第63話:少女が見た流星06
「ストーカー養成学院」
自分で口にして唖然としてしまいます。なんというパワーワード。ジュリアンの所属する学院の名前であり、ついでにその都市の代名詞でもあるというのだから何ともはや。
「うーん」
そのことを聞いてから、都市に入るまで何とかネーミングと認識の摺り合わせを行なって、今此処にいます。
「ストーカーってストーカーですか?」
「ストーカーですね」
ストーカー養成学院の学院都市。疑問に頷くジュリアンは、試着室の私にフリフリのロリータファッションを勧めてきます。色々と事情はあるのでジュリアンのパートナーとして男でありながら女子として振る舞うのは認めましたけど、徹底的にガーリーに着飾ってみせてもいるわけで。試着室の大きな鏡でロリータファッションに身を包んだ自分を見ます。
「うん。可愛いかも」
「可愛いぞ。トール」
ジュリアンもご満悦。学院都市の手芸屋でのこと。色々な服を選んで試着しているんですけど、どれも可愛らしい。ロリータにゴスロリ。ドレスにメイド服。この辺の品揃えは流石の一言。
「それでストーカーを養成してどうするんです?」
「まぁ立身出世だな。俺様もビッグバンクに用が在るし」
その立身出世にストーカーを選ぶこの都市の住人がどうかしているような。
「なわけでとりあえずは理事長との面会だな」
「理事長……この都市の?」
「ああ。一応こっちの所有物だと認識して貰わないと後々面倒になるので」
「ふーん?」
そんなわけで服を選び終わると、理事長との面会。途中、都市を拝見するにちょっと時代後れの大学都市みたいな古典ゆかしい街並みでした。石造りやレンガ造りの建物があり、一部特化した技術が都会として機能している点も見所。その中でも特に高層建築として建てられている理事塔の一角が理事長の執務部屋と相成りまして。
「そちらが……」
と白髪交じりの老齢の男性がこっちを見ます。
「俺様のパートナーのトールだ」
「異世界の魔術師……というのは」
「本当だぞ」
「ふむ」
色々と思索しているような表情でこっちを見やる理事長でした。
「何か?」
ちょっと高級なソファに座って、薫り高い紅茶を頂いているんですけど有り難みがよく分からない俗物の私でした。
「可愛いですね」
「恐縮ですよぅ」
女装そのものは慣れている。元の世界でもしていたし、相応の恋愛も幾つか。基本的にジェンダー関連のまわりは魔術師って希薄だ。
「魔術を使えるので?」
「まぁそこそこに」
「ストーカー……を目指してるわけでは?」
「まずもってストーカーって何です?」
まさか犯罪予備軍の呼称じゃあるまいな。もちろん私の世界ではそっちの意味で使われているんだけど、多分こっちの世界では違うはずだ。
「ダイレクトストーカーの乗り手を指します。生徒ジュリアン。説明していないので?」
「実際に見せてからの方が良いかと」
ダイレクトストーカー。何ソレ?
「なわけでこっちでトールは保護します。アンドロギュノスのパイロットとしても登録して貰いますし、学院の転入も手続きをお願いしたいところ」
「承りました。あの機械神を動かせるなら相応の手続きはとらせていただきますよ。むしろ事務に回さなかっただけ有り難いですね。話の潤滑が悪くなる」
まぁ普通は事務に手続きを求めるモノですよね。
「なわけでいいですよ。承知しました。転入の方も任せてください。後は制服ですね」
「そっちは此方で用意するので」
「ええ。ではその通りに」
そんなわけでちょっとストーカー養成学院に転入することになりましたとさ。
「はー。変われば変わるものですね」
「何のことなんだぜ?」
「いえ。ちょっと文明の発達具合に差異が在りすぎるかと」
「ああ。そうだな」
混合結晶性の建物が並ぶ学院都市の街並みは、私の世界の文明ほどではないにしても、少なくとも産業革命を想起できる程度には発展していた。コンクリート製っぽい建物も多く並んでいます。
いわゆる牧歌的な情緒に富む風景だったジュリアンとの出会いの場所とは、発展の度合いがそもそも違う。
「ここはビッグバンクが所有する特異点だから。文明的には先進だぞ」
「その特異点って何です?」
この世界について考察するとチョイチョイ出てくる言葉だ。
「そんな難しい話でもないんだけど、魔術を使うための空間座標……が定義かな」
「魔術の空間」
「要するに魔力が供給できる土地柄を指す言葉だぜ。普通魔術師ってのは特異点でしか魔術を使えない。で、そのエネルギーを発生させる土地。これが特異点」
「ふむ」
要するに一部限定したエア仮説ですか。魔術の認識が私と違うのは望むところですけど。
「けれどジュリアンを襲った賊は魔法っぽいもの使ってましたよね」
「ああ。熱素剣フロギストン」
そんな名前でしたね。そう言えば。




