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第89話:星の鼓動は愛04


「そんな理性としてのソフィアと獣性としてのビーストを、二分して理解しようというのが現代魔術での人格論なんですよぅ」


「聞いたこともありませんけど」


「私の世界での話ですよぅ」


「マイマスターの世界……此処では無い様に聞こえるのですけど」


「実際に此処ではありませんしねぃ」


「遠くから来たと?」


「というか異世界から」


「異世界……」


 その単語に衝撃を覚えたのは、はたしてクォンタムギアの認識か。


「異世界って存在するんですね……」


「私の世界では普通に観測されていますよぅ。ここみたいな準拠世界は」


「準拠世界……。なんですしょう。その不穏当な表現は」


「現代魔術では異世界には三つの分類がありましてぃ」


 握り拳から人差し指と中指と薬指を伸ばします。逆の手でカップを傾けてチョコレートを飲んでいたり。


「一つが鏡の国。一つが結びの国。一つが不思議の国。この世界は不思議の国に分類されるんですよぃ」


「偽物……って事ですか」


「副次的って事です。まず基準世界と呼ばれる純物理的な宇宙が存在し、そこから新規空間に新たな世界が造られる。前者を基準世界。後者を準拠世界。こう呼びます。特に魔術師が認識する異世界は地球と環境パラメータが同一なので、およそ困ることがないんです。人間の文明も基準世界に準拠していますし、言葉だって通じる。なによりパペット……貴女を構築しているクォンタムギアは本来魔術師にして人形師のイーハトーブの遺産ですよ」


「当方らの世界が偽物」


「端的に言って、じゃあ本物って何よって話にもなるんですけどねぇ」


「マイマスターの世界……基準世界が本物では?」


「現代魔術ではね。魔術の行使は再現って表現されるんですぅ」


「再現」


 基本的に魔術はソフィアの領分だ。獣は神話を信仰しない。では人のソフィアが火を知らないのに火を起こせるかと言えば否となる。かならず元々の知識があって、それを魔力で再現するのが魔術です。つまり理解できないことは再現できない。これを突き詰めていくと、宇宙にある全ての事象に数式として再現できないことは存在しないという強弁に持っていくことも可能です。つまりこの宇宙に完全なるオリジナル性というものは存在せず、あらゆる事象は完全同一なコピーを造れる。数式で再現と理解が出来る事象しかこの宇宙には存在しないとさえ言えるのです。


「だから本物か偽物かっていうのは最初に造られたか二番目に造られたかの違いでしかないんですよぅ。順列を競うなら意味はあるんでしょうけど魔術師はそんなモノに執着しませんしねぇ」


「この世にオリジナルは存在しない」


「それこそ完全に細胞学を極めれば同一の人間なんて幾らでも造れますよ? パペットのような人形の話では無く、私のような人間の話として。まして魔術とも為れば、とある人間のコピーは理論上可能という結論に達していますし」


「マイマスターはそれでいいので?」


「よくはありませんけどスワンプマンの命題に関しては非積極的な中立派ですから」


「ではこの世に固有はなく、何のために命は……」


「さてねぇ。パペットなんかは自分の認識をどう持っていますか?」


「ソフィアが欲しいです」


「クォンタムギアを持っているなら可能な気もしますけどぅ」


「当方は失敗作ですから」


「卑下禁止」


 クシャリ。パペットの銀髪を撫でます。赤面こそ出来ないモノの、どこか困惑気な雰囲気のパペットに私は柔らかく笑います。


「あう。この震える幸福はなんでしょう?」


「愛じゃないかなぁ?」


「愛」


 私としては純ソフィア体として期待しているんですけど。クォンタムギアがある以上、どうしても心は生まれるはず。今がそうでないとしても、きっと彼女はソフィアを獲得する。そうなれば魔術師にだってなれるしストーカーにだってなれるでしょう。


「パペットは可愛いですねぇ」


「恐縮の限り」


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