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冒険者(1)

 わたしは村の外に出たことはあっても、遠くに出掛けたことはなかった。それは村の周囲にある山々が自然に溢れていて、そこで狩りが出来たからだ。

 生き物の命を戴くこと――それはわたし達種族にとっては、毎日起こり得ることだった。穀物を育てているけれど、それが全ての栄養を賄える訳ではないらしく、ばば様を中心に生き物を食べることを日々発言していた。

 だからなのかは分からないけれど、わたしは毎日のように狩りに出掛けていた。毎日必ず生き物が採れる訳ではないのだけれど、採れたら採れたで全てを食べることもしないようにしている。

 塩水につけて乾かせば、しばらく持つ乾し肉が出来上がるし、塩漬けするだけでも良い。塩は貴重な資源ではあるけれど、物を保管することが難しいから、何とかして塩を手に入れている。

 わたし達が住む村からは、道が一本延びている。この道を進めば、やがてわたし達の知る世界を離れるという。

 道を辿ればいつかは帰って来られるのだろうけれど、でもそれはきっと適わない。


「……何か、見つけると言ったって……」


 本当に出来るのだろうか?

 わたしがわたしたり得る理由を、探し出せるのだろうか?

 多くの人間が十四歳になって旅に出てから戻ってきていないのは、それを見つけ出していないからではないのか?


「……怖い」


 怖くない、はずがない。

 けれども、旅に出たからには――もう生半可な気持ちで戻ることは許されない、と思う。


「……前を向かなきゃ」


 それは、タイガだって思っているはずだ。

 一人残してしまったタイガのことを思うと、やっぱり村を離れるのは名残惜しいところがあるのだけれど、


「タイガは元気にしていると良いのだけれど」


 まだ出立してから数時間も経過していないというのに。

 どちらが寂しい思いをしているのか、最早分からないところだった。



  ◇◇◇



 山道を抜けると、三叉路に差し掛かった。

 三叉路の分岐点には看板が立てられていて、そこに何か書かれているようだった。


「……ええと、これってどう読むんだろう……?」


 正確には、読むことは出来るけれど言い方がおかしい感じだった。

 これだと何処へ向かえば良いのかが分からない。


「取り敢えず……右に行ってみる?」

「どうしたの、こんなところで突っ立って」


 声がした。

 聞いたことのない声だった――当たり前だ。ここはもう、わたし達が暮らしていたあの村ではない。村から出たことがないわたしからしてみれば、誰もが他人だということになるのだから。

 振り返る。

 立っていたのは、わたしより少し背が高い男性だった。

 黒い髪、鋭い目つき、藍色の瞳をした彼は、上下がくっついたような何処か独特な服装をしていた。

 いや、多分、相手からしてみれば、わたしの格好も変わった格好と判断されるのかもしれないけれど。


「……ええと?」

「…………その訛り、『山岳訛り』だよね? その訛りで話す人間が居るって、流石に知らなかったけれど」

「山岳……訛り?」

「ローグスタンド語は分かる?」


 ばば様から聞いたことがあるけれど、確か外の世界の言語は、わたし達とは少し違った話し方になるんだって言っていた。

 今思い出すと、確かに外界からやって来る商人さんは、ちょっと変わった喋り方をしていたような気がする。


「……おーい、分かる? 流石に山岳訛りを喋れるんだから、ローグスタンド語は分かるはずだけれど。もしかして関係性も分からない?」

「いや、あの……何て言っているかが分からなくて……」

「……まさかと思うけれど、それで旅をするつもりじゃないだろうね? お使いをするとでも言ってくるんだったら、一度帰って共通語について学ぶべきだと思うけれど」

「……ごめんなさい。色々と新しい言葉が出てきて、良く分からないのだけれど。教えてもらえないかしら」

「図々しい、と言いたいところだけれど、通りかかったのも何かの縁だ。教えてあげよう。先ずは――そうだね、そこにある宿屋で座りながら話でも、どうだい?」


 彼が指さしたところには、小さな屋根のついた家があった。

 宿屋。聞いたことがある。遠方からやって来た旅人が身体を休めるための場所だ。

 しかし、ばば様から聞いた話だと街にしかないという話だったけれど――。


「どうするんだい? ここで突っ立っていても、意味がないだろう? それともこれから自分の家に帰るかい? 多分踵を返してそのまま戻れば、今日中には帰ることが出来ると思うよ」


 いや、今は後ろを向いている場合じゃない。

 とにかく、情報を収集しないと――そう思ったわたしは、その提案を受け入れて宿屋へ向かうことしか考えられないのだった。



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