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第24話:月は何故落ちてこないのか?02


 次の日。僕は早朝に目を覚ますと両腕に絡みつく質量を感じて不思議に思った。結論はすぐ出たけどね。


「にゃるほど……」


 キングサイズのベッドの中央に僕が寝転がっており、僕の両腕にそれぞれ二人の美少女が抱きついている格好だ。神に誓っていかがわしいことはしてないよ。無神論者だけど。


「どうしたものか」


 困ってしまって少しだけ唸り、それから乱暴に少女たちの抱きつきを振りほどいた。少女たち……即ちフォースとミシェルは起きることもなく舟をこいでいる。腕が寂しいらしいので際に有った抱き枕に僕の腕の代わりを務めてもらうことにした。


 それから欠伸をしてベッドを抜け出す。そういえば昨日からミシェルの部屋にフォースともども移住したんだったっけか。やけに広いベッドに燈と赤の美少女をはべらせて寝るってのも犯罪の匂いがするなぁ。いつもの通り状況に流されているだけだけど。


「それにしても……」


 僕を禁欲主義者だと思われるのは心外だ。僕だって人並みの性欲はあるし、フォースにしろミシェルにしろ魅力的かつ蠱惑的な美少女だ。いつ状況に流されて事をいたすかわかったものではないのだけど、その辺をあの二人は理解しているのだろうか。


 いやまぁ二人の気持ちも察せないほど鈍感でもないけど愛なき行為はデメリットしか生まないのも事実で……。人、それをヘタレと云う。ともあれ僕は寝間着を脱いで学ランに着替えると寝室を出た。


「おはようございます、上泉様。お早いご起床ですね」


「どうも」


 太陽がようよう上ろうとしている時間だ。異世界だろうと六十秒が一分で二十四時間が一日で三百六十五日が一年なのは変わりない。準拠世界準拠世界。


「先に朝食を御取りになられますか? お飲み物を求められるなら準備しますが」


「じゃあホットコーヒーで」


「承りました」


 慇懃に一礼してミシェルの使用人はキッチンへと引っ込んだ。同時にピンポーンとインターホンが鳴った。とはいっても基準世界のインターホンとは構造が違う。魔術によるものだ。使用人に応対を任せるのが自然なのだろうけど、別に手を煩わせることもないかと思い僕が玄関対応をした。


「はいはーい?」


 玄関を開けると燈色の少女が目に入った。思考強化。少女は燈色の長く、しかして手入れの行き届いている艶やかな髪を持ち、パッチリとした眼は燈色の瞳孔を備えていた。小鼻美人……というか美少女で年齢的には僕やフォースやミシェルより少し年下だろう。


 将来が楽しみな少女だ。


 ちなみに燈髪燈眼といってもパワーやフォースのそれより少しだけ明るい。オレンジ色……と云う認識がしっくりくる。服装は簡素であったけど光沢がある辺りに気品を感じさせ、しかしてオレンジ色の美少女が纏っていても嫌味を感じさせない。危ういバランスを見事に渡りきっているのだ。


「ミシェルと同じく貴族の出なのだろうか?」


 そんなことを思う。ここがミシェルの部屋である以上家主は決まりきっているし、こんな不当な時間に玄関ベルを鳴らすはた迷惑な魔術師がいるとしたらミシェルに遠慮のいらない立場の人間であることの予想は簡単にたった。以上、一秒以内の僕の考察である。そして僕は思考強化の魔術を取り止めた。固有時間が日常に回帰する。


「どちら様?」


 僕は問うた。


「オレンジって云うんだよ」


 オレンジ色の美少女は快活に名乗った。あっはっは。まんまじゃないか~。


「生憎と家主は寝てるよ。起こしてこようか?」


「寝かせておいてあげようよ。それよりあなたが上泉伊勢守信綱だよ?」


「上泉か信綱でいいよ」


「じゃあ信綱」


 あっさりと名の方をとられた。いい根性しているね、このちんちくりんは。


「いやはは、お恥ずかしいだよ……」


 しまった。声に出してしまったらしい。


「まぁちんちくりんついでに僕に用?」


「うん、だよ」


「聞くだけ聞いてあげよう」


「私の家に招待したいの」


「間に合ってる」


「お~ね~が~い~」


 オレンジ色のちんちくりんは僕の学ランの袖を握って振り回した。


「ええい。離してよちんちくりん」


「いっぱい歓待するよ? 良い目を見せてあげるんだよ?」


「なら恵まれない飢餓の人間たちに良い目を見せてやってあげて」


「それは大臣の仕事だよ~」


「さいでっか」


 と、ここで漸くミシェルの使用人登場。メイド服姿で僕を見ると謝罪してきた。


「私の仕事でありますのに申し訳ありません上泉様。お嬢様にご来客で……しょ……う……か……え……あら……?」


 竜頭蛇尾とは違うけど使用人の言葉の最後の方が掠れていた。その視線はオレンジに焦点を合わせていて、驚きで瞳孔が開いている。


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