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不吉な予感


「シンはちゃんと頑張ってるかなー」


「ユリス様がご心配する必要はありません。あのシンのことですから」


「そうだけどね。ほら、私に対しては敬語使わせてないでしょ?一応私は王族だし、いきなり貴族の人ってなって軽率な言動しちゃうじゃないかなって思って」


「それは主人の教育不足よ」


 学院の中庭のテーブルでユリスが侍女のユフィー共にいると、エンネアが一人腕を組んで威張り口調で同じテーブルに座った。


 するとユフィーが立ち上がりユリスの後ろに立った。


「騎士がいなくて寂しいからって休み時間まで私の所まで来なくてもいいのに。ユフィーも座ってなさい」


「はい」


「常に侍女を傍に置いてる人に寂しいなんて言われたくないわよ。それに私はたまたま歩いてたらたまたまユリスを見かけてたまたま話し声が聞こえただけなんだからね」


「たまたま歩いてたらってなによ」


「それじゃあわたくしにも話が聞こえてきたことはたまたまってここでいいかしら?」


 今度はユミルが目を細くして不敵な笑みで近寄ってきた。


「たまたまにそんな利便性なんてないでしょ」


「ふふっ。同席させてもらうわよ」


 四つある内空いてる椅子に座るとユフィーがまた立ち上がった。


「わたくしに気を使わなくてもいいわよ」


「いえ、そんなわけにも参りません」


「そう。それで実はユリスに用があるのよ」


 膝を付き組んだ手の上に顎をのせ薔薇色の双眸をユリスに向けた。


「それって私も聞いて大丈夫?」


「ええ。あなたにも関わってくるわ」


 エンネアが問いかけるとユミルは頷く。


「ミゼイリア様から聞いてるかもしれないけど、郊外で妙な動きが起きてるみたいなの」


「朝手紙が届いたよ。騎士団が襲われたんだってね。それで?」


「何もないと思う?」


 意味深な問にユリスは目を細めた。


「…どういう意味?」


「ユリス様、それについて私からも少しいいですか?」


 ユフィーが立ち位置を変えユリスの横に立つ。ユリスが頷いた。


「実は試験前日にシンから話があったんです。今回試験は何か変じゃないか、と」


「変?」


 ユリスが眉を寄せるとユミルはピクリと反応した。


「相変わらず、騎士シンは鋭いわね」


「どういうこと?」


「去年までと試験の方法が違うのよ」


「そうなのユフィー?」


「はい。正確には上級生は変わりないのですが一学年から護衛の実技試験があったことが無いようなんです」


「学院が今年から形式を変えたとか?」


 エンネアが口にするとユミルは首を振った。


「詳しいことは分からないけれどそれはないと思うわ。郊外で起きた集団事件に前例のない試験の形式変更。何も関係なければいいのだけれどね」


 背もたれをついて不吉な言葉を零す。


 ユリスは考えるのに目を瞑りすぐに目を開けるとユフィーの方を向いた。


「急いで調べてきて」


「承知しました」


 指示をしてすぐに立ち去るを見るとユミルに視線を戻す。


「ミゼイリア様はなんて?」


「手は打ってる見たいよ。でも完全にカバーしきれないでしょうね。現に学院の警備が少し少ない見たいだし」


 試験期間中主人の騎士がいないこともありその間騎士団から警備を兼ねて騎士が送られるはずなのだが事前に聞いてた数より明らかに少ないのだ。


 庭を眺めながらユミルが言うとエンネアはうーんと喉を鳴らした。


「もしかして私たちの学年が何か関わってりするのかな」


『………』


 そんな呟きにユミルとユリスは神妙な顔で黙り込んだがエンネアにその不自然さを気にされることはなかった。


 もし仮に狙いが一学年の誰かとなったとき二人の脳裏に考えたことが完全に一致した。恐らくこの場にいないユフィーも同じことを考えたことだろう。


(大丈夫だよね。シン)



