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第53話:乙女に神風の舞い降りて16


「何か言うべきことはないのか?」


 切れるような目でパワーが問うてきた。


「言うべきこと……と言われましても……」


 頬を掻いて困った風を装う。


 ちなみに先の言は重複表現になるだろうか。


 どうでもいいですねごめんなさい。


「妥当な判断じゃないですか?」


「大切な妹を切り捨てることが、か?」


 うーん。


 言葉を選ぶのに苦労する僕だった。


「よくフィクションの……それも英雄譚で主人公が言いますよね……。『大切な人を守れないで大勢の人間が守れるか!』って。僕はそういったテーマ……というかプロパガンダは嫌いなんですよ……」


「その心は?」


「大切なモノが二つあってどちらかを切り捨てなければならないなら……どっちを選んでも合理性は損なわれないでしょう?」


「…………」


「だいたい大切な人を救うこととその他大勢を救うことを天秤にかけて前者を拾えないのが悪だと断じるならソイツは大層お気楽な人生を歩んできたに違いありませんよ。少なくとも同じ立場なら僕だってフォースを見捨てるのが得だと思いますしね」


 苦笑してしまう。


「私は最低の姉だ」


「もっとお気楽にいきましょうよ」


「元々私とフォースはポテンシャルの面において相似している」


「というと?」


 パワーはグイと蒸留酒を一気呑み。アルコールの息を吐いて言葉を続ける。


「魔術師の素養は血統によって優劣や早晩が決まる」


 それについて僕はむしろ否定的だ。


 少なくとも基準世界においては剣聖であり剣の魔術師であった上泉伊勢守信綱の長い血統血脈において裏上泉文書を再現できたのは僕だけだ。


 即ち血の因果と魔術の素養は関連性がなく再現性もないと論ずるに否やはないと結論付ける。


 こっちの世界でも同じであるとまで確信してはいないけどね。


「私たちの血統は魔術師の素養はあるものの晩成の大器。ある程度年経ないとその能力を開花させられない」


 ふーん。


「そして才能が開花し一流の魔術師となり女王陛下によって将軍に迎えられた私の有能さがフォースを追い詰めた……」


「つまり?」


 これはアリア。


「パワー少将の妹でありながら劣等生に甘んじなければならないフォースの劣等感と圧迫感と責任感はとても察してやれるものじゃない……。私なんかがいるからフォースは常に私と比べられて唾棄されてきた。友達が出来ないのも衆人環視に蔑視されるのも全ては私の責任だ。それをわかっていながら私はぬけぬけと劣等感に苛まれるフォースを慰めてきていた。その原因が私であることを無理に忘れてな……」


「ふむ……」


「酷い姉だよ……本当に……。そして今もまた私のせいでフォースは危険に晒されている。私との交渉材料になるだろうというその一点のみで」


 グビグビと蒸留酒を一気呑み。


「悪癖だなぁ」


「何がだ?」


「状況に流されやすい僕の性質が」


 にゃははと笑って見せる。


「?」


 パワーにはわからないみたいだ。それも当然か。あくまでこっちの問題だ。


「女の涙ほど酒を不味くする肴は無いなぁ……なんて」


「お兄ちゃんのかっこつけ」


 どうとでも言えぃ。


「とりあえず将軍の意見はわかりました。それでは~」


「何処に行く?」


 愚痴をこぼせる話し相手が欲しかったのだろう。引き留めるようなパワーの言。


「僕がもっと美味しい酒の呑み方を教えてあげますよ」


 首だけ振り返ってウィンクすると僕はアリアを連れて執務室を出ていった。


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