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第88話:星の鼓動は愛03


「とりあえず……ええと……」


「何か?」


 表情の乏しいお人形さんをつれて、私は喫茶店に入ります。お金がないのでツケで。チョコレートを飲みつつ、テーブル席の対面に座るドールに困惑を覚え。


「貴女のことはなんと呼べば良いでしょう?」


「ディフェクターと」


「嫌ですぅ。そんな悪意在る呼び方は出来ません」


 ちなみに同じ二つ名をジュリアンも持っています。サクラメントが使えないからって。


「ではマイマスターは何と呼びたいのですか?」


「そうですねぇ。こっちでつけていいのなら処しますけどぅ」


「お任せします」


「ではパペットと。人形ですしぃ」


「パペット……。発音が良いですね。これから当方はパペットです」


「お茶飲みますかぁ?」


「いえ。その。飲食は……」


 オートマトンですしね。


「にしてもクォンタムギアをこの世界で見ることになろうとは」


「クォンタムギア?」


「超量子的機構。ま、演算としての疑似脳ですねぇ」


「脳」


 コツンと軽く自分の頭部側面に拳をぶつけるパペットでした。


「マイマスターは私の機構を把握できているのですか?」


「いや? そもそも人形師ではありませんし」


「そうですか」


 ちょっと残念そう。声もそうだけどオーラ的に。


「こんな精緻なオートマトンを廃棄するとは。貴女の作り手は何を考えていたんでしょう」


「失敗作ですから」


「人形として? 人として?」


「後者です」


「人ね。オートマトンの目指す究極ではあるけどぅ」


「マイマスターは当方をどうする気ですか?」


「そうねぇ。なにか利便的に使おうとは思っていないかなぁ。どちらかといえば……」


「いえば?」


 私はパペットの綺麗な銀髪を撫でます。


「愛でたい。貴女という奇蹟を言祝ぎたい」


「マイマスターは当方に何も望まない……と?」


「逆に貴女は何かしたいことはあるぅ? そんな自由意志を持っているなら都合を付けるに吝かじゃないんですけどぅ」


「ダイレクトストーカーに乗ってみたいです」


「ダイレクトストーカーねぇ」


 サラリと波打つように銀髪が揺れて、水が零れるように私の手から流れ落ちる。


 私はチョコレートを飲んで、思惑気味。


「ストーカー志望?」


「はい。ストーカーになりたいです」


 そうなると少し話はややこしい。


「貴女はソフィアを持ってるのぅ?」


 ということになる。


「ソフィア?」


「ビーストは持っていないだろうけどぉ」


「ビースト?」


「あー。そこから? まぁこっちには無い概念ですよねぇ」


「???」


 はたして彼女の記録装置は頭部にあるのでしょうか?


 クォンタムギアそのものはステーションで管理されていますけど、別に頭部に設置しなければいけないというルールはございません。記憶と再認。これが都合よく処理されている間は彼女も限りなく知的活動に近い座標で。


「ソフィアっていうのは端的に言って理性。ビーストは獣性ですねぇ」


「理性と獣性……」


「例えば獣は食事をしますよね? そして人間も食事をする。これは生きるための手段であって生物として基本能力」


「はい」


「では獣は料理をするでしょうかぁ?」


「……しませんね」


「そうです。たしかに食事は生命がするもの。人が獣である証。けれど獣には無い料理をして食事を楽しむという手段は人の理性に依る処なんですぅ。食事そのものはビーストでも調理や娯楽性の側面ではソフィアとしての知的活動とも捉えられる」


「ふむ」


「愛にも同じ事が言えます。獣だってセックスはしますけど、人間はセックスをするまでに純文学的なロマンチックを求めます。異性……同性でも良いんですけどね……つまり愛を確かめ合うという好意。相手方を求め慈しむという行為。これは獣には存在しないファクターですよねぇ?」


「つまり食事やセックスにもビーストとソフィア……獣性と理性の側面が有ると?」


「運動だって獣はしますけどスポーツは人間だけがするでしょう?」


「それは確かに」


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