第91話:星の鼓動は愛06
「後日の決闘。決着付けますわよトール?」
「オルトガバメントもそう言っているのでぇ?」
「わたくしの愛機は凶暴ですので」
そもソフィアからして凶暴そうですけど。
「あぁ~…………」
ドップラー効果で赤方偏移していくアルマはともあれ。
「まあ掘り出し物と言うことでパペットのマスターになりましたぁ」
「心ない無機物ぞ」
「哲学的ゾンビとはまた違いますのでぃ」
しれっとすっ惚けます。
「それでフィーネの終焉剣に対抗する手立てってあるんですかぃ?」
「一応エンシェントを使うつもりだぜ?」
「エンシェント?」
「遺産化したサクラメントだ。霊魂武装の中にはマテリアライズしてこの世に残り続ける例外が在るんだ。術者が死んでも遺産化する鎮魂武装。これをエンシェントと呼ぶんだが、長い時流の中で不滅を讃える空想神秘として立脚するんだ。これなら多分終焉の魔女にも抗しえるぜ。で、今回使うのは伝承剣ルミナカリバー」
漆黒の機体。ダイレクトストーカー=アンドロギュノスを見やります。
「やっぱりエンシェントもスケールアップの法則で?」
「ああ。今はソウルマージンに格納してるがな」
「マイマスター。あの刺々しい漆黒の機体が……」
「私とジュリアンの愛機。アンドロギュノス」
「愛機……」
「整備は済んでるぜ? 動かしてみるか?」
「んぅー。いいけど剣かぁ」
「魂の代表者はトールだしな。剣は苦手か?」
「京八流しか学んでいませんからねぃ」
「きょーはちりゅー?」
「古典剣術ですよぅ。師匠の師匠から伝授されてぇ」
「孫弟子ってことか?」
「誤解を恐れず言えば」
コックリ。
「マイマスター。当方も乗りたいです」
「じゃあジュリアン。ちょっと交渉を」
「オートマトンに動かせるかね?」
「刻苦奮励して可不可を問うというか」
「実験用のギガンテスなら許可下りるかもな。聞いてくるぜ」
そんなわけで整備士に話を通すジュリアン。
「ディフェクターの当方でもストーカーになれますでしょうか?」
「可能性はありますよぅ。貴女の真なる想いなら。私はソレを尊重したい」
「ッ」
どこか無表情の中に横顔が張り詰めるような。
「どうかしましたかぁ?」
「いえ……その……。なにか冬の風に草原が揺れてザワザワと鳴いているような……そんな感覚に襲われて……」
「良い傾向ですぅ」
「不安……と人は呼ぶんでしょうか?」
ベタな感傷なんですけど。どんなインテリジェンスでも時間が経てば持つようになるモノ。その名称を未だ彼女は知らない。
「パペット。大丈夫だって。乗ってみろ。トールはどうした?」
「何でもありませんよ」
「にしては嬉しそうだぞ?」
「喜色……という感情でしょうか」
「人間なら持ち得るモノだな」
ええ。だからきっと心温まる。




