冒険者(4)
「ラウルス王国の王様は、人を簡単に殺せちゃうぐらい権力を持っているのなら、気に入らない人は皆殺してしまうの?」
「うーん……出来るだろうけれど、現実的ではないね。だって、やる必要がないからね。現状、戦争をする必要もないし」
また新しい単語が出てきた。あまりにも単語が出過ぎて、何をどう理解すれば良いのか……、あまりにも分からない。
「……戦争というのは国同士の喧嘩、みたいなところかな」
「仲が悪い国もあるということ?」
「そりゃあ、あるだろうね。それぐらいは……」
「ラウルス王国はどの国とも仲良くしている訳ではないの?」
国というものがどれぐらい大きいのか分からないけれど、アルスの言い方からすると、わたし達が住んでいた村よりも遙かに大きい存在なのだと思う。或いは、それよりも比較にならないぐらいの規模なのかもしれないけれど、それは一先ずアルスには聞かないことにする。別に知らなくても話が進むし。
ラウルス王国というものしか分かっていないけれど、この大陸にはもっと多くの国があるのだろうか。
わたしは、知らないことが多過ぎる。
だからばば様は外に出て旅に出よ――と言ったのだろうか。知らないことが多いのは、それだけで後悔するし、それ以上に未来を切り開けない――ばば様はそんなことを言っていたような気がした。
最初は何を言っているのか分からなかったし、別にこの村でずっと暮らしていければ問題ないなんて思ってもいたけれど、しかしながら今思うとそれは間違いだったに違いない。
「ラウルス王国は……どうだろうね。ぼくも全てが分かっている訳じゃない。旅人としての経験という視点でしか話を出来ないのが、ちょっと申し訳ないけれど……、別に不穏な場所ってものでもないから安心して良いよ。旅人が不安に感じることなく、国内を旅することが出来る。それは世界の中でも珍しいことなんだよ。国と地域によっては、気付いたら財布が盗まれてしまっていたけれど、警察なんて機能していない――ってことも珍しくないんだし」
「さらっと言っているけれど、それ凄く怖いことですよね……」
だってお金を盗まれているのに、泣き寝入りするしかないってことでしょう?
それって治安というものが全く存在しない、ということと等しいのではないだろうか。少なくともわたし達が住んでいた村ではそんなことは起こりえなかった。皆知っている人間だったから、そんなことをしたら村に居られなくなるってことは分かっていたからかもしれないけれど。
「……まあ、ラウルス王国に行くのは悪い選択肢ではないと思う。寧ろ良い選択肢だよ。最初に旅人が行く場所としては、これ以上にうってつけの場所がない……って言いたいぐらいだ。だったら、ぼくもサポートすることは出来るし、エレンが嫌じゃなければ一緒について行っても良いけれど」
「え、本当に?」
それ、わたしも言いたかったことだったのに。
出来れば一緒に旅に着いてきてくれないか、って言おうとしていたのに、本当に良いの?
「別に駄目じゃないよ。……乗りかかった船とはこのことを言うのだろうし、ぼくも目的のある旅をしていた訳じゃない。ちょっとばかり遠回りしたって、別に悪い話じゃないだろうしね」
そうして、わたしはアルスと一緒に旅をすることに決めた。
目的地は、ラウルス王国。