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第29話:月は何故落ちてこないのか?07


 王都についた。


 僕とオレンジは馬車の中でだるだる~っとしているだけだから疲れてはいないけど大名行列を作っている護衛の兵士さんたちにしてみればいい面の皮だ。


 気にしてないけどね。


 王都は当たり前だけどストーカー養成学院より隆盛を誇っていそうで、市場には流動性の活発さが想像できた。ここまで大勢の人間を見るのはこっちの世界に来てから初めてのことかもしれない。


 隆盛を誇って「いそう」で、流動性の活発さが「想像」できたと言ったのには理由がある。馬車から窓の外を見る。売り買いは今現在行なわれてはいなかった。馬車にて横切る王都の住人は例外なく平伏していた。


 本当に大名行列らしい。見ていてあまり気持ちのいいものではない。


「オレンジ……何とかならないの?」


 辟易としてオレンジに言うと、


「う~ん。私もどうかとは思うんだけど平民の不文律みたいなものだから王命で止めろとも言い難い状況なんだよ……」


 オレンジは困ってしまった。


「なんというか……王侯貴族とかストーカーには逆らわぬべし……って意識がこっちの世界にはあるんだよ。特にこの燈の国はその傾向が強いだよ」


「オレンジが王様なのはどうせ世襲によるものなんでしょ? 自分の力によって得たモノじゃないんでしょ?」


「聞き捨てならないだよ」


「だって王侯貴族って世襲制じゃないの?」


「王侯貴族はノーブレスオブリージュの体現者でなければならないっていうのが燈の国の共通認識だよ。だから必然魔術師……というよりストーカーの能力を持った人間が選ばれるんだよ。世襲制が無いとは言わないけど……だよ」


 あれ?


「もしかしてオレンジも魔術師?」


「当代王候補の中で特筆すべき魔術の素養があったから私はお父様……先代の王から王位を受け継いだんだよ」


「はぁ」


 そんなことを言っている内に馬車は城内へ。オレンジと僕は使用人に手を取られて馬車から降ろしてもらった。


「まぁ見ていてだよ」


 オレンジは馬車から降りて地面に足をつけると、右手を青空に向けてかざした。その手の平が握り込まれた後、親指と食指がピンと伸びて指鉄砲の形を作ると呪文を唱える。


「ファイヤーワークス!」


 おそらく魔術における条件付け……呪文なのだろう。それくらいはわかる。大気中の魔素を吸収し魔力に変えて熱力学第一法則を無視した現象を起こす。即ち魔術だ。


 青空を指差している人差し指が光を生むと、その光は天高く昇って大きな花火となった。まさにファイヤーワークス……花火である。


「お見事でございます」


 使用人や護衛の兵士たちが王を褒め称える。愛想がどれだけ入っているか……それはわからないんだけど。


「王侯貴族こそ戦士たれ。それ故に私たち燈の国は蒼の国や白の国と戦ってこれたんだから……だよ」


「……にゃるほど」


 少なくともお飾りではないというわけだ。


「じゃあオレンジも……」


 周囲の人間に戦慄が奔る。まぁ女王陛下を呼び捨てればそうなるのは自然なことだ。


「ストーカーなわけ?」


「そうだよ。私の……というより燈の国の王にのみ許されたダイレクトストーカーは後日見せてあげるんだよ」


 有難いやら否やら……。


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