのままフェリス目掛けて落下。紙一重でフェリスは飛び上がって交わすも三体目のドラゴンが尻尾で叩き落とす。


「ぐぅ……ユアン生きてる!?」


「な…なんとかぁ〜」


 僅かにユアンの声が聞こえた。一先ず生きてることに安堵する。


 フェリスが幻覚を見せ撹乱して隙が出来た所にユアンが毒を打つ。その作戦もドラゴンの嗅覚ですぐに打ち破られフェリス本人が囮となって徐々にダメージを与える三段だったが何度毒を打ち込んでもドラゴンは一体すら怯むことはなく二人とも限界が近づいてきていた。


 すると一体のドラゴンが空を飛びユアンがいる方向に向かって炎のブレスを放った。


「ッ!!ユアン!」


 フェリスは真っ青になる勢いで駆け寄ろうとするが二体のドラゴンに挟まれ身動きが取れなくなってしまう。


「流石に不味いわね」


“いえ、そんなことないみたいですよ”


「え」


突然フェリスのお腹に何かが巻き付きそのまま体が引っ張られた。


 一瞬ドラゴンの尻尾にでも捕まったのかと思ったが視界に三体のドラゴンが映りお腹を見ると見覚えのある鞭。


 着地して鞭の持ち主を見ると身体中怪我をしているものの笑顔のユアンと逃がしたはずのシンがいた。


「何でシンが!?システィー様をどうしたのよ!」


「システィー様は大丈夫。頼れる護衛がついてる」


「ッ……そう、分かったわ。でも万が一のあったら責任取ってもらうからね」


「勿論。でも先に」


「シン君も加わったしぃ反撃だよぉ〜!」


 数で言えば三対三。フェリスにとってもシンが来たことは大きな戦力ではあるが内心ではまだ勝機が見えないでいる。


 根拠のないことに自信を持つユアンに冷めた視線を送りつつシンに視線を移す。


「あんたちゃんと戦えるの?」


「うん。でも完全には扱い切れないだろうから二人にはサポートに回ってもらいたい」


「分かったわ。エンネア様の騎士として全力で援護してあげるわ」


「私もユミル様の騎士として役にたっちゃうよぉ〜」


「うん。ユリスの為にも僕の今出来る全力で!」


 ドラゴンと対峙し一斉に襲いかかる。フェリスとユアンは左右に展開しシンは《魔帝》を構え魔力を全身に流れさせる。


「《魔帝・悪眩ノ魔衣(あまのまごろも)》」


 黒い魔力が剣先からシンの全身を覆う。そして襲いかかるドラゴンに向かって走り出す。シンは恐ろしい程速い速度で加速し瞬く間に背後に移る。


「なんとか成功だね」


 息をフゥと吐く。


 それを見ていたユアンは空いた口が塞がらない程にびっくりしていたがフェリスは冷静に見つめる。


「なにあれ」


“考えましたね。あれは全身に魔力を流動させて一時的に魔力の放出を安定させているのでしょう。通常の身体強化に更に身体強化を施す魔技のようですね”


「一時的ってことは長くは持たなそう?」


“前回の威力から推察するに十分が限界でしょう。それ以上は魔力が暴走しかねません”


