第48話:乙女に神風の舞い降りて11
遠征実習。
それはパワー砦の戦力として育成されているストーカー養成学院の生徒に実戦訓練を積ませるための単位である。
高等部からこの単位は存在し、一人につき一年に一回のサイクルで行なわれる。
つまり一応のところ講義の一環である。
経験に勝る講義無し……とでも云うのだろうか。実戦経験を積むための単位ということらしかった。
さすがに一人で砦に居座るのは感情が損なわれるということで遠征実習には複数人で向かうのが必然だ。
そして友達の少ないフォースにしてみれば僕とミシェルとアリアを選んだのは妥当だったろう。
そんなわけで僕はまたパワー砦に戻ってくるのだった。
「何だか懐かしいね」
ピリピリとした緊張感やあくせくした労働感は『ここがロドスだ。ここで跳べ』に通じるものがある。何時の世も人は戦争から逃れられないらしい。それが基準世界であれ準拠世界であれ。
「で?」
僕はパワーに問う。
「こんなところに来て何すればいいのさ?」
「ストーカーとしての心構えを持ってもらう」
と言われてもね。
「少なくとも一回以上は哨戒任務に就き、それ以外でも軍属としてのトレーニングをこなしてもらう」
「つまり実戦方式の単位ってわけだ」
「然りだ」
コクリとパワーが頷く。燈色の瞳に映るのは同色の髪を持つ少女だった。フォースを哨戒任務に就かせることを憂えていることはそれだけで見て取れる。
「ともあれ歓迎しよう。ここがパワー砦だ」
それくらいは知ってるけどね。言うまでもないか。
そげなこつでどぎゃんなったかっちゅえば、
「ホ~ムラ~ン!」
神風が敵対しているダイレクトストーカーを退魔剣正宗で夕空へと打ち飛ばしていた。
砦での訓練は基本的にハートマン軍曹方式による過激な肉体訓練と魔術練度の向上訓練とダイレクトストーカーの操縦(正確にはダイレクトストーカーはブレインマシンインタフェースによって搭乗者の脳信号をクラックするもののため操縦という表現は間違いなのだけど)訓練の三通り。
午前中は走り込みに始まり腹筋運動や懸垂運動などを過剰なまでにやる。
僕の基準世界における訓練とさして変わるモノではなく準拠世界……つまりこっちの世界に来てからも筋力トレーニングは欠かしていないので感想としては「こんなものか」と云った次第。
がフォースとミシェルは胃液を吐いた。朝飯ごと。
ダイレクトストーカーの訓練に体力はいらず、魔力の吸収と演算と出力が出来れば問題ないため学院では過度な運動を要する単位は存在しない(と聞いている。実際がどうかはともあれ)。
午後の前半は魔術の訓練。とはいえ攻性魔術を乱打するような物騒な真似はしない。
魔素魔力変換効率を向上させる訓練だ。
ミシェルは優秀。
フォースは中の中。
僕は論外でアリアは免除。
事情は通じてるからいいんだけどねん。そして午後の後半からダイレクトストーカーを使った実戦訓練。こっちの……つまり準拠世界は魔素が基準世界の数百倍の濃度である。
そうである以上魔術が文明に根差すのは必然で軍事利用されるのは当然の帰結で即ち魔術を強力に扱えるようになるダイレクトストーカーの練度がこの際国力に直結する。そういう意味ではストーカー養成学院の設立は自然だ。
下天の内をくらぶれば夢幻の如くなり……というほどに人間はどうしようもなく劣化する。そして政治的判断は十年二十年……あるいは百年先を見据えて運営せなばならない。
次世代のストーカーを養成し兵力として採用するのはまっこと自明の理というわけだ。




