第69話:少女が見た流星12
「絶対に俺のモノにする!」
「僕は君を心底歓迎する!」
言ってるわりには攻性呪文が飛んでくるんですけど。
とりあえず逃げの一手で、障壁魔術を展開しつつジュリアンと逃走。
「待て――」
「待て――」
どんだけ私のことが好きなのよ。この御仁ども。
「――フレイムスラッシャー――」
「――サンダーブラスト――」
食堂を飛び出した私を妄執的に狙って二人はさらに魔術を行使。火炎と電熱が周りの建物に火を点ける。良いのでしょうかコレって? 阿鼻叫喚の地獄絵図さながらに二人の暴走は止まりません。もちろんソレと知って立ち向かう猛者も居ないわけで。完全に私狙いで魔術を乱発する魔人二人をいなすのにも労力は必要かと思われます。
「――後鬼霊水――」
大量の水を用意して飛ばし、打撃のように魔人にぶつけましたが、
「GAA――ッ!」
「GUA――ッ!」
けれどあまり効果も無いようで。さて、どうしたものか。
「かと言って殺すのも忍びないしぃ……」
殺すのは簡単なんです。単に焼き尽くせば良いだけ。それだと余計なしがらみが増えるので苦慮に値するわけで。
「――フレイムスフィア!――」
火炎が球状になってこっちに飛ばされ、
「――千引之岩――」
透明な壁越しに炸裂しました。空間隔絶は炎程度では突破できないんですけど、問題は炸裂した余火にありまして。地面を焼き、側面を焼く。建物があると尚最悪。
「頑丈だぜ」
「伊達に基準世界で魔術師はやっていませんよぅ」
そういう問題かという話にもなり。火の点いた建物を眺めやりながら次なる魔術に意識を押し込め、
「――――――――」
突如、フワリと桜が舞いました。
そう錯覚できるほどに神秘的な彩が翻ります。桜色の髪を持った女子が嫋やかにこっちを見つめており、その可憐さは比較も難しいほど。食堂から逃げていた生徒らの中にいたのか。あるいはこっちの事情を知って尚引かなかったのか。女子制服のスカートと、桜色のショートヘアが風に揺れて。私の意識がそっちに引き寄せられました。
「何故、猫耳?」
私の疑問はその頭部側面に生えている猫耳に集約され申し。
その猫耳少女はニコッと笑うと、「おいで」とばかりに手招きをしました。
「アルマ殿……」
隣で遁走していたジュリアンが、こっちの事情お構いなしで彼女に近付きます。
「にゃー。面白いことに絡まれてるにゃ」
「申し訳ないながら俺様に落ち度は無いぞ」
「知ってるにゃ」
どちら様で?
と述べるより先に、
「――フレイムスフィア!――」
「――サンダーブラスト!――」
魔人の魔術が此方を襲い。対抗して魔術を展開する……より先に猫耳少女の呪文が飛びます。
「――カモン! サモン! 衆妙之門!――」
およそ正気を疑う呪文でしたけど、マジックトリガーとしては正しく機能し、しかし生じた現象は予想の埒外で。彼女の影から腕が生えたかと認めれば、その腕が完全に魔術を弾いて無力化せしめ。尚のこと常識を疑う腕の巨大さと、その五指と掌と繋がる腕の無機質さに、今度はこっちの知覚能力が疑わしく思えます。
「ロボットの……マニュピレータ……?」
多分これが最も無理のない解釈。金属性の光沢を持つ疑似腕部……というのが利に適う表現とでも申せましょうか。その異世界なのに近未来的な技術の乖離について考えるより先に、桜色猫耳少女の影が太陽の落とすモノより不自然に広がって、その影から巨体がせり上がってきます。この時点で私の理解はすっぽ抜けました。
「衆妙之門! サクラナガン・ルージュ!」
人型で在ると言うことはもう片方の手もありまして。影から水を掬うように掌が下から上へ持ち上げ……掬い上げられ、その手に乗って私とジュリアンは高度二十メートルの高みへ。
「……………………」
呆然。俯瞰風景。春らしい風は私の濡れ羽色のロングヘアーをたなびかせ。
「……………………は?」
そして目算で全長二十メートルの金属巨人が私とジュリアンと猫耳少女を手に抱えてガ○ダム大地に立つ。完全にもとの私の世界――基準世界っていうんですけど、そこのロボットアニメさながらのデザインをした人型巨大ロボットが立っていました。何だコレ?




