第31話:月は何故落ちてこないのか?09
というわけで僕とオレンジは混浴……というか一緒にお風呂を楽しんでいた。僕がオレンジの体を洗い、オレンジが僕の体を洗う。オレンジは僕の体に興味津々だったけど、まぁ一部を除いて見られて困るものは無い。別に全部見られたって気にしないんだけどね。僕も僕でオレンジの体を洗ったのだから犯罪的だけどちんちくりんなのがこの際の問題だ。
「信綱は私に興奮しないんだよ?」
「しないんだよ」
だよ語で返す。
「抱いても良いんだよ?」
「おっぱいがCカップになったらもう一度言って。前向きに検討するから」
「むぅ……」
自身のお粗末な胸をふにふにと揉むオレンジだった。ちんちくりんであるためしょうがないというか業というか……。
「ちなみにオレンジは色んな人に似たようなこと言ってるの? まさかその年で非処女だったりするの?」
「そんなわけないんだよ」
「処女?」
「処女だよ」
ならいいけどさ。別にオレンジが非処女だからって僕が困ることはないんだけど、何となく忌避感を覚えてしまうのは僕がまだ若い証拠だろうか?
とまれかくまれ。
「信綱。またあっちの世界の話をして、だよ」
オレンジ陛下は異世界に興味津々だった。
基準世界と準拠世界の概念から入って相互作用だったりネットリテラシーだったり日本食についてだったり色々と話していた。日本食については僕に出来る程度であれば作ってあげると約束もしていた。
再度とまれかくまれ。
「じゃあ今日はミクロな話をしよっか」
「ミクロな話だよ?」
さいですさいです。
ちなみに僕とオレンジは二人そろって肩まで湯につかりオレンジが裸体のまま僕の裸体の腕に抱きついている形だ。ギロチンが幻視出来るけど気のせいだろう。オレンジ曰く、
「信綱の腕は逞しくて抱きがいがあるんだよ」
らしい。上腕にオレンジの残念な胸がピタリと引っ付き、僕の手はオレンジの大事な部分と高低差を等しくしている。悪戯する気は毛ほども無いけど。
三度とまれかくまれ。
「ミクロな世界を顕微鏡……は無いだろうから、それ相応に適した望遠鏡で覗いてみよう。何が見えると思う?」
「何が見えるんだよ?」
質問に質問で返すな……というのは酷だろう。
「存在の最小単位が見えるんだな」
「私、それ知ってるだよ」
「ほう?」
だいた~い想像つくね。
「火素、水素、風素、土素、魔素の五つの構成原子によって世界は形作られてるんだよ?」
「エンペドクレスの四大元素論ね。結論から言えば間違いです」
「違うんだよ?」
「違うんだよ」
コックリ。
「そもたった四つ……この場合は魔素を含めて五つか……の元素で世界が説明できるなら訳ないでしょ?」
「むぅ……」
唸るように思案するオレンジ。僕はその間にお風呂を楽しむ。ちなみに王都は温泉が出るらしく、王族専用のこの浴室も温泉の恩恵らしい。二週間かけて王都に来た道中では魔術で風呂を作っていたのには僕とて感心したものだ。馬車の荷台を宙に浮かせる魔術や、お風呂を作り出す魔術。決して魔術が人を傷つけるだけの可能性ではない示唆は戦闘向けの魔術しか知らない僕に羞恥を覚えさせた。魔術も使い方次第だ。
四度とまれかくまれ。
「じゃあ存在の最小単位って何?」
「僕の居た世界じゃ……とは言ってももう向こうの世界を離れているからパラダイムシフトが起きてるかもしれないけど……一応は量子ってことになってるね」
「量子だよ?」
「量子だよ」
「ふむ、だよ……」
「これ以上分解出来ない森羅万象の最小単位。これを以て量子というんだけど実はこの量子……ちと説明が面倒くさい」
「単純に最小単位じゃないんだよ?」
「それはそうなんだけどミクロの世界はマクロの世界とは違う法則で物事が動くのさ」
「例えばだよ?」
「量子が突然消えたり発生したり瞬間移動したり二つに増えたりするんだな」
「?」
首を捻るオレンジ。
うん。気持ちはよくわかる。




