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第58話:少女が見た流星01


 気付けば宇宙に放り出されていました。


 正確には見たことのあるような……けれど決定的に違う星の大気圏スレスレ。空気の希薄な場所から星の重力に捕まって落下していきます。大気圏の摩擦熱が私を襲いますけど、流星となるこの体験はちょっと私のようなパンピーには得がたい経験で。誰かがこんな私の燃え尽きる煌めきを見て願い事を口にするのでしょうか?


 そんなことを思いつつ、軌道の関係で星を一周してしまいます。ある程度大気に馴染むと、今度は寒い風が私を叩きつけました。ビョウビョウと吹く寒冷の風。穏やかに流れる雲。その雲に突っ込んで、まるで濃霧のような景色を体験します。何処までも何処までも堕ちていく。本当にパラシュートも無しに。けれど死なないだろうなぁ程度は把握もしまして。もし仮にここで死ぬのなら、そもそも大気圏突入で燃え尽きていました。だからソレを終えて高所からの落下……要するに星の重力で星の表面に叩きつけられても死なないんだろうという理由もない確信に満ちていて。雲を抜けると下に雄大な景色が広がります。おそらくスカイダイビングか高所落下自殺でもしないと見ることの出来ない景色。髪がバサバサと揺れて、肌寒い空気が少しずつ暖かくなって、どんどん地上が近付いてくる。


 私は大の字で身体と四肢を広げて風いっぱいに受けて落下します。


『助けて』


 誰の声でしたでしょう?


 けれどソレも分かるでしょう。


『――おそらくこの世界に召喚した何某か』


 コレに尽きるのでしょうから。いわゆる異世界召喚と呼ばれる手法。ここは地球によく似た地球ではない星。少なくとも星を一周して夜を見たのですけど、先進国の夜を塗りつぶす都会の明かりは地上にはありませんでした。


 とはいえ、異世界そのものは向こうの……本来の世界でも肯定的に扱われていましたし。


 ズガンッ!


 そして落下。深い森の中。叩きつけられるように……というか叩きつけられて、ミートフリカッセになってもおかしくない衝撃で不時着した私を、幾人かの人間が何事かと凝視していました。


「あー。星になりましたねぇ」


 異世界召還時に何かしらの力が働いたのでしょう。防護フィールド。あるいは概念防御か。ここに不時着したことまで含めて、おそらく異世界召喚の段取り通りというか。


「なんだテメェ?」


 で、どことも知れぬ森の中。山道のある一角で。まぁ空から人が落ちてきたら常識を疑いますよねソレは。コッチとしては既に異世界であることが把握できているので、あまり強い感慨は持ち得ず、ザッと状況を確認する。星明かりしかないはずの夜の闇に不自然な獣湯の灯火が太陽の代わりとなって焚かれています。およそ相手はガラの悪い……。


「賊?」


「だな」


 ちょっと綺麗に整頓された武具と装備。その剣先を少年に向けている騎士っぽい人たちでしたが、その淀んだ瞳の光だけは殺意を雄弁に物語ります。少年の山道の護衛……にしては敬意も何もあったモノでは無く。つまり賊です。


 一人の少年を複数の賊が囲んでおりました。ベタだ。となるとその少年が私を呼んだのでしょうか。それにしては魔法陣も呪術触媒もないような。そもそも大気圏突入は必要だったのか。そう思っていると、賊もそうですけど、少年も目を見開いていました。


「降ってきた……本当に……ははは……俺様の願いがストルガツキーに届いた!」


 金色の髪。アイスブルーの瞳。処女雪のように白い肌。およそ美少年と呼ぶに相応しい彼は、その不可解に奇蹟と云う名を付けています。賊連中はこっちの参上に困惑する辺り自覚性皆無なので、おそらくこの美少年が……。


「さて。そうなると」


 シャツにジーパン姿で、わざとらしくパンパンと埃をはたきます。


 濡れ羽色と褒められたことのあるロングヘアーにも傷が付いていないか確かめつつ、此度の異世界召喚を受け入れる姿勢を整えて。


「ハロー。タロー。浦島太郎。ここって管楽器でファンファーレを鳴らして逆転する場面でございましょぅ?」


 ちょっとウィットに富んだ軽やかジョーク挨拶から。だが相手方もこっちの数が数えられては脅威とも思ってはくれないようで。


「へえ。いい女じゃねえか。上玉だ」


 それは恐悦至極でして。


 およそ鏡で見た記憶では濡れ羽色のロングヘアーを持つ大和撫子然とした少女顔が張り付いているはずです。小鼻で二重で……瞳は少し大きい方。こっちとしては美少女扱いも満足のいくモノでありまして。


「胸がないのは残念だが……ここでは贅沢も言えねえな」


「犯す気か!」


 金色の少年が憤慨するように言葉を吐露。でも普通に考えて分があるのは賊物さんの方で。そりゃ私を見たら男は欲情するでしょうよ。


「どうやって降ってきたかは知らんが……嬢ちゃんも運がない」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる賊物の皆様方は、まぁモラルの破壊が著しい。腐臭のする笑みというのはこう言うモノなのでしょう。装備が良いのでこれで清く正しく生きているならまだ騎士団に見えたかも知れませんが、少年一人を十人で囲うとなれば、それはそれは哀しいくらいに悪役敵役に落ちぶれまして。


「そちらの少女!」


 とは美少年様の御言葉。


「逃げてください!」


「この場合逃げられるんでしょうかぁ?」


「ぐ」


 返答に詰まる彼を恨んでもしょうがないんですけど、状況の切羽詰まり具合はまぁ規定事項。にしても賊に襲われている美少年救出イベントとか。


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