第72話:私の愛馬は凶暴です02
「ところでジュリアンも踏まれたいって思うんですかぁ?」
「うーん。ちょっと」
あるんですね。そうですか。
「でもソレよりキスがしたい」
「いいですけどぉ」
人差し指で頬を掻くと、ムギュっとジュリアンは抱きしめてきて。
「可愛い可愛い俺様のトール」
こっちの瞳を覗き込んできます。その間にも土下座している男子生徒のグリグリ踏んでいるわけですが。
「……ん」
「……っ」
そうして私とジュリアンの唇が重なりました。状況が異常なのは今に始まった事でも無く。なによりキスというモノにジュリアンは光悦を覚えたようで。
「ああ。いいな」
「それは重畳」
私としても他に言う術を持たず。でもカッコいいんですけど、やっぱりジュリアンは可愛くもある。アイスブルーの瞳なんて見ていて飽きないし、重たい黒の髪の私と比べて躍動感のある金髪。肌の色も白いし、指輪を外して女子の姿になるとガチでこやつは愛らしい。
「ああ。トール様が踏んでくださり自分ではない男とキスしてる……これがNTR」
こっちの世界にもその文化あるのね……。
「にゃー。こっちもお願いしますにゃ!」
さらに『トール様に踏まれ隊』隊員がジャンピング土下座をしてくる。
「蔑んだ瞳でゴミのように睥睨して踏んでくださいにゃ」
と頼んできたのはモブと言うには記憶に新しい。先の巨大ロボットを動かしていた猫耳少女だ。相も変わらず可憐な。
「是非是非!」
「あのー。さすがに女の子を踏んで悦に至るのはどうかと」
「それなら大丈夫にゃ。僕は男子だから」
えー。
しげしげと猫耳少女を見やる。艶々の肌に桜色の髪。猫耳完備で女子制服。身体のラインは細く、華奢で、儚げ。胸がないことが反証かもしれないけど、どこをどう見ても女の子だ。
「(……トールもだぞ)」
ボソッとジュリアンがツッコみました。たしかに。私も鏡で見る限り自他問わず女の子ではありますな。その意味で女の子っぽい男の娘が他に居ても不思議では無いか。
「でもその綺麗な髪を踏みにじることは出来ないですよぅ」
「にゃー。嬉しい事言ってくれるにゃ」
「それより貴女は? 私はトール。トール=アラクネ」
「アルマ=クォーネ。アルマって呼んで? メスブタでも良いよ?」
「じゃあメスブタ。貴女ロボット動かしてましたよね」
「にゃは~……」
後半の疑問には答えが返らなかった。メスブタ扱いで恍惚になる男の娘アルマ。猫耳がピコピコと可愛らしく動く。
「どうにかして」
「これでも一応俺様と違って成績優秀者だ。どうにか出来るレベルを超えている」
いえ。ツッコんでよって話でしかないのだけど。
ホットサンドガジガジ。
「ほんとメスブタって役に立たないわね。ブヒブヒ鳴いて悦に至るだけなら生産性なんてまるでないじゃないですか。もう死ねば?」
「にゃははは~……」
ドMの性癖なのか。あるいは単に感受性豊かなのか。恍惚の表情のアルマでした。
「で、ダイレクトストーカーってここで開発しているので?」
最後にフレッシュジュースを飲んで食事を終えました。
にしても『トール様に踏まれ隊』って人権的にどうなんだろう?