 第四演習場、教師専用テントで二人しかいないはずでありながら一人の人影だけが倒れていた。


「転移装置は停止させた。計画を始めようか」


 通信魔法具を片手に黒マントはニヤリと笑う。



 正午頃シン達のグループは川原で魚釣りをしていた。


「ほぉ!見てフェリちゃん!大っきいの釣れたよぉ〜!」


「うっさい!何で私には一匹も食いつかないのよ!」


 最初は川に魚が泳いでいるのを見てシンが簡易的な釣竿を作って食料確保の為に魚を釣っていただけなのだが、それを見ていた三人(特にシスティー)がやりたそうな目をしていたから人数分作り皆で魚釣りをすることになった。


 システィーは魚がかからなくてもご機嫌な様子で、ユアンは三匹目を釣り上げ自慢げにフェリスに見せると未だ一匹も食いつく気配がないことに苛立ちを隠しきれない。


「楽しそうでなによりだね」


“一人楽しそうじゃない奴が混ざっているがな。というかお前サバイバル技術高すぎやしないか?”


「そんなこというならニクスも何か知恵をくれよ」


 シンは木陰は座り魔剣に触れ《魔帝》と会話していた。


“……随分呑気だな”


「僕だって呑気でいたくないよ。やっぱりユリスのことは心配だし」


“主人愛が強いな相変わらず。なら大人しくサボればよかったものを。俺にとってもここは退屈だ”


「ユリスの面子に泥を塗るようなことするわけないだろ。サボりたかったけど」


 ボソッと本音が零れる。


 魚が釣れないことに嫌気が指したのかフェリスがシンの元に来た。しかめっ面で隣に座る。無言で何も喋ろうとしない為シンから口を開く。


「フェリスって短気だよね」


「一言目からそれ言う!?……昔っからエンネア様と入れば嫌でも怒りやすくなるわよ」


「小さい頃からエンネア様と?」


「私もエンネア様も姉がいたのよ。二人も私とエンネア様と同じ関係でね。それでよく連れ回されてたのよ」


「羨ましいな。僕も生まれた時からユリスと一緒にいたかったよ」


「それって何かの愛情表現?」


「ううん素直にそのまんまの意味」


 即答すると「うわっ」としかめっ面で引きつかせた。


 離れた所でユアンとシスティーが楽しげにしている声が聞こえてくる。


 それを眺めながらフェリスは小さく息を吐く。


「ふぅ。で?人の話聞いて自分は何もないわけ?」


「僕から話すこともないけど。…そうだ。フェリスに相談したいことがあるんだけどいい?」


「何よ。言ってみなさい」


「今回の試験、例年までと比べると変わってるんだよね」


「あーそれね。エンネア様も気にしてたわ。二言目からは気にしなくなってたけど。けど試験が違うと何が気になるのよ」


「サバイバル技術の基本は教材の最後の方に記載されてたんだ。それを教わる前に試験させるなんてちょっと変じゃない?辺境に住んでた僕はそこら辺の常識は知らないけど、普通はそんなことしないと思うんだ」


「それもそうね。気になると言われればそうだけど、もう試験は始まって昨日だってなんてことなかったじゃない」


「それはそうなんだけど……」


 何が不安なのか言葉を濁すシン。


「まっ、何かあればスミス先生達魔法士がいるから」


「魔法士?」


「魔法士って言うのは簡単に言えば凄腕の魔法使い。中でも一級魔法士は黒騎士の次に王国最強と言われてるらしいの。魔剣が特記戦力と上げられる中、一級魔法士もその分類にされるほど凄いのよ」


「もしかしてスミス先生って」


「一級魔法士が教師なんかするわけないでしょ。聞くところによるとあの人は元二級魔法士らしいわよ。学院の教師の殆どが二級魔法士だった人が多いわね。魔剣使いはまずいないのよ」


「え、なんで?」


「B級魔剣使いは別として、A級魔剣使いは教育より戦力を優先されるの」


「へぇ」


“おい。今何と言った?”


 不意に《魔帝》の声が聞こえ肩をビクッとする。隣でいきなり驚く様子に冷たい目をするフェリス。


「……どうしたのよいきなり」


「魔剣だよ。どうしたのニクス?」


“何と言ったのかと聞いている。今そこの女、魔剣使いの教師はいないと言ったのか?”


