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第56話:エピローグ


 パワー砦は熱に浮かされていた。特にパワー。


「よくやった……よくやった……!」


 蒸留酒をラッパ飲みしながら機嫌よくバシバシと僕の背中を叩くパワー。よほど最愛の妹が戻ってきたのが嬉しいらしかった。気持ちはわかるけどね。


「…………」


 僕はと言えばオレンジジュースをズズーッとすする。


「しかして蒼の国の七機のダイレクトストーカーを全て無力化するとは。最強じゃないかお前?」


「そんな自負は無いんですけどね」


「何はともあれ感謝する!」


 バシバシ。


「これで気持ち良く酒が呑めると云うものだ」


 つまり、


「僕がもっと美味しい酒の呑み方を教えてあげますよ」


 と吐き捨てたセリフを覚えていたらしい。グイグイと蒸留酒をラッパ飲み。死ぬぞ。


「別にパワーは関係ない。フォースの友達としてするべきことをしたまでだよ」


「それでも、だ」


 バシバシ。


「お前は格好いいな上泉」


「恐縮です」


 心にもない言葉を吐く。


「うむ!」


 と深く頷くパワーだった。


「よし! 決めたぞ!」


 何でっしゃろ?


「私をお前の嫁にやろう!」


「…………」


 沈黙以外に反応があるなら聞いてみたい。


「何だ?」


 酒を一気飲みしながら不機嫌に眼光を鋭くさせるパワー。


「私では不満か?」


「畏れ入るばかりです。分不相応ですよ」


「まぁそう言わず」


 パワーは僕の手を掴むと自身の豊満な胸に押し付けた。


「どうだ?」


「と言われても」


 童貞ゆえに感想なぞない。


「お前が望めばこの巨乳を好きに出来るぞ?」


「マジで?」


「マジで」


 ううむ。それはなんと魅力的な……。


「はっ」


 状況に流されやすいのは僕の悪癖だ。


「この二つの胸で挟んであげられるぞ?」


 一生分の我慢だ。高ぶる自分とは別に情欲を押さえつける自分。こういうところが童貞だと言われるんだろうけど。


「あーっ!」


 と悲鳴を上げたのは三人。かしまし娘だ。


「……お姉ちゃん……駄目。……信綱は……私のもの」


「違いますわ。信綱は私のものです」


「お兄ちゃんはアリアのもの!」


 四人そろって僕の何がいいんだか。


「…………」


 言葉にはせず黙り込む僕だったけど。


「……信綱は……私を助けてくれた」


 友達だからね。


「信綱は私の命の恩人ですわ」


 解毒したのは僕じゃないんだけどね。


「お兄ちゃんはアリアのご主人様!」


 誤解されること言わないの。


「信綱は私を救ってくれた」


 別にパワーのためだけってわけじゃないんだけど……。


「……っ!」


「……っ!」


「……っ!」


「……っ!」


 フォースとミシェルとアリアとパワーが三色の視線を交差させる。


「ガルル!」


「グルル!」


「フシーッ!」


「フシャー!」


 獣と化して威嚇し合う四人の美少女たちだった。


「……信綱」


「信綱」


「お兄ちゃん」


「信綱」


 何でっしゃろ?


「……私が……一番だよ……ね?」


「私こそが一番ですわよね?」


「アリアが一番でしょ?」


「私が一番だろう?」


 ……何と言ったものか。


「別に順列をつけるほど傲慢じゃないんだけどな」


 降参とハンズアップ。


「……私は……信綱を……愛してる……よ?」


「私は信綱を慕っていますわ」


「愛してるよ。お兄ちゃん?」


「私の嫁になる腹積もりだろう?」


「却下」


 僕はズズーッとオレンジジュースをすする。


「そんな……!」


 これは四人の娘の総意。


「僕はどこまで行っても僕の味方だ。僕の都合で善行を行なっただけだから君たちに感謝されるいわれはないよ」


 プイと明後日の方を向く。


「……童貞」


「童貞ですわね」


「お兄ちゃん……」


「睦言に畏れ入るとはな」


 うるさいなぁ。童貞で何が悪い。


「……ちなみに私は……処女だよ?」


「私とて清らかな体ですわ」


「アリアはトテチタニウムだから処女抱き放題だよ。それも色んな美女に変質せしめることも出来るし!」


「私の豊満な胸を好きにしたいと思わないか?」


 がんばれ僕の理性。


 リビドーなんかに負けるんじゃない。


「あ、ジュースおかわり」


 飲み物を配布していた兵士に声をかける。


「……話を聞いてよぅ」


「大事な話ですわ」


「お兄ちゃんは不誠実!」


「私に魅力は無いか?」


 そんなつもりじゃないんだけどね。


「……ともあれ……信綱は……お姉ちゃんであっても……渡さないよ」


「私が貴族として歓待しますわ」


「お兄ちゃんに尽くしてあげる」


「私の部下と成れ。准将の地位を約束しよう」


 あの手この手で僕に興味を惹かせようと四苦八苦するカルテットだった。


「好きにしてよ……もう……」


 ジュースを飲みながらカルテットの愛情表現にうんざりする僕だった。


 はい。童貞ですよ。それが何か?


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