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貧乳派


「来週より校外にて実習試験を行うからそれまでに三人一組のグループを作っておくように。以上」


 ある日のホームルーム。担任のスミスは口に煙草を咥えながら言った。


 ボリュームのある紫色の長髪に大人らしい化粧を施している。態度こそ最初だけ担任らしさを出していたが数日経つと生徒の前で堂々を煙草を吸うようになっていた。しかも授業中まで。


「スミス先生」


 スミスが教室から出ようとするとシンが手を上げた。舌打ちしながら振り向き煙草を口から離してから「なんだ?」と不機嫌そうに問いかける。


「不参加は出来ないんですか?」


「出来るか馬鹿。全員絶対参加拒否権無し分かったな?サボったら皆大好きご主人様共々退学だ覚えてろ」


 早口でそういうと煙草を咥えて出ていった。


 何人かがシンを見て「あいつ馬鹿だろ」と視線を向けてきていたが当の本人は全く気にする様子もなくため息を吐いた。


「出たくないなぁ」


「本音は心の中だけにしなさいよ。事前に言われてたでしょ?」


 隣に座るフェリスも冷たく答える。


 王立学院は西校舎と東校舎に分けられており、東校舎は所謂上流階級の学舎。西校舎は騎士以下の階級学舎で平民や魔法師見習いなどがいる中シンがいるクラスは主に主人がいる騎士で構成されている。魔法師も中にはいるが現在のところ接点はなく彼らの制服もシン達騎士とは別のデザインになっている。


 そして王立学院では東と西、そしてクラスごとに別々の試験が振り分けられており中でも最も過酷な試験を多く受けされられるのがこのクラスである。理由はもちろん魔剣持ちであることとクラスの中にアレスのように元騎士団だった人が多いからだ。


 当然試験を放棄すれば減点されることぐらいシンも百も承知。だが。


「せめてユリスと一緒がよかっなぁ」


「駄々を捏ねない。たったの一週間でしょう?」


「一週間もだよ!?」


 このクラスの今回の試験内容は言わばサバイバル。七日間決められたグループ内での護衛対象と共にサバイバル生活をしそれを評価するもの。


 シンが駄々を捏ねているのもまさにそれであり試験期間中帰宅は不可であるなか七日間ユリスに会えない。これはシンにとって非常に死活問題だった。


「どうして護衛する人を選んじゃいけないのさ」


「試験だからに決まってるでしょうが。それにシン以外の他にも仕える主人がいるのよ」


「それなら簡単だよ。主人と二人一組になればいいんだよ」


「自信満々に言わないの。大人しく諦めなさい」


「うぅ、なら直前までユリスの温もりでも感じながら」


「人前で変なことを言おうとしないで」


 半泣きしそうなシンにも冷たいフェリスは半ばイラッとした声で黙らせた。


 それからもシンは授業中ですらつぶつぶとうるさくフェリスは午前中の間にペンを五本も折っていた。


「ユリス様からも何とか言って下さい!」


 お昼休み、シンの目を盗んでユリスに助け船を出した。事の詳細を話すと苦笑いで返されたが後ろのユフィーは小声で「あの馬鹿」と呟く。


 そうだなぁと言いながら言葉を紡ぐユリス。


「私もシンがいなくなるのは寂しいけど……そうだ!」


 名案が思いついたようで遠くからシンを手招きした。すぐにそれに気づき走って向かってくる。


「どうしたのユリス?」


「あのねシン。試験っていうのは成績に大きく関わるの。シンも分かるでしょ?」


「う、うん」


 気まずそうな反応と共に視線を逸らす。


 ユリスはだからと続けてシンの耳元に口を寄せる。横にいるフェリスが顔を真っ赤にしているとも知らずに囁く。


「帰ってきたらご褒美あげる」


「ッ!!」


 直後、脳が覚醒したときのようにシンの体全体に電流のようなものが流れる。声は聞こえなかったようだが依然として顔を赤くするフェリスとシンの反応で大体どんなことを言っていたのか予想がついたユフィーも頬を赤く染める。


