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第59話:少女が見た流星02


「助太刀しても宜しいか?」


「出来るのか?」


 そっちの都合で呼び出しておいて信用もされないというのは広告的にどうなんだと。


「なんだ。やる気か嬢ちゃん? この俺を誰と心得る?」


 とは賊軍のかしらの御言葉でしたけど、知るはずもなく。


「いいからちゃっちゃと死んでください。モブにとる時間はないのでぇ」


「よく言った!」


 安い挑発に激昂する様は、まぁポンコツ。


 逆のコレで寛大なご処置を賜る方がむしろ引きはすれども。


「――マテリアライズ!――」


 呪文を唱える賊物のかしらが、その手に虚空から剣を生みだしました。


 魔術。


 やはり異世界だけあって普通に存在しますか。


「これが俺のサクラメント……熱素剣フロギストンだ! 嬢ちゃんの綺麗な肌なんて容易く焼くぞ!」


「そうなので?」


 キョトンと私は少年に視線を振ります。


「人のことは言えないけど、サクラメント持ちが犯罪に奔るのは幾つかパターンはあるぞ。役に立たなすぎて騎士として登用されなかったり、御本人に問題が在ってサクラメント使いでありながら宮仕えできなかったり」


「ふむぅ」


 色々と言葉を選んでいるような少年の言に、私もまた言葉を練ります。


「それで殺していいんですねぇ?」


「可能か?」


「この程度ならまぁ。およそ苦慮にも値しないというかぁ」


 ヒートサーベル程度でこっちに刃向かおうとする心意気だけは買いますけど。


「じゃあ取り返しの付かない傷を負ってから後悔しな!」


 およその賊の意識はむしろこっちに向けられていました。稚拙な殺意と衝動とが歪な双子となって私に纏わり付きます。それを不快だと思うのは当然ながら、それでもどちらかと云えばベタな展開に辟易もあり。ホント。フロギストンなんて私の世界では否定されているんですけど。


「――現世に示現せよ――」


 呪文を唱えます。入力。そして演算。


「――前鬼戦斧――」


 出力。風が奔ったかのように吹き抜けると、遅れてズバンッ! と物騒な斬撃音が後から追いつき。森深い山道の地面に巨大な爪痕が刻まれました。獣湯の灯が不気味にその斬撃の痕を照らします。仮にも魔術の効果なら昼間の方がまだ視覚的に合致したでしょうけど。星明かりだけだとやっぱり暗いので視覚効果が半減。かといって山道で火を放つわけにもいきませんし。むずかしいところ。


「「「「「――――――――」」」」」


 絶句する皆様方。少年も驚いたように目を見開いています。


「え?」


 何か? 魔術なら既に賊の親玉も使ってますよね? コッチが使えないとでも?


「それでどうします? 全滅するまでやるというなら殲滅も吝かではないんですけどぉ」


 あまり殺人に向いた性格ではないんですけど、禍根を根こそぎ断つのも有益で。


「調子に乗ってんじゃ――」


「――前鬼戦斧――」


 さらに斬撃。風の斬撃です。見えざる刃が賊の魔法武器を根元から折りました。


「俺のサクラメントが!」


 悲鳴を上げるのは良いんですけど、然程の魔術でしょうか?


「ていうかなんでここで魔術が使える!」


 賊の一人が悲鳴代わりにそんな御言葉。容易に聞き流せない情報が含まれており、確認も込めて話を展開します。泡をくったと言わんばかりな狼狽ぶり。


「変なので?」


「ここは特異点じゃないぞ!」


「つまり地理的な条件に左右される……と。そうなるとソッチの臭そうな中年の持っていた魔法剣はどんな扱いで?」


「サクラメントだけが例外的に使えるはずなんだ! だからボスは此処では最強で!」


 あの程度で最強が張れるなら中々平和な世界と言うべきでしょうか?


「ではその武器もアレでしたことですしぃ。叩きのめして差し上げましょ」


「俺様も加勢するぞ!」











 ――中略。




 とりあえず賊を動けなくなるまでメタメタに叩いて、それから件の少年と静かに交流を始めました。綺麗なお顔です。隙の無い美貌と、丁寧に処理された肌が好印象。生まれの違いでしょうか。本当に自然な美しさが彼の全身から迸るような。少し土に汚れた光沢のある服も、彼が上位の人間であることを示しているかのよう。


 気絶した一人も死んでいない賊連中はこの際放置で。


 ――それより何故この少年は此処に居て、私と巡り会ったのか。


「あの。貴女は……」


「荒久根透と申します」


「アラクネ……トール」


「此方の世界ならトール=アラクネ……ですかね。トールで良いですよ」


 ここが異世界なら名前が先でしょう。


「失礼をば。俺様はジュリアン=ゴールドバーグ。ジュリアンでいいぜ」


 ジュリアン。綺麗な名前だ。男性名としては珍しくもないけど。


「それで……その……」


 何か?


「トールは異世界の魔術師なんだよな?」


「そうですね。此処ではそう云うことになるのでしょうか」


 およそツチノコと遭遇するくらい有り得ない珍事ではあろうけども。


「俺の願いをストルガツキーが叶えてくれた……ってことか?」


「ストルガツキー?」


 鬱蒼とした森の中。一応星光が回りくどく照らす薄暗がりで、私は妙なテクニカルタームに意識を割かざるを得ませんでした。賊の持っていた獣湯の明かりが、一応重宝されて何と評すべきかは苦慮するんですけど。


「願望機ストルガツキー。この世界にある人の願いを叶えるサクラメントさ」


 願望機。人の願いを叶える。つまりソレが私をこの世界に招いた……。


「それでさ! トール! お願いがあるんだが……」


「何でしょう?」


「俺様を助けてくれ!」


 既に助けましたが。賊から。もちろんそんな次元の話でないのは予想の範疇でしたけど。


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