第81話:私の愛馬は凶暴です11
「魔法は法則。魔術は技術。もともとこの宇宙には許されない自然法則が魔法としてあって。それを技術化したものの一部を魔術と呼ぶんです。人間が使うのは魔術で、魔法はあっちの世界の現代魔術では法則として定義されるんですよぅ」
「法則にゃ? どんな?」
「通じないでしょうけど熱力学第一法則の否定法則。端的に表わして超熱力学第一法則」
「ちょうねつ……?」
「ああ。其処は良いです。ここで熱力学を語っても無意味ですから。ただ自然法則とは別に魔法が存在すると知っていれば」
「それって俺様も使えるか?」
「可能なはずですよぅ。私がこっちの世界で使えていますから」
「じゃあ教えてくれ!」
やって出来るなら苦労はないんですけど……。
世界と唯識の混同。大宇宙と小宇宙の取り違え。そこから現代魔術は始まります。
「特異点以外で魔術が使えるにゃら便利だにゃー」
「一神教を否定する法則ですわね」
スッと氷のように冷えた言葉が突き刺さりました。温度的にはセルシウス度でマイナスの域。ただしソプラノと表現していい声は、冷ややかさの中に華がある。
「フィーネ」
「クォーネ」
「にゃーよ」
私とジュリアンはフィーネを向き、アルマは背中を踏まれて悶えています。そんな兄を一瞥し、切れ目の眼差しに不穏を湛えて彼女はこっちに意識を向けます。
「噂通りのビッチっぷりですね」
「もしかして私のことでぇ?」
あんまり自覚も無いんですけど。
「そうやってお兄様をいたぶっているのでしょう?」
「御本人が望まれているんですけどぉ」
「他にも踏んでいるとか」
まぁリクエストがありますので。
「私が心を許すのはジュリアンにだけですよ」
「嬉しい事言ってくれるぜシニョリーナ」
穏やかにジュリアンは笑いました。
「そんな尻軽がお兄様を貶めてどうします?」
たしかに尻軽だけどさ。男にも女にも抱かれたことあるし。
「親族として危惧しているので?」
「あなた方のような欠陥品と付き合って品格を落とされても困るでしょう? おもにわたくしが」
百パーそっちの都合ですね。
「でも僕は嬉しいにゃあ!」
「お兄様も自覚してくださいませ」
「でもトールは可愛いし……」
「あら。ありがとうございます」
嫋やかに私が笑う。女装に扮している意味では褒め言葉だ。
実際は男なんですけどねー。
「可愛い子には踏まれたい」
「でしたらわたくしが踏んで差し上げましょうか?」
「妹は別口かにゃ?」
「……………………」
で、なんで私はフィーネに睨まれているんでしょう?
「ディフェクター? そこのメスブタはあなたの管轄でしょう?」
「まぁそうだな」
どっちかってーとメスブタはジュリアンの方なんですけど。
「首輪くらいつけてくれます? こっちに損が出る前に」
「首輪」
「リード付きで」
「それいいですね」
私はむしろ賛成派。
「では僕の首輪のリードはトールに握って貰うということで……」
「お兄様?」
「はいはい」
ガチン。
首輪がつけられた。フィーネの持つ……というか準備していたモノで。ついでにリードも握られる。
「さあ。ストーカーとしての高みを目指しますわよ」
「せめてソレはアンドロギュノスに勝ってから言って欲しいんだけどにゃー」
「こんなディフェクターとビッチに負けるはずありませんわよ」




