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第62話:少女が見た流星05


「性別を偽っていたんですね」


「その……王位継承権保有資格者として……男であると周りを誤魔化さないと生きていけなかったんだ」


「なるほど」


 金色の短髪が揺れる。ロングヘアーの私と対照的にショートヘアの彼女は、けれども実際に女性としてみるとかなりの美貌だ。もとが美少年だった印象もあり、益々その勢いは増している気さえします。


「あの。出来ればこの事は……周りに伏せていただけると」


「不必要に喋ったりはしませんから安心してください」


 もちろん意味もなく性別を偽る意味もないだろうから、相応の理由はあるのでしょう。


「母は身体が弱くて俺様を産んでから子どもを産めなくなってしまった。そんな母の娘…………じゃない……息子の俺様を父は王位に就かせたいと画策した。けれど側室の子どもやその背景にいる貴族どもは俺様が邪魔で排除しようとする。俺が女だとバレたら、それだけで王位継承の正当性が崩れてしまうんだ……」


「つまり今まで女子なのに男子として振る舞っていたとぉ」


「王位を継ぐためだ。そのためなら何でもする」


「その熱意は分かりませんけど、それで私にどうしろとぅ?」


「アンドロギュノスを動かすパートナーになって貰いたい!」


「そのアンドロギュノスが何なのかは分かりませんけど男女で動かすのは分かりますよ。でも願望機ストルガツキーに頼ってまで私を召喚する意味は?」


「背景のない男子が欲しかった。しかも表面上こっちとパートナーを結べる」


「???」


 疑問符を頭上で旋回させる。


 ジュリアンの問題はつまりこう言うことだった。


 一つ:ジュリアンは正室の唯一の王女にして男子として振る舞っている仮想王子。


 一つ:そのルミナス王国のオーパーツ『アンドロギュノス』は男女で起動するモノ。


 一つ:自覚的にはジュリアンは女性なのでパートナーは男が必要。


 一つ:だが男をパートナーに迎えると男と男でアンドロギュノスを起動するというとても腐った状況に導かれ、ついでにジュリアンの性別が嫌疑される。


 結論:表面上は女性として見られる実質男のパートナーをジュリアンは必要とする。


「――ということで?」


「だいたいあってるぞ……」


 また厄介な。それで男の娘の私が呼ばれたのですか。たしかに女装は出来るんですけど。今の服装はシャツにジーパンだけど、女の子らしく振る舞えば勘違いさせるのは無理筋ではない。


「後、その上でこっちに政治的な意を持ち込まない人物が望ましい。その意味でこの世界に義理のない異世界出身のトールがパートナーになれば背後を探ることなく迎え入れられる。だからこっちにとっては良いことずくめ」


 なるほど願望機ストルガツキーが私を選ぶわけで。


 義理がなく、背景もなく、男でありながら女子として振る舞える。ジュリアンにはマストでしょうよぅ。


「だ、だからお願いだ……。俺様のパートナーになってくれ……」


「……………………」


 利損を秤に掛けて温泉に浸かる。露天風呂からは星が見える。満天の星空って無数を意味するように表現されるらしいけど、数えると三千程度らしいですよ?


「もちろんパートナーになってくれたら全てを捧げる。奴隷になってもいい。こっちも無理を言っているのは分かってるから……抱くくらいは許容できる。プレイも応えるようにするから」


「本当? エッチな事して良いの?」


「う……」


 一つ引きつって、


「…………だ…………大丈夫だぜ?」


 明らかに強がりと分かる言葉を吐き出しました。


「首輪付けて裸で四つん這いになったり、拘束されて絶頂寸前で寸止めされたり、《※自主規制》で《※規定違反》で《※放禁用語》やったりとか?」


「えーと……そんな性癖が?」


 完全にアイスブルーの目が泳いでいた。私の世界ではそんな薄い本もありまして。


「ぷっ……あは……あははははは」


 だからちょっと笑ってしまいました。


「大丈夫ですよぅ。私はノーマルですのでぇ」


 ジュリアンの金色を撫でる。いと愛らしい彼女の御尊貌。これを好きにできるならパートナーシップを結ぶのも宜なるかな。男の娘で可愛い私と、男装の麗人でお綺麗なジュリアンと。そんなチグハグさはとてもよく合致しそうで面白そうだった。ルミナス王国の政治には興味ないから、その意味でもジュリアンには朗報なのでしょう。


「ではお世話になりますジュリアン。あなたはもう私のものですよぅ」


「ああ。俺様は肉体の所有権をトールに捧げる。あらゆる欲求をこの身体で受け止める」


「じゃあキスしていいですか?」


「レモンの味で良いのなら……」


 キス処女ですか。それは大変なモノを頂きまして。


「ジュリアン……」


「女としての名前はジュリアだぞ。此処ではそう呼んでくれ」


 ソッとジュリアン……ジュリアの頬に手を添える。ウットリと彼女のアイスブルーの双眸が柔和に歪んだ。唇が近付く。


「ん」


「んっ」


 そうしてジュリアの身体の所有権を手に入れた私は、彼女のファーストキスを無惨にも奪ってしまいました。南無八幡大菩薩。


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