「上等!シン!私とユアンが援護してあげるんだからさっさと片付けるわよ!」


「分かってる!」


 ドラゴンが振り返るよりも先にシンが走り出す。ドラゴンの胴体下で大きく振りかぶった紫紺の刃は鱗を容易に切り裂いた。


 悲鳴を上げるドラゴンに追撃をしようとしたが残り二体が鋭い爪を振りかぶってきていた為回避。しかしそこにユアンがドラゴンの隙をつく。


「ナイスぅーシン君!邪魔な鱗がないなら毒も強く速く巡る!」


 大きな傷に向かって鞭を打つ。だが即座に尻尾の反撃にあい連続して攻撃する隙がなく後退する。


「フェリちゃん!嗅覚を麻痺させる毒を打ったからもう幻覚を見破られることはないよぉ!」


「よくやったわユアン!惑わせ、《幻狼》!」


 傷を負ったドラゴンの周囲に無数にシンの姿が映る。嗅覚は機能せず魔力反応もある為困惑するかのように爪や尻尾を乱暴に振り回す。


「一体はこれで時間が稼げるわ!今の内に!」


「やっぱり二人の魔剣は凄いね。僕も負けてられないね!」


 ドラゴンが反応出来ない程の速度で駆け回る。前足、尻尾、胴体、首、あちこち切り裂き傷を増やす。切りつけられる度に激しく暴れるドラゴンの隙をついてユアンがあらゆる毒を打ち弱らせ、判断能力の落ちた所をフェリスの幻覚で更に惑わせ精神的にも追い詰める。


「シン!避けて!」


 ドラゴンが頭を空に仰がせると牙の隙間から炎が吹き出た。危険を察したフェリスは咄嗟に声を上げるがシンは冷静に呼吸を整え地面を蹴り出す。


 そしてブレスを放つ―刹那、一瞬シンの方が速く刃を振り抜き炎が吹き出るより先に首を断ち切る。


「危ないよシン君!」


 首を狙った一撃で空中に居る間にもう一体がシンに向かって口を開ける。その喉の奥から吹き出そうとする炎にユアンがすかさずシンの体に鞭を巻き付け引っ張りブレスを避ける。

 

「ありがとうユアン」


「下手に出すぎないでよ。本当なら私達じゃ相手に出来ない強敵よ。シンの攻撃力があるからなんとか成立しているものなのなんだから」


「分かってる。援護お願いね」


「完璧な隙を作ってあげる。仕留めて来なさい!」


「任せてよ」


 フェリスの背中を預ける様にドラゴンに向かって真正面から走り込む。


「行くわよオズ」


“えぇ。フェリス”


 《幻狼 オズ》を胸元で構え剣先を突き出す。


「《幻狼・幻惑置換(げんわくちかん)灯火(ともしび)》」


 切っ先から光る魔力。ドラゴンがそれを見た途端異変が起こる。背後から恐ろしい程に強大な魔力反応に本能的に正面から来るシンを無視して振り返る。が誰もいない。


「残念だけど私が出来るのは幻覚だけ。でも惑わせるのは視覚情報だけじゃないのよ。私の魔技は一部の感覚器官に過剰な幻覚作用を及ぼせることも出来るから」


 勝ち誇ってレイピアを振るう。


 シンのことを完全に無視してしまった為、否、未だ感じる魔力を探りながら背後から襲いかかれていることすら忘れている間に首が切り落とされた。


「あと一体よ!」


「あれ?どこ行っちゃたぁ?」


 ユアンが首を傾げる。最初に傷を負わせたはずのドラゴンが姿を消していた。しかしお互い魔剣の通じてドラゴンの魔力は確かに感じていた。


「不味い、空よ!」


 フェリスが空を見上げて声を上げる。


 そして地上に向かって勢いよくブレスを吐いてきた。


「はわわわわぁ、逃げないとぉ!」


「流石にあれは……シン!?」


 慌てて逃げ出すユアン。その後を追おうするフェリスだったが逃げ出す様子がないシンを見て足を止める。


「どうするつもり!」


「フェリス、空なら被害ないよね?」


「何言って……ッ!ええ!やっちゃいなさい!」


 その言葉を聞きシンは魔技を解く。迫り来るブレスに向かって大きく魔剣を振り上げる。


「《魔帝》!」


 溢れる黒い魔力はブレスをかき消して遥か空まで届く。ドラゴンは黒い斬撃に真っ二つになって落ちてきた。


「わぁーい!すごいよぉ私達ぃ〜」


「はぁ……ホントに死ぬかと思った」


 跳ねて喜ぶユアン。二人はシンが来る前からかなり魔力を消費していた為疲れて当たり前だが跳ねる元気があるとは恐ろしい。


 フェリスは当然のように疲れたから膝をついて両手を地面に付ける。


「お疲れ二人とも。大丈夫?」


「大丈夫大丈夫ぅ〜」


「大丈夫なわけないでしょ!!」

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