街道(3)
「アルスは、強いよね」
「うん?」
もしかしたらアルスからしてみれば、何を言っているのか分からなかったのかもしれないけれど、わたしは素直に思っていることを伝えた。
「ぼくが、強い? それはきっと誤算というか、大間違いだね。或いは、見る目がないと言えば良いだろうか。あまりにもはっきりと言ってしまうことが、ぼくの悪い癖であることは重々分かっているのだけれど」
「癖を直すことは出来ないんでしょう。だったら、それはそれで良いと思うけれど。……話を戻すと、アルスはわたしが出会った人達の中では、一番頭が良いと思う。それは、わたし達の環境を悪く言うつもりではないのだけれど……」
「それぐらいは分かっているし、それを誰かに告げ口するつもりもない。だから安心してくれて構わないよ。……問題は、ぼくが強いという判断だけれど、それは間違っているよ。それだけは自信を持って言えるかな」
そんなことを自信を持って言わなくて良いような気がするけれど、アルスは正直者なのかなと思った。
正直者の評価はかなり分かれる。正直に生き過ぎたが故に失敗する人間だって居るだろうし、正直者と宣っておきながら実は嘘吐きだったってこともある話だろうし。
わたしはそれのいずれも知っている。だからこそ、アルスはどっちなのかなと思った。
アルスがどっちであれ、わたしはずっとついて行くことに変わりはないのだけれど。
「いやいや、流石にそれはどうかと思うよ。……エレン、きみは世界を知らな過ぎる。それは大きな利点でもあるが、弱点でもある。それは今直ぐに理解して欲しい点ではあるかな」
「そうかな?」
わたしはそこまで酷いものだとは思っていないけれどね。
みんなはわたしのことを悪くは思っていなかったはずだし、わたしもみんなに迷惑を掛けたことは……、まあ、零ではなかったかな。
「ないとは言い切れないんだね……、まあ、別に良いけれど。自分のことを悪く言えない人だらけだからさ、この世界の人間ってのは。だから、きみ達みたいに裏表のない性格というのは、珍しいことなんだよ。……だから、少しは自分のことを責めない方が良い。人間というのは、そういって生きていく生き物なのだから」
「そういう生き物……ねえ」
わたしは他の種族を知らない。
知らないが故に、わたしはあまり正しい選択が出来るとは言い難い。だからかもしれないけれど、アルスはわたしよりも正しい選択が出来ると思う。けれど、全てをアルスに委ねるのも、アルスの負担が増してしまって、宜しくないと思う。
アルスはきっとわたし達のことを知らない。
それは旅人だから、というよりかはわたし達の種族があまり知られていないから、かと思う。
「……街道ってのは、かなり面白いスポットでね。街から街を繋ぐだけじゃなくて、そこで誰かと出会うと道中で話をすることが出来るから、情報収集としても素晴らしいスポットなんだよ」
「そうなんだ?」
わたし達の村じゃ、世間話をする場所というのはいつもばば様の家の前と決まっていた。それは誰かが決めた訳ではない、と思う。
きっと最初は何処だか決まっていなかったと思うけれど、気が付けばそこで行うのが固定されていた。だから、ばば様の家の前で世間話をするのが定番になってきたのだと思う。
それが、この世界では街道というものが役割を担っている、ということだろう。
「エレン、きみはどんどん世界を知ることになるだろう。けれど、それは良い情報だらけではないことを理解しておくべきだ。悪い情報だってあるし……、というかそっちの方が多かったりする。それが世界というものだし、それが人間というものなんだよ」
「そうなのかな……」
世界はまだ難しい。
きっとそれを理解することが出来れば、わたしは村に帰るための一歩を踏み出すことが出来るのだろうか。
それが一歩だというのなら、終点に辿り着くにはどれぐらい歩めば良いのか、という話にもなってしまうのだろうけれど。
「……まあ、街道の話についてはまた追々ということで」
「?」
突然アルスが話を終わらせたので、わたしは首を傾げた。
「見たら分かるよ」
そう言うので、わたしは正面を見る。
気が付けばわたし達は高台に居て、そこから下の景色を一望することが出来た。
そして地上には、小さな街が広がっていた。
「これは……」
「あれはきっとラウルス王国の……街だね。街に入ってから話を進めようか。きっと、エレンは見たことのない物だらけだろうから」
そうして、わたし達はラウルス王国の街へと向かうべく、高台を道なりに降りていくのだった。