「え?ねぇフェリス、ニクスが魔剣使いの教師はいないのかだって」


「今言ったでしょ。A級の魔剣使いは戦力優先。だから学院の先生には魔剣使いはいないのよ。それが何?」


 怪訝そうな顔になるフェリスにシンは少し申し訳なく思う。


“スミスとか言う奴と一緒にいた男は魔剣を所持している。しかも人間のいうA級魔剣だ”


「え!?あの人魔剣持ってたの!?」


「ちょっと!それどういうこと!」


 《魔帝》が驚くべきことを言うとシンは驚愕し、それからフェリスを声を荒らげる。


“……やはりあれは魔剣の魔力だったのですね”


 するとフェリスの魔剣、オズが呟いた。


「オズ!おなたも知ってたの!?」


“知っていた、というわけではありませんよ。ただ私の魔力感知はそこまで正確ではありませんから他の魔剣と区別がつかなかっただけです。気のせいだと思い言わなかっただけです。どうしますフェリス”


「どうするって……。試験のことと言い魔剣持ちといい。流石に変よ」


「ユアンとシスティー様にもこの事を相談しよう」


「そうね」



「それは確かに気になるねぇ〜」


「そうだね。あの人って確か今年から赴任したロトム先生だよね?魔剣持ちだなんて聞いた事ないよ」


 システィーもあの男については何も知らないらしく尚怪しさが増す。


「そもそも魔法士と魔剣使いって見分けがつくものなんじゃないの?魔剣使い本人には魔力が無いんでしょ?」


「それは少し違うわね。魔剣使いは揃って魔剣の力で身体強化されるでしょ?その時魔剣の魔力が体に流れてるから魔力だけなら感じられるのよ」


「でもスミス先生がそれに気づけないものなの?」


「それが謎なのよ。二級魔法士の魔力感知なら魔剣との違いに分かるはずだなんだけど」


 疑問が深まる中、ユアンとフェリスの魔剣がカタンと揺れた。


「アザベル?」


「どうしたのよオズ」


 二人の魔剣が何かに反応した様だった。魔剣を持たないシスティーには何か分からないが、只事でないことだけは理解出来た。


「強い魔力反応が遠くであった見たい」


「アザベルも同じこと言ってるよぉ。なんだろうねぇ〜」


「何がどうなってるんだろう。どうするシン?」


「うーん。ニクスはどうなの?何か感じる?」


“魔物の反応だろう。魔力の移動速度から飛竜種だろうな”


「飛龍?」


「飛龍って…まさかドラゴン!?」


 フェリスがものすごい剣幕で立ち上がる。


「ドラゴンはB級よ!こんなところにいるわけないわ!」


“いいえ。あの魔力がドラゴンなら納得です。その可能性が高いのは間違いありません”


「フェリスさん、万が一ドラゴンが居て遭遇した時の勝率は?」


「残念ですが今の私達はまず不可能です。シンの魔剣なら可能性はありますが、制御出来ない状態での戦闘はこちらの身が危険になります」


「……そう」


 顔を俯かせるシスティー。フェリスはどうにもならない事態に頭を悩ませる。


 ユアンも悩ましい顔をしながら頭を左右に振っている。ちゃんと考えてるのかさっぱり分からないが本人ならに真剣なのだろう。


 考えているとシスティーの腕についた魔法具が目についた。


「確かその魔法具ってスミス先生への棄権信号になってるんですよね?」


「え、うん。これを起動させるとスミス先生の所の魔法具にここの位置情報が送られて迎えが来る手筈になってる」


「なら起動して下さい。これほどの異常事態です試験どころの騒ぎじゃありません」


「そうね。私も賛成です。何かある前にスミス先生に相談しましょう」


「分かったわ」


 システィーは頷き魔法具を起動させる。


「あれ?」


 首を傾げながら何度も魔法具に触る。


「どうして起動しないの」


「システィー様ぁ、ちょっと見せてくださぁい」


 困惑する様子を見てユアンが手を取って魔法士に触れる。暫く凝視していると手を離した。


「大変だよぉ。これ偽物みたい」


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