「ユリス様!今絶対良からぬことを仰いませんでしたか!?」


「ユリス、僕試験頑張るよ!」


「頑張ってね」


「ちょっとユリス様!?」


 様子が一変してやる気に満ちたシンににこやかに笑顔を返す。一方でちゃんと返答がされないことに不安を覚えたユフィーだった。


「それでフェリス、この試験って具体的にどんなものなんだっけ?」


 お昼を済ませ改まった態度でシンはフェリスに聞いた。


「変わり身早すぎでしょ。それに具体的な説明ちゃんとされてるんだけど、まぁいいわ。場所は王立学院所有の第四演習場。クラスの中で三人一組のグループに上級生が一人の四人一チーム。この時その上級生を自分の主人という立場として護衛していくの。評価点は護衛である人が大きく関わるけど地形や植物の調査や採取した魔物の部位などを持ち帰ると加点してもらえるの。ちなみに上級生には途中棄権が認められていてその場合そのチームは失格。ちゃんと理解したわよね?」


「バッチリ!」


 ふてぶてしい視線を送ると自信満々に親指を立てる。それが逆に不安に感じるもやる気があるならなんとかするだろうと他人事のように考えるフェリス。


「あ、いたいたシンくーんユリス様ぁ〜」


 聞きなれた声がするとユアンがにこやかに小さく手を振って歩いてきた。その隣にユミル。


「なによ、最近妙に大人しかったくせにいきなり」


「も〜フェリちゃん冷た〜い」


「うるさい」


 尖った口調のフェリスにユアンは相変わらずの様子で答える。しかしユリスとシンだけは少し神妙な顔になる。


 先日の騎士団本部での一件はユリスの耳にも入りその為かユミルとユアンはここ数日あまり接触してこなくなった。


 それでもまだシンは怪しんでいたがユリスからは何もしちゃ駄目だと言われていた為言う通りしていたが何気ない顔で近づかれれば多少は警戒する。


 するとシンとユリスの間にユアンが腰を低くし二人にだけ聞こえるように囁いた。


「そんなに警戒しないで?今日はこの前のお詫びがしたくてきたのよ」


 それだけ言うと腰を上げてウインクする。


 何を話していたのか気になるエンネアだったが何も言わなかった。実は裏でフェリスからあまりユリスにがっつかないようにと一言受けていた。当の本人は何故そんなことを言われたのか分かってる様子はないが自分の騎士に少々キツく言われたので渋々承諾した。


「シン君まだ試験のグループ決めてないんでしょ〜?よかったら一緒にならなぁい?」


 シンらの隣に座るとユアンがそんな提案を告げた。すると案の定と言うべきかフェリスが勢いよく椅子から立ち上がった。


「なに考えてんのよあんた!?」


「へ………フェリちゃん?」


 キョトンとする顔をするユアン。ユミルとエンネアも何であなたが?という顔になる。まさか例のことをフェリスにも話したのではとユアンはシンに視線を向けるもすぐに察してくれて首を横に振る。


「シン、分かってる?試験期間は寝床も同じなのよ?普段あんたに色香を振りまいてるビッチ騎士(ユアン)と一緒に寝ることになるのよ!」


「あー……」


「…………シン?」


 ユミルが「それどういうこと?」とユアンに視線を送ると目を逸らされ、フェリスの意図を理解したユリスが真顔でシンの名前を呼んだ。


 色香?と思うシンだったが主の視線に流石に焦りを感じた。


「違うよユリス!ユアンとは何もないからね!?」


「えぇ〜、シン酷くな〜い?いつもくっついても嫌な顔してないじゃ〜ん」


 慌てて誤解を解こうとするもユアンはシンの二の腕に豊満な胸をおしつけるように腕に抱きつきく。


「ちょっとユアン!?」


「シンも隅に置けないな。ユリス様というものがありながら」


「ユフィーまで!」


「シン?これはどういうこと?」


 笑顔でユリスが聞くも目だけ明らかに笑っていない。ヤバいと思ったシンだが何を言えば誤解が解けるだろうかとしているとフェリスが言っちゃいけないこと言っちゃったと思い仲介に入ることにした。


