前編
その日、近所のスーパーで買い物をしていた時のこと。
バッグに品物を詰めていると、誰かの視線を身近に感じた。
顔を上げると、一人のおばあさんがぼくの顔をじっと見ている。
目が合っても視線をそらさない。まじまじとこちらを見つめているのだ。
ドラマや番組で顔を見かけたのを覚えていて“この人、どこかで見たことがある。知り合いかも”とこちらをじろじろ見る人はたまにいる。
でも、このおばあさんの見方は何か違う。
ぼくはにっこり笑って会釈してみた。
「あなたじゃないの」
おばあさんがはっきりとぼくに向かって言った。
「え?」
「あなたを見てたわけじゃないの。あなたに憑いてる人を見てたの」
「はい?」
「あなたにしっかりくっついてて、指導してる人がいるの」
「ぼ、ぼくにですか?」
「そうよ。強く指導してる霊がいるのよ。その人は、私の初恋の人」
どう答えていいか困っていると、その娘らしいおばさんが割って入り
「お母さん、やめなさいよ。すみませんね、母は見える人なんで時々おかしなことを言うんです。気になさらないでください」
と、ぼくに向かって話しかけた。
「そ、そうなんですか。どうしようかと思いました」
と、おばあさんがハッキリ「鈴木伝明さん!」 つづく