第68話:少女が見た流星11
「――金波羅華――」
ズバンッ! と風が鳴きました。こっちの持つ近距離魔術。金波羅華は寸勁をマジックトリガーに放たれる絶技。京八流における最秘奥で、あんまり俗物に見せちゃいけないんですけど準拠世界でならセーフでしょう。
「ふう」
倒れ伏したタキシード二人組を睥睨しつつ、呼気を一つ。
「こんなものでよろしいでしょうかぁ? ジュリアン」
「あ。うん。だな。強いなトール」
「あまり自慢にも為りませんけどね。元の世界だとあたおかで強い魔術師なんてかなりいましたし。私はまだしも常識の範疇でしたよぅ。それよりもいつもああやってジュリアンは絡まれているんですか? こっちとしても問題視せざるを得ませんよぅ?」
「ああ。それは違う。むしろ嫉妬だ」
「嫉妬? ジェラシック?」
「トールがあまりに可憐だから俺様から奪いたい男子がひっきりなしってわけだ」
「それは光栄でぃ」
ご自慢の長い濡れ羽色の髪をかき上げる。サラサラと風に鳴いてどこまでも広がっていく。こっちの世界でも女性用の洗料はあるらしく、私のこの自慢のロングヘアーは艶々を保っていました。
「それだけじゃなくパッと見でも顔が極上に可愛いし、線が細くて庇護欲そそるし」
「褒めすぎですよー」
とか言いつつ自覚はしています。私は女装すると女性以上に男を惹く。
魔術師にとって性事情ってあんまり締め付けが無いので、私や周りの人間はかなり奔放に育った。師匠は純愛だったけど私はまぁ……色々と。
「それではジュリアン。あーん」
「お前様は可愛いな。あーん」
そんなバカップル爆発しろ的な関係を築きます。
「貴様! ジュリアン!」
「お前! ジュリアン!」
なのに叩き伏せられてもジュリアンに悪意を持つタキシード二人。意識でも奪うべきでしょうか。周りの視線も既に興味で埋め尽くされていました。ミートローフをパクリ。
どうしたものかと考えていると、
「グゲ! ゲガガガガガガガアババババババ!」
「ギギ! ギグググググググケヒャヒャヒャ!」
どこか奈落から聞こえるような怨嗟がタキシード二人の喉の奥から迸りまして。
「何?」
眉をひそめます。けれど周囲は場を読んでいるようで。
「マズい……」
「何がでしょう?」
「魔に堕ちた……」
だからソレが何だと……。
首を傾げていると、タキシード二人の身体が変質しました。お高そうなジャケットを筋肉の膨張だけで弾き飛ばし、その背に悪魔の羽を生やします。眼球にネコのような瞳孔が刻まれ、声から流れるのは言語化できない怨嗟。
「悪魔変身? デ○ルマン?」
「魔人化だぜ!」
そうジュリアンが定義した瞬間、
「LUA――ッ!」
先に立ち上がった方の魔人が吠えて、その圧迫が食堂を叩いて飽和させます。ミシミシッと壁が啼いて、あまりの事態に衆人環視も逃げていきまして。
「私たちも逃げましょうかぁ」
此処に居てもしょうがないのも事実で。
「トールさん!」「トール嬢!」
「うわ。こっちに振らないで欲しいんですけどぉ」
魔人化してもしっかり認識されていた。
「どうやらアレらはトールに偏愛しているらしいな」
「はた迷惑な」
「――フレイムアロー!――」
「――サンダーライン!――」
焔と雷が襲ってきました。
「――千引之岩――」
しょうがないので空間隔絶で対処。展開した障壁が二つの魔術を防ぎます。
「ワンダーくん!」
「はい!」
「ツーリーくん!」
「何だ!」
「タイプじゃないので諦めて?」
というか本当は男だと知っても抱けるのか君ら。