「ユリス様!別にシンはユアンのこと何とも思ってませんから!近くで見てて全然そんなことなかったですから!」


 シンは激しく頷く。


 しかしまだ疑いがあるのかジトーっとした視線は残り続けよく見ればその視線がシンの二の腕に押しつけられたユアンの胸に向けられていることに気がつき二人の胸を交互に見た。押しつければ腕が沈むほどのサイズのユアンに比べユリスの胸は僅かに膨らんでいるだけである。


「ち、違うよユリス!僕は貧乳派だから!」


「ッ!シン……」


 ユアンの腕を振り払ってユリスの肩を掴んで断言すると胸を打たれたかのようにして目が潤む。


 何やら感動的な雰囲気だがまぁいいかと思うフェリスだったがその時より危険なことに気がつくも阻止する間もなくなくユアンがシンの肩を叩く。何かと振り向いてにこやかに誰かを指さすとシンは目を見開いた。


 そこにはユアンと似た容姿であり主にしてまるで正反対のサイズ、断崖絶壁級のユミルがいる。本人はん?とよく分かっていないようだがシンが焦って向き直すと絶句するユリス。


「待ってユリス!貧乳といっても最低でも揉めるサイズの話だから!」


「シン!」


 すぐに訂正するとユリスの顔がパァと明るくなる。二人の知らないところで「うぅ!」と心に言葉が刺さっている人がいたが誰にも気づかれていなかった。




 暫くしてようやく落ち着いた頃。


「で?シンはどうするの?ユアンと組むの?」


 妙に圧を出しながら聞くフェリス。ユリスも気になり無言に見つめる。


「ん〜、でも試験ってどういう人と組めばいいかなぁ」


「当然と言えば当然そうね。偏り過ぎたメンバーにしたら万が一の時対応出来ないし、シンの魔剣は戦闘特化でしょ?だから他はシンのサポート出来る人にしたら良いんじゃない?」


「はいはいシン君!私の魔剣主に毒を使えるよぉ?便利じゃなぁい?」


「へぇ。魔物出るなら確かに便利そうだけど……」


 言葉を濁しながらユリスをチラッと見る。シンの本意と言えば彼女の機嫌は損ねたくないがユアンの魔剣の能力は良いかもと思っていたりする。


 すると今まで黙っていたエンネアが紅茶を一口飲んで一言。


「ならフェリスもシンと一緒になればいいじゃない」


『え』


 全員揃って驚いた。ごく自然にいうものだから驚いたがユリスはなるほどと相槌を打つ。


「確かにフェリスは無害だし、むしろ安全かも。フェリスはどう?」


「いや、私は……」


 おもむろに向けられ目をそらす。実のところフェリスはシンと組むのは遠慮したかったのだ。なんせ世間知らずの非常識。そんな人と組んでまともに試験が上手く行ってくれるとは思えなかった。


 さらに言えばシンの魔剣は殆ど制御出来ていないことを聞いていた。本人もあれを無闇に撃とうとはしないだろうがそれだと試験中シンは魔剣の能力をほぼ使えないのだ。


 要は足でまといになると思っているのだ。しかし主人の前でそんなことを言う訳にもいかず言葉に迷う。同時にさっきは自分のせいでややこしくなった罪悪感もあった。


「まぁ……シンが嫌じゃなければ」


「それならこの三人でいいかな」


 フェリスが渋々言うとシンはあっさり即答した。


「あら、そろそろ午後の時間ね」


 エンネアが言うとすぐ解散になり各々の教室に戻ろうとする。そんな中ユミルだけが座ったまま俯いている。ユアンだけがそれに気づいて近寄ると肩をガっと捕まれ顔を間近に寄せる。


「わたくしって、揉めないサイズかしら?」


「…………………………………さぁ〜?」


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