第55話:乙女に神風の舞い降りて18
最初の敵は黄のダイレクトストーカー。
マテリアルショットガンを撃ったソレだ。
散弾は剣撃でのアンチマジックと相性が悪い。
「ちぃ!」
舌打ちし黄のダイレクトストーカーは後ろに下がった。
が、遅きに過ぎる。
僕は一瞬で目標へと間合いを潰す。
別に斬撃剣村正は信号兵器であるため刀身射程に際限は無く、星さえ両断できるのだけど、誤って蒼の国の国境砦を切り裂いてその剣閃の軌道上にフォースがいるかもしれないことを思えば安易に伸ばすわけにはいかなかったのだ。
「縮地!」
正解。
白のダイレクトストーカーが魔術を起動させる。
「マテリアルガード!」
おそらく名称からして防御の魔術だろう。思考強化によって意識の固有時間を引き延ばしながら冷静に僕は考察した。
仮にそうだとしても村正の前には有象無象にゃんだけどね。
村正を振るう。
速度は超神速。
運動能力だけを見るなら少なく見積もっても目の前の蒼の国のダイレクトストーカーの五倍は疾い。
一瞬で信号である村正は敵機の防御をすり抜け四肢を断裂するのだった。
「ダイレクトストーカーが縮地を使うだと! 理論上不可能なはずだぞ!」
目の前に実例がいるんだから納得しとこうや……。実際ダイレクトストーカーの重量では人間の運動能力を信号通りに百パーセント再現することは不可能だと講義で習った覚えはあるけどハイオリハルコンで出来ている神風については例外だ。
なお僕の運動強化の魔術をもってすれば鬼に金棒をという比喩さえ届かない領域である。
四肢をもがれて地面に伏すしかなくなった黄のダイレクトストーカーを踏み越えて次のダイレクトストーカーに向かう。
今度は赤色だ。
既に魔術は撃たれていた。
「サンシャインスフィア」
太陽の名を持つ巨大なファイヤーボールである。
スケールリミッターから解放された魔術師特有の強力な魔術と言えよう。僕に退魔剣正宗が無ければね。
正宗の斬撃を受けてサンシャインスフィアは雲散霧消する。
そして縮地。
神風が一瞬で赤いダイレクトストーカーに迫ると手に持つ村正を四閃。四肢が断裂させられて赤いダイレクトストーカーは黄のソレと同じ末路を辿った。
次は白いダイレクトストーカーだ。
「レーザーカノン!」
光を収束させて攻撃に変える魔術。やはりスケールリミッター以下略。
もっとも腕を突き出す予備動作や呪文の名称から推測して攻撃の質と軌道をあらかじめ悟ればいくら光の速さとはいえ対処するのは簡単だった。
正宗がレーザーを切り払う。
そして二度目は無い。
縮地で間合いを詰めると村正で無力化。
もはやルーチンワークだ。
次は青色のダイレクトストーカー。以下略。
最後に緑色のダイレクトストーカーに襲い掛かろうとして、
「それまでだ! それ以上の蛮行を行なうならばフォースの命は無いぞ!」
そんな声が聞こえてきた。
が、無視。
僕は緑のダイレクトストーカーを無力化させた。これで蒼の国の国境砦はその戦力を失ったわけだけど……はてさて。
「さて、じゃあ交渉しましょうか」
完全に砦を攻略し尽くした後の交渉であるため果てしなくこっちが有利だ。そのためにわざわざダイレクトストーカーの起動を待ってねじ伏せるという荒行を見せつけたのだから。
思考強化による固有時間の引き延ばし。
運動強化による機動の迅速化。
斬撃強化の延長線上にある斬撃剣村正。
退魔強化の延長線上にある退魔剣正宗。
四つの魔術を過不足なく扱い、彼我の戦力の違いをわからせる。こうなればたかだかフォース程度を握る潰すことで受けるメリットとデメリットが逆転するのだ。
「フォースを返してくれればこれ以上の蛮行はしないよ?」
紳士的に交渉する。もっとも危惧は一つだけある。大佐に居場所が無いことだ。フォースを捕えてヴォジャノーイごと蒼の国の国境砦に逃げ込む。それはいい。だが結果として、そのせいで大佐は国境砦に厄介事を持ち込み、計七機のダイレクトストーカーを無力されるという大参事を起こしたのだ。もはや裏切った燈の国も、媚を売った蒼の国も、大佐を受け入れはしないだろう。追い詰められた大佐が何をするかわからない。それは五機のダイレクトストーカーを相手取るより厄介な事柄だった。結果として杞憂に終わったけど。砦の兵士たちが大佐を抑え込み、フォースを返してくれた。
「待て! 待ってくれ! ソイツが……フォースがいなければ私は……!」
黙らっしゃい。
返してもらったフォースを神風の手に乗せる。燈色の瞳は「わかっていた」とばかりに揺らめいた。
「大丈夫だった?」
問う僕に、
「ええ、信綱との約束を糧に」
コックリとフォースは頷く。
「君の心が安んずるときは僕の心も同じく安んずる。君が涙を流せば僕は君を慰める。君が心を痛めたのなら抱きしめて大丈夫と囁こう。そして君に危険が迫れば命を懸けて助けてあげる」
フォースが諳んじたソレは僕とフォースの約束にして契約。そしてその通りに僕は自らの役目を果たしたのだった。




