第74話:私の愛馬は凶暴です04
「ジュリアンのパートナーですぅ。シクヨロ」
「は? この愚物の?」
「ご挨拶だなー」
あっさりとツッコむジュリアンは、おそらく罵倒に慣れているのでしょう。
「ということは貴女があのティターンを動かすので? 出来ますの?」
「さほど難しいとは寡聞なので聞いていませんねぇ」
「へえ。本当ですの。だからストーカーは……」
「?」
「ジュリアン? 貴殿はこの子をどう扱うので?」
「元よりパートナーではあるも、もっと深い付き合いも吝かでないぞ」
ギュッと私の腕を獲って抱きしめる。そこに込められた想いと、幻視では認識できない乳房が押し付けられました。幸せ。
「お兄様は?」
「踏まれたいにゃ」
「……確認しますけど誰に?」
「もちろんトール氏」
こっちもこっちで間違っている気はするも、彼の本音は其処だろう。
「――――――――」
そして妹さんは殺意を込めてこっちを睨みやります。
何もしとらんじゃあないですか。
「欠陥品と補填対象がわたくしのお兄様を踏みますの?」
「そこまでサービス果敢にはなれませんけどぉ」
「フィーネ。僕が踏まれたいんだにゃー」
そんなフォローになってないアルマのフォローに、
「ッ!」
いつの間にか、手に握っていた金光りする典礼剣を彼女が私に向かって振るいます。
「そこまで」
ほぼ同時に――こっちもいつ持っていたのか――意匠の拵えられた典礼剣が受け止めまして。
「霊魂武装」
別名サクラメント。人の唯識で錬鉄する概念持物。私が把握しておらず、ジュリアンが終ぞ持っていない魔術の一種。魂に収める剣は、つまり物質化が容易で、何時でも抜けるということでもあるらしい。いわゆる聖術に分類される技術なんだろうけど、特異点無しに運用できる唯一の神秘という意味でなら、これ以上はそうあるまいに。
「危ないですにゃー」
「こんな愚物とオマケに付き合っている余裕がお兄様にはありますの?」
「中々面白いぞ? 此奴らは」
その評価もどうだろう?
「だからいつまでたってもわたくしに勝てませんのよ!」
「元から勝とうとも思ってござらんにゃー」
「ッ!」
下唇を噛んで一睨みすると、典礼剣を魂に格納し、彼女は大股で去っていく。
「よろしかったので?」
「思春期の乙女に形而上的真正面からぶつかるほどヒマじゃないんだにゃー」
アレの気持ちが何処を向いているのか。ちょっと分かる様な。
「踏んでくれる気ににゃった?」
「否」
一言で切り捨てる。それからギュッと腕を絡めているジュリアンごと機械神に近付き見上げます。目算で二十メートル。磨かれたように重厚な金光りを見せる漆黒。そのコクピットまでの胸部ハッチは高さも相応で。
で、コレに乗るのは良いんですけど。
「どこか刺々しいですね」
箇所箇所が鋭利にデザインされているため、隣り合うだけで刺されそうな刺々しい印象を受ける。アルマのダイレクトストーカー……サクラナガン・ルージュは騎士の鎧めいたインオーガナイズな姿に対し、ジュリアンのアンドロギュノスは独特の神話性を感じる。
「機械神……ね」
ティターンという言葉もある。
「じゃ、まずは試してみるか。トール。いいか?」
「私は構いませんけどねぃ」
整備士が仮設する足場を登って、二人でアンドロギュノスに搭乗。ダイレクトストーカーの常識には詳しくないけど、思ったよりコックピットは広く取られている。アクチュエータが魔力で駆動するところを考えるに、およそ機構そのものは私の世界のロボットより簡素に出来ているでしょう。まずもって巨大な人型をロボットにしようという観念が有り得ないんですけどねー。段差式になっているコックピットの下段にジュリアンが座して、上段に私が座ります。とはいってもインタフェースの類は見当たらないんですけどね。
「どうやって動かすので?」
「ABC機構とシンクロするだけです」
講義で習ったけどいまいちよく分かっていない部分だ。




