第67話:少女が見た流星10
「だったら実力で囲うまで!」
「僕の愛を思い知れ!」
グッとタキシード二人は臨戦態勢に入ります。
「マテリアライゼーション! 鋭利剣スラッシャー!」
「マテリアライゼーション! 粉砕鎚オーガアーム!」
名前通り鋭そうな剣と、大岩すら砕きそうな巨大ハンマーが顕現します。
魂を武器とする霊魂兵装。サクラメント……とジュリアンは言ってましたか。
「さあ。やろうぜミスター・ジュリアン?」
「今更男気を見せないというのも道理に合うまい?」
「ぐ……」
脂汗を流す彼でしたけど、理屈としてはもうちょっと簡単。
「では私が御相手仕る」
「トールさんが?」「トール嬢が?」
「ええ。恋仲のお約束はできませんけど、ジュリアンの露払いは私の役目。ついでにいえばジュリアンの圧倒的な不利の状況で喜び勇んで喧嘩を売るあなた方が気に入りません」
結局其処に尽きるのだ。
「しかしトールさんを傷つけさせるわけには……」
「トール嬢。戦えて?」
「基準世界ではそこそこに」
「基準世界?」
ジュリアンが首を傾げました。
「別にこの世界を贋作というつもりもありませんけど、この世に再現出来ない事象は存在しないんですよぅ」
「???」
「なわけでやりましょうよぅ。私を愛したあなた方がその領域にいるや否や」
「まぁ怪我したら責任持って俺が看病しよう」
「いや。僕の家が保護するから君は出しゃばらなくて良い」
そんなわけでタキシード男子は喧々諤々。
私は学校制服のスカートを翻して血色の良い太ももを晒します。
「おお」「おふ」
タキシード二人組が目に眩しいとばかりに私の太ももに見とれます。曰く絶対領域。
「罪な子だな。お前様も」
ジュリアンは苦笑していました。
「それじゃセルゲームでもしますか。覚悟の決まった方からかかってらっしゃい」
掌を上に向けて指を折る。クイクイと。掛かってこい、のジェスチャーです。
「では俺からいこう」
と理事の息子が鋭利剣スラッシャーを構えます。
「――フレイムアロー!――」
「――後鬼霊水――」
ボンボンから生まれたのは火の矢。ちなみにこっちは霊水。
火矢と霊水の奔流が互いにぶつかり湯気が広がりました。立て続けに呪文を唱えます。
「――迦楼羅焔。迦楼羅焔。迦楼羅焔――」
迦楼羅。いわゆるガルーダ。魔を喰らい不浄を熱する神鳥です。不動明王が背負うアトリビュートでもあり、そのイメージは破格。カイザーフェニックスのように焔の鳥の姿で火炎の翼を打ち、風を纏ってボンボンに襲いかかります。
「くっ」
殺せ……とはいいませんよね流石に。まずこっちの準拠世界で通じるネタでもありませんし。鋭利剣スラッシャーが迦楼羅焔を切り裂こうとして…………、爆裂。手加減したので全身に一度の火傷。制服も焦げましたけど、耐刃耐火製らしく余程のことが無いと最悪の事態には至らないらしいようで。まぁ全力で迦楼羅焔を放ったら話はまた別でしょうけど。
「ふん。口ほどにも無い」
とは帝国貴族のボンボン。理事の息子を嘲笑うように睥睨しておりました。手に持つは粉砕鎚オーガハンマー。ハンマー型の霊魂兵装。
「では僕が参りましょうぞ」
「どうぞ如何無く」
「ファンタジックマテリアル!」
何ですソレ?
「――サンダーエンチャント!――」
英語は苦手なんですけど意味は通じました。要するにサクラメントに独自の魔術を纏わせたわけで。雷を纏った粉砕鎚オーガハンマー。
「怪我しないように手加減はしますけど、頼れる男を示すには少しの怪我も已む無し」
「ですねぇ」
ヘッと鼻で笑って差し上げる。
「海底二万!」
「参る!」
上段から雷付きのハンマーが振り下ろされる。
……あの、打ち所悪いと脳挫傷になるんですけど。
私はと言えば、ギリギリで避けて懐に潜り込みます。近距離。魔術の距離じゃ在りませんね。例外を除いて。




