第64話:少女が見た流星07
「アレは数少ない例外。いわゆる霊魂兵装って呼ばれる固有魔術だから」
「霊魂」
魂。
「いわゆる人間の固有性をマテリアライズするもので、術者個人が居れば特異点じゃなくとも運用可能なのよ。とはいえ普通はストーカーになるのが常道なんだけど」
「じゃあジュリアンも使えるので」
「そうだったら良かったんだがな」
どこか寂しげに彼は自嘲します。
「使えないと」
「うん。まぁ。おかげで欠陥品なんて不名誉なあだ名で呼ばれてるぜ」
「そもそも霊魂を武装化するというのが」
「トールの世界にはないのか?」
「ないとは申しませんけど主流ではありませんよぅ」
まず魂という観念が現代魔術では唾棄されている。
「で、ここが俺様の屋敷」
と学院都市での地価の高い場所にちょっと豪奢な屋敷が建てられていました。どっちかと言えば床面積の広い建物で、庭もあるにはありますけど屋敷の豪奢さに比べると狭い印象。それでも庭師が整備しているので相応の贅沢ではあるのでしょう。
「わお」
「一応一国の王子だからな。これくらいはまぁ」
使用人に出迎えられます。
「お帰りなさいませジュリアン様」
恭しく使用人がジュリアンの手荷物を受け取って、所望の茶を問いました。
「じゃあチョコレート。トールの分もな」
とこっちを紹介して認識させると、使用人にも私をもてなすよう指示します。
そのままジュリアンの私室へ。庭を俯瞰できる三階の部屋で、景色も日射も贅沢に。
「ここで良いよな? トールの部屋は」
つまり個室を共有する旨なんですけど。
「ジュリアンはいいので? 男と一緒の部屋で」
屋敷は広いです。空いている個室もまだあるでしょう。
「いや。そう云われるとその通りなんだが。俺様が女であることは使用人にも秘匿されているんだ。その都合上トールの性別を明かすわけにもいかないから着替えやら何やらはここでやられた方が都合が良いというか」
「使用人にも秘匿なんですね」
「一人を除いてな」
「では留意しましょう」
私も女性として此処で暮らすということだ。
「ジュリアン様。宜しいでしょうか?」
「ああ。入ってくれ」
使用人のノックと確認に軽やかに彼も応えました。
「失礼します」
そして銀髪のメイドさんが入ってきてチョコレートを振る舞ってくれます。こっちではまだ固形化に成功していないらしく、薬用の飲み物とのこと。普通に茶として飲む場合はミルクと砂糖をこれでもかと入れるそうで。
「おお。美味しい」
で、そのチョコレートに感激する私でした。
「こちらは?」
「俺様のパートナーだ。名はトール。ちょっと出先で見繕った」
「信用できますか?」
「ああ。背景は何もない。なにせ異世界の人間だからな」
「異世界の。トール様。本当に?」
「世界の手形もないので証明は難しいですけど」
おずおずとチョコを飲みつつ、そんな不穏。
「俺様が流星に願った望みだ。あながち強弁でもないだろ」
「願望機ストルガツキーの思し召し……ですか」
「そうなるんだぜ」
こっちは涼やかにチョコを飲むジュリアン。
「では機械神アンドロギュノスも」
「ああ。そうだな。これで動かせるぞ」
「しかし逆に追い込まれませんか? サクラメントも無く……」
「一応、機動能力だけならギガンテスより強いし大丈夫じゃないか?」
と、色々と意味不明な会話。
「トール様。貴女を信用して宜しいか?」
「多分思っていなくても首肯すると思いますよ? この場合……」
「ですね。では監視もしましょう。ジュリアン様を裏切らないように」
「それくらいがむしろちょうど良いかと」
ポカポカの日光を浴びつつ、静謐な個室を眺めます。備え付けのベッドの大きいこと。
「それで。トールの女子制服を都合して欲しいんだが」
「でも。あれでしょう?」
「多分それだな」
なんのことかといえば、調達にも人目は在ると言うことで。女性として見られるのは別に今更なんだけど、此処では男性とバレるとジュリアンの破滅にも繋がる。
「では調達はわたくしが」
「そうしてくれ」
彼とメイドさんは阿吽の呼吸。
「それと風呂なんですけどぅ」
と私が一番心配している件を尋ねると、
「温泉を引いておりますので」
とのこと。うーん。サノバビッチ。




