第98話:星の鼓動は愛13
「ほう。女子寮ですかぁ」
「一般人はあまり入れちゃいけないんですわよ」
私は暫定女の子なのでセーフ。
「なんでも未来永劫私の言うことを聞くフィーネに言われると説得力ないね」
「うぐぐ」
「で、ここに恥ずかしい秘密があるのぅ?」
「あります」
どこか憑き物の落ちたような顔でフィーネは自室に入っていきました。扉を開けると生活感のある一室。ぬいぐるみとかがチラホラあって愛らしい。
「これ縫ったんですかぁ?」
「ええ。全部自作です。可愛らしいでしょう?」
「まこともってぇ」
なかなかロックな終演の魔女も可愛い物が好きなんですね。
「可愛いは正義です」
「わかるなぁ」
「わかりますか!」
「うん。可愛いってそれだけで生存戦略だから」
つまりコレを見せたかったと?
「いえ。トールのオーダーは別です。あっちの開かずの間」
と部屋の隅っこにある扉をフィーネが指差します。ちょっとオーラが漏れ出ているような異様なプレッシャーを感じまして。
「あの扉の向こうに何がぁ?」
「入れば分かりますわ」
というわけで入室。
目に飛び込んで来たのは色彩画でした。それも人を彩って描いている。そんな絵画が所狭しとカンバスに描き付けられ、無数にも思える『アルマ』の裸像があらゆる画法で表現されていました。油絵特有の匂いが充満する部屋で、ただアルマのポーズをとった裸体のイラストが雑然と無数に飾られている異様な部屋。
「アルマお兄さんを被写体にしたのぉ?」
「いえ。妄想で描きましたわ」
「写生ではないとぉ」
「そもそもお兄様、わたくしの前で脱ぎませんし」
「だから想像だけで描いたとぅ」
「というかソレらはネタです」
「ネタってぇ?」
「その……ズリネタ……」
「あー……………………」
「で、この部屋はズリネタ用のお兄様の裸婦画を描いて溜めて自慰行為をするための特別室なのですわ。わたくしはあんなにも可愛らしいお兄様とイチャイチャ! チュッチュ! ギシギシアンアン! したくてしたくてしょうがなくて、でも兄妹だから無理だから妄想だけで一人慰めていますの! どうです! これが貴女のリクエストでしょう!」
「まぁね~」
私がフィーネに求めたのは――――、
「私に知られると屈辱的な秘密」
――――だ。
「あんなに可愛くて萌え萌えで凜々しいのに可憐で静謐……けれども神性でありながら乙女であることを忘れず。そんな女装したお兄様は私の性癖にド直球ですわ!」
「あー。だから私に踏まれていたフィーネが気に入らなかった……と」
「お兄様はわたくしと恋をすべきですわ!」
「兄妹だよね?」
「だから血縁関係を清算しますわ」
それこそどうやって。
「……貴女はサクラメントを使えないんでしたわね」
「魂って観念に懐疑的でねぇ~」
「でもこの世に留まる魂も時に存在します。貴女たちの……機械神アンドロギュノスの装備。伝承剣ルミナカリバーでしたか。あれも物質化した魂の一例ですわ」
「そう聞いてるねぃ」
「そういったこの世に残留した物質魂をわたくしたちストーカーはエンシェントと呼ぶんですけど、その中でも最上位のエンシェント……アーティファクトにしてオーパーツ。あらゆる謎に包まれたサクラメントを願望機ストルガツキーと呼ぶのですわ」
「ちょくちょく聞く名だねぇ」
「人の愛憎や慈虐や呪赦や好嫌や善悪を具現する万能の奇蹟。かのサクラメントに見初められるとこの世の全ての望みが叶いますわ」
「本当にそうだったら世界滅んでるよぅ?」
「なのでわたくしはストーカーとしてダイレクトストーカー『オルトガバメント』に乗ることでビッグバンクの覚えをよくして願望機ストルガツキーにお兄様との血縁を断って貰います! そうすることでわたくしはお兄様と恋が出来る。子どもを作ることだって出来る。こんな今みたいにお兄様の裸婦画を見て慰めなくてもお兄様のおにんにんで処女を突破できますわ!」
どこかヒートアップするフィーネでしたけど、その温度は確かで。
「引きますよね? 兄が好きだなんて。しかも自慰行為してるって」
まぁドン引き案件だよね。
でもね。でもさ。
「可愛い!」
私はそれだけ言って、フィーネを抱きしめオナニー用のベッドに押し倒しました。
ムギュ! ギュッギュ! にゃー!
「フィーネ可愛すぎるよぉ! ツンデレで、お兄ちゃん大好きの妹萌えで、オナニーしちゃう妹で、しかもストーカーの資質まで。こんな属性てんこ盛りは他に類を見ないよぅ!」
「引かないのですか?」
「むしろ超可愛く見える。ぶっちゃけ萌えも萌え。そっかぁ。大好きすぎる可愛すぎる女装アルマに素直になれずツンツンするツンデレ妹だったのかぁ。うへへへへぇ。いやーん。悶えるぅ~。ぐうかわ~」
「そこまで」
「じゃあさ。じゃあさ。願望機ストルガツキーに願って叶ったら、フィーネはアルマとセックスするの?」
「もち!」
「ふわぁふわぁ! 夢が広がリング!」
「本当に引かないんですね。かなりキモい事言ってる自覚在りますけども」
んー?
「フィーネ。フィーネ」
ちょいちょいと人差し指に第二関節を曲げてカモンと呼ぶ。周りのアルマの裸婦画もなんのその。このフィーネの秘密オナニー部屋はそれだけで価値がある。
「なんですの?」
「フィーネはね。超可愛いんだよ? だからコレは私からのエールですぅ」
チュッと頬に唇を接しました。軽いキス。
「ななな何を!?」
「だって可愛い女の子を愛でるのは私の趣味だし」
これでも何処から見ても黒髪ロングの大和撫子でも、それでも私は男の娘だから。




