第93話:星の鼓動は愛08
「――空間余白建築!――」
概念兵装が空間を分かちます。斬撃にも似た剣閃がこちらとあちらを斬り分かち、その間隙を広げて唯一無二の異空間を形成。そこは野球ドームにも似て、しかしソレより広い空間を構築して私たちを隔離しました。
――ここなら幾ら暴れてもいいんだぜ。
要するに特撮ワープの類なのでしょう。いくら暴れても都市部に被害を出さないための安全処置といいますか。
で。
ウィーン。ガシャンガション。
私の搭乗しているアンドロギュノス。刺々しい漆黒の装甲をまとったザ・悪役なフォルムのダイレクトストーカー。対する相手はサファイア色の静謐さを纏う奇蹟のダイレクトストーカー……銘をオルトガバメント。
「こうして相対するのは初めてですわね」
終焉剣をこっちに指し示し、乗り手……フィーネがこっちを挑発します。ていうか初めても何もジュリアンがダイレクトストーカーを動かしたのが近日なのですから、そもそもギガントマキアそのものが経験も浅く。
「ティターンだからと手心は加えませんわ。終わらせて差し上げます」
終焉剣レッツトエンデをヒュンと振る人型巨大兵器オルトガバメント。
「――マテリアライゼーション――」
こっちも概念に格納しているサクラメントを取り出します。人の状態で使うと人の身に相応の大きさなんですけど、ダイレクトストーカーに乗って使うと全長二十メートルの巨体に相応しい大きさになるんですよね。スケールアップの法則。
そのままビルでもぶった切れるのではと思案してしまうくらい大きな剣は、ルミナス王国に伝わる伝承剣ルミナカリバー。不滅の魂を宿した伝説に語り継がれる王剣。私もジュリアンもサクラメントをマテリアライゼーションできないので、こんな遺産を使うハメに。
『さぁさぁやってまいりました! 古今近日の大一番! オブラウンドにも数えられる終焉の魔女のギガントマキア! 相対するはディフェクターで有名なジュリアン氏! 機械神アンドロギュノスの性能は果たしてどれだけオルトガバメントに迫るのか。見逃せない一戦だぁ!』
「盛り上がってますねぇ……」
――風系列の魔術だ。試合実況者もある意味でギガントマキアに必要な職種でな。
『全てを終わらせる終焉剣レッツトエンデを前にかの絶対防御……ABC装甲はどこまで保つのか! ある意味で矛盾するこの威力をとくと見よ!』
「ジュリアンは大丈夫ですか?」
――意識的にはな。一応フォローも出来そうだぜ。
ならいいんですけど。
『さぁさぁ盛り上がって参りました! うーん。オッズはフィーネ様優勢! だが必ずしも一方的では無いぞ!』
「え? 賭けもしてるのぅ?」
――お祭りみたいなモノだしな。
「ダシにされるのはなぁ」
いやいいんですけどね。
『それじゃあ異界空間も構築されましたし早速参りましょう! 両者ともによろしゅうござんすね! ギガントマキア! レッツスタート!』
ワッと歓声が沸きます。
同時にコンセントレーション。
「――迦楼羅焔――」
私の意識するアンドロギュノスの左手から炎の神鳥が飛び立ちます。それは炎の翼で風を打ち、オルトガバメント目掛けて飛翔。接触と同時に大爆発。うーん。スケールアップの法則があるので、その爆発だけで一区画吹っ飛ばせそうな威力……。
そんな戦慄を覚えていると、剣風が爆発を切り裂きます。サクラメントが閃いて、さらに呪文が追撃で乗りました。
「――サンライトフォール!――」
世界そのものに設定された目録を再現する。それがこっちの世界での魔術。つまり誰が使おうと一定の筋道が存在するので。オルトガバメントの掲げた手から、太陽にも似た火球が生まれ出でて、此方に落下するように撃ち込まれます。
『おおっと! 火属性の上級魔術! 終焉の魔女の太陽落下だ!』
言われなくても分かってます。
「――千引之岩――」
これは私の防御魔術。空間を隔絶することで現象の伝播を差し止める防御障壁。こちらの迦楼羅焔にも劣らない爆発が境界線で起き、けれどもこっちには熱波すらも届きません。
ガシャン。
ダイレクトストーカーの足下が踏みしめられます。
「破ァ!」
サファイアの巨体がこっちに向かって切り込んできました。
「――後鬼霊水――」
その間合いの潰しに牽制を放ちます。巨体建築ごと押し流せそうな濁流を生みだし、オルトガバメントを押し流します。




