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第75話:私の愛馬は凶暴です05


「つまるところ魂の器をダイレクトストーカーに委託して意識だけでボディを動かすんだぞ。トール風に言うなら意識のクラッキング?」


「ちょっと待てぃ」


 と。


「意識のクラッキング? 魂の委託?」


「然りだな」


 あっさりとまぁ。


「つまりブレインマシンインタフェースを実現してるのぅ…………?」


「ぶれいん……ましん……?」


「こっちの認識をダイレクトストーカーに移して動かすって言わなかった?」


「そう言ったつもりなんだぜ?」


 それが何か? とジュリアンが首を捻る。技術的にどれだけイカれた領域に侵犯しているのか御本人分かっていないらしい。というかソレはこの学院の全員がそうなのだろう。


 ブレインマシンインタフェース。


 脳信号から直接命令を取り出してロボットを動かす機構のことだ。こっち風に言うのならソウルマシンインタフェースということになるのでしょうか。脳科学の発展に比例して得るべき超技術が、ここでは文明として立脚している。にしては街並みや風景はあまり未来っぽくないどころか産業革命も見て取れませんけど。


「うーん……」


「どした? トール?」


 段差上の下段から私の方へ見上げるようにジュリアンが視線を振ります。


「いやちょっとダイレクトストーカーの闇について考えており……」


「然程か?」


 そりゃ当たり前のように使っているのならジュリアンにはキッツい観念でもないでしょうぞ。でも逆に言えば認識だけでロボットを動かすならコックピットも最低限ではいいわけでして……ロボット技術としてはむしろ栄枯盛衰している感は……あるのかな?


「で、どうリンクしろと?」


「俺様を抱きしめてくれ」


 ムギュ。


「ああ。トールの匂い……」


「このアンドロギュノスの中でならジュリアンは女の子ですね」


 男女のペアで動かす機神であるからに。なので私が必要でもあったわけで。


「俺様より可愛らしいトールに男根生えてるってんだから世の中不条理だよな」


「ジュリアも十分可愛いですよぅ。ジュリアンになるとちょっと気迫感じますけどぅ」


 ジュリアンとしての男気を張っている彼女も、ジュリアとしてならミソクソに可愛い。


「本当か?」


「唯識に誓って」


「それはそれで問題も在りそうだがな」


 嘆息。


「では行くぞ」


 そして涼やかに彼女はマジックトリガーを引きます。


「――ソウルトレーサー起動。ファンタジックマニューバ!――」


 瞬間。電気的な違和感が意識を駆け抜け、記憶の混雑と意識の那辺が不明に陥るような錯覚が私を襲い、それらが収まった後に視覚を起動させると、世界が小さくなっていました。


 ウィーン。ガション。ガション。ギュインギュイン。


 聴覚が何に依存しているかはともあれ、どこか不自然な液体圧アクチュエータが意識に則って動きまして。


「えーと……」


 ――うん。成功だな。


 小さな世界でちっぽけな人間の右往左往を眺めているところに、意識に滑り込むような認識が襲いかかります。声紋があるはずもないジュリアンの声。


「これって……」


 ――ABC機構。要するに今のトールの意識そのもので機体を動かしているわけだな。


 そうだ。インタフェースからしてそうだったことを思い出す。にしてもかかる衝撃は少なからず極彩色でしたけれども。漆黒の腕を胸元まで持って来て握る。


 グィン。ガシャン。ガシャン。


 金属の摩擦で鈍重じみた音が鳴ります。つまりアンドロギュノスの使用権が今私の脳内にある……で良いのでしょうか?


「これが起動したアンドロギュノスだにゃーよ。ちょっと感動」


 こっちもまたどこか意識に滑り込むような声。ただジュリアンのモノとは違って希薄さがなく、縦波を感じさせる現象としての音。見ればこっちと同じサイズの人型がこっちを指差していました。


「サクラナガン・ルージュ…………」


「伝説の機械神の起動だ。僕が付き合ってやるにゃーよ」


 ルミナス王家にのみ搭乗を許される伝説の機体アンドロギュノス。その起動そのものがジュリアンの政治的事情で封印されているも同然だったわけで。たしかに物珍しさで言えばこの機体より上はそう無いわけだ。


「でも付き合うって……」


「整備場の裏にダイレクトストーカー用の施設があるにゃ。暴れるには十分なほどの……にゃーよ」


 どう見ますジュリアン?


 ――まぁ起動実験程度なら。アルマも物騒な真似はしないだろうしな。


 物騒なことが出来るので?


 ――だからサクラナガン・ルージュの繰り手ってわけだぜ。


「?」


 ギギギとアンドロギュノスの首が傾げられ。駆動音に負の比例をした軽やかさで、ダイレクトストーカーは歩き出しました